グッバイ童貞

阿波野治

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秘密基地での尋問②

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 言葉通り、三花はすぐに戻ってきた。手にしているのは、大量の結束バンドが封入された袋。
 ペン型ライトを胸ポケットに収め、牛女を蹴って俯せにさせる。結束バンド同士を接続して延長し、両手首を後ろ手に縛り、両足首も縛る。感嘆させられるというよりも、苦笑したくなるような手際のよさだ。

「おい、起きろ」

 ポケットから取り出したライトで牛女の顔を照らしながら、剥き出しの尻を続け様に平手で打つ。一見戯れに打擲しているようで、その実、一発一発に相当な力が込められていることが、音の強さから読み取れる。
 しかし、牛女は目を覚まさない。

「んー、駄目か」

 甲高く響いた一発を最後に、打擲の嵐がやんだ。尻は全面、淡い桃色に変色している。三花はペン型ライトを逆手に持ち替える。何かやるな、と思って見ていると、

「うりゃっ」

 いきなり、手にしているものを牛女の肛門に突っ込んだ。

「うえいあっ!?」

 牛女の口から裏返った奇声が放出された。双眸が見開かれ、背中が大きく弓なりに反れる。半分ほどが体内に埋もれたペン型ライトは、持ち手ではない方の一端を外に向けて、相も変わらず白い光を放っている。
 やりやがった。ていうか、予想できるかよ、こんな馬鹿げた蛮行!
 牛女は陸に揚げられた大型魚のように体を暴れさせたが、すかさず三花が馬乗りになって鎮圧した。女の頭に背中を向ける体勢だ。

「こんにちは、殺人鬼さん。さっきあなたと戦った者だけど、何か質問はある? 一つだけなら答えてあげてもいいよ」
「こ、ここはどこだ……」

 発せられた声は、被り物を被っていた時とは打って変わって、若い女性らしい高音だ。

「あたしの秘密基地。……あーあ、無駄な質問しちゃったかもね。チャンスは一回だけなのに」

 サディスティックに口の片端を吊り上げ、尋問が始まる。

「牛女さん。あなたにはこれからいくつか質問をするから、厳格な親に躾けられた子供みたいにちゃんと答えて。渋るようなら、あなたが想像している通りの目に遭うことになるから、そこのところよろしく」
「――なあ、正面に移動しない?」

 アリッサに声をかけると、夢から醒めたばかりのような顔で俺を見返した。その顔はあっという間に恐怖に塗り潰され、体が小刻みに震え出した。二の腕を掴むと、こちらが驚いてしまうくらい大きく肩が跳ねた。

「ほら、行こう」
「……はい」

 蚊の鳴くような声で返事し、俺が進む方についてくる。
 全てを諦めたような弱々しい声を聞いた瞬間、俺はアリッサに強烈な愛おしさを感じた。と同時に、三花が牛女の肛門に異物をぶち込んだのが引き金となり、俺の身内に秘められていた嗜虐性が活性化し始めていることに気がついた。愛情と嗜虐性――危険すぎる組み合わせだ。

「じゃあ牛女さん、まずは自己紹介から始めようか。はい、どうぞ」
「……千村」
「よくできました。じゃあ千村、まず訊くけど、早乙女一樹って女は知ってる?」

 牛女――千村の正面に辿り着いた。
 まずアリッサをその場にしゃがませ、俺は背後に屈む。体を密着させ、両腕で体を軽く抱き締める。芯は強張っているが、表面は柔らかい。汗と化粧品の匂いが混じり合って、化粧品だけの匂いよりもずっと淫らだ。肩に顎を載せ、尋問される千村の顔を眺める。

「どうしたの? 五秒で答えないと、尻に刺さったものを深く押し込んじゃうよ。ごーお、よーん……」
「し、知っている」
「そうそう、そうやって答えればいいの。あたしたちを襲ったのは早乙女一樹の命令?」
「その通りだ」
「あ、やっぱり。じゃあ、あなたみたいな刺客、全員で何人いるの?」
「そ、それは……」

 千村は言い淀む。その顔は、あたかも猛烈な便意を堪えているかのようだ。
 両手で胸の膨らみをそっと撫でると、アリッサは一瞬身を震わせた。
 ショックを受けて無抵抗な女の子にセクハラなんて、最低最悪のクズ野郎がすることだ。そう思ったのは最初だけで、罪悪感はすぐに消えた。
 しばらくはマッサージをするかのように優しく刺激を与え続け、出し抜けに鷲掴みした。アリッサは小さく悲鳴を漏らし、全身を強張らせた。しかし、手を払い除けようとはしない。
 アリッサ、君が悪いよ。これだけのことをされても抗議の声の一つも上げない、君が悪い。いや、エロすぎるおっぱいを持っているのが悪い、と言うべきかな。
 最低最悪の責任転嫁の言葉を心の中で呟きながら、発情した猿のように一心不乱に胸を弄び続ける。
 本当は分かっている。アリッサには一切責任はない。俺に非があるわけでもない。悪いのは、俺の血をこんなにも昂ぶらせた戦いにこそある、と。

「どうしたの? 自分の立場、分かってる? あんまり反抗的な態度を取ってると、罰が下るよ?」

 穏やかだが攻撃的な口調で三花が促す。

「だいたい何人くらいとかでいいから、分かる範囲内で答えて。ただし、嘘をついたらぶっ殺すから」

 嘘かどうか見極める方法、なくね? と思ったが、現在進行形で恐怖に晒されている者にとっては、こけおどしも充分に効果的らしく、千村は呆気なく口を割った。

「五人だ。私を含めて、五人。一樹様はマップスと呼んでいる」
「マップス? 何それ」
「マッドネス・アナーキー・サイコパス・サーバント。四つの英単語の頭文字を取ってマップスと読ませている」
「くだらないことを考えるのね、お姉ちゃんも」

 心底呆れ返ったというような溜息を挟み、尋問はさらに続く。

「じゃあ、あなたを除く四人のメンバーの名前、順番にどうぞ」
「高井、羽鳥、板垣、そして草刈」

 最後の名前を聞いて、俺は首を傾げた。
 草刈がマップスの一員なら、何を根拠に俺の命を狙ったんだ? 路上での三花とのやりとり――信号無視をした俺に三花が絡んだシーンを密かに目撃していて、三花と密接な繋がりを持つ人物だと判断したのだろうか?

「じゃあ、四人がどこにいるかを教えて。あ、でも草刈は無理にいいよ。あたしと友也とで叩きのめしておいたから」

 千村の疲労した顔に驚きの色が浮かぶ。

「草刈がやられた、だって? そんな情報は耳にしていないが……」
「そりゃそうでしょ、さっき倒したばかりなんだから。驚いている暇があるなら、質問に答えて。あなた以外のマップスの居場所は?」
「……言わなければならないのか?」
「ごーお、よーん」
「いや……。そんな、ちょっと……」
「さーん」
「他のメンバーがどこにいるかなんて、いちいち把握しているわけが――」
「にいちぜろっ!」

 三花は拳をハンマーのように打ちつけ、ペン型ライトの残り半分を千村の腸内に沈めた。

「あああああああっ!」

 千村は異物を肛門に突き刺された時を凌駕する大声を上げ、のた打ち回る。三花が咄嗟に尻に力を込めたので、後者は呆気なく抑え込まれた。
 狂っている。
 三花が、ではない。この空間に存在するもの全てが。
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