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vs羽鳥③
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再び叢が揺れ動いた。最後に揺れたのと同じ位置だ。移動する方向は先程と同じ。一時休止前の移動速度が忍び足なら、今度は早足だ。
動きが速くなったことで、分かった。敵はただ俺たちの周りを周回するのではなく、徐々に近づいてきている。さながら、一筆書きで描かれた渦巻き模様の線を外から内へとなぞるように。
相手にとっては近く、こちらにとっては遠い間合いから攻撃されれば、一方的な展開になるのは避けられない。そもそも、武器を所持しているとはいえ、所詮は細い棒。高速で飛んでくる矢を防ぐには心許なさすぎる。三花はともかく、俺は運動能力も反射神経もせいぜい人並みだし、アリッサに至っては命令しないとまともに動けない。
この状況、打開するにはどうすればいい?
「アリッサ! 揺れている叢を目指して進め!」
突然の号令に、アリッサはきょとんとした顔を命令者に向ける。三花は鬼の形相で怒鳴った。
「いいから、行け! 走れ! 叢に突撃しろ! 一瞬でも足を止めたら、体の穴という穴に新幹線を一両ずつぶち込むぞ!」
「は、はぃい……!」
大声で返事し、アリッサは幹の陰から飛び出した。
両腕をどこか不器用に振り、裸足で地面を蹴り、全力疾走。雑草を薙ぎ倒しながら目指すのは、揺れる叢の方角だ。もっとも、アリッサが駆け出した時には、問題の場所は静まり返っている。すぐさま三花がアリッサに続き、俺も三花の後を追って駆け出した。
飛び道具を所持している敵へ向かって、縦一列になって一直線に突き進めば、先頭を走る者はどうなるか。想像がつかないわけではなかったが、アリッサに注意を促し、作戦の非人道性に抗議するだけの心の余裕はない。
四・五メートル走ったところで、アリッサが食べ物を喉に詰まらせたような声を発して立ち止まった。すかさず三花が尻を蹴飛ばす。
「止まるなと言っただろうが! 走れ! 突っ込め!」
アリッサは返事をしたが、まるで瀕死の虫の羽音のような声だった。
再び走り出した直後、彼女の上半身が不自然に揺れた。
三花の肩越しにアリッサを注視すると、うなじから矢尻が突き出ている。
体がスローモーションに後方へと傾く。三花は右に避け、俺は後ろに下がる。三花のすぐ左側、俺のすぐ目の前に、アリッサは仰向けに倒れた。
口のど真ん中、舌を串刺しにする形で一本、臍の真上に一本、それぞれ矢が刺さっている。驚いているような、憤っているような表情で固定され、全身は凍りついたかのように動かない。
三花はアリッサの右手から鉄パイプを奪い取り、矢が発射された地点を目指して駆け出した。一直線にではなく、不規則にジグザグに折れながらの走行だ。最早永久に動き出すことのない体を前に、呆然と立ち尽くす俺に向かって怒声が飛ぶ。
「死にたくなかったら動け! 走れ!」
顔を上げ、遅れること数秒、俺は駆け出した。三花に倣い、ジグザグに動きながら。
アリッサの死。それを招いた三花の策略。その危険性を認識しながら、声を上げなかった自分。人命を奪うことを躊躇わない敵。血なまぐさい骨肉の闘争に巻き込まれている現実。
様々な考えや思いが脳内を駆け巡るが、それでも動くしかない。走るしかない。
『死にたくなかったら動け! 走れ!』
殺されたくない。煎じ詰めればその一念だった。
盾の役割を果たす者が脱落した以上、矢がいつ自分の心臓を射抜いてもおかしくない。そう思うと足が竦みそうになるが、それでも走るしかなかった。走り出した以上は、走り続けるしかない。敵を叩きのめすか、こちらが倒れるまで。
俺は勿論、後者の運命に甘んじるつもりは毛頭なかった。
三花が急に立ち止まった。走行速度を緩めて注目すると、顔と胸を同時に守るように縦にバットを構えている。そのほぼ中央から、釘とは似て非なる細長い鉄製の物体が突出し、血色の羽根飾りが風にはためいている。
一刻も早く殺さないと、殺す前に殺される。舌打ちし、俺は走るスピードを上げた。
「そんなに鉄の棒を飛ばすのが好きなら、お返ししてあげる」
三花は釘バットを捨てると、鉄パイプを右手に持ち替え、槍投げ選手のフォームを真似るように構えた。
「ただし、あなたのよりも断然、太くて長いのをね」
助走をつけ、雄叫びと共に鉄パイプを投擲する。冷たい空気を切り裂き、長大な鋼鉄の矢が飛んでいく。羽鳥が潜む叢へと一直線に。
鉄パイプが叢に飛び込む寸前、黒い塊が姿を現し、後方に跳んで飛来物をかわした。ゴシックロリータ風の黒衣に身を包んだ、小柄な少女――羽鳥だ。
青白い顔に付属した青い瞳は驚きに見開かれている。右手には自らの衣装と同色のボウガンが握り締められ、腰に巻いたベルトに括りつけた矢筒には何本もの矢が収納されている。ボウガンは現在、矢が装填されていない状態だ。
三花は釘バットを再び握り締め、羽鳥へと一直線に突撃した。
動きが速くなったことで、分かった。敵はただ俺たちの周りを周回するのではなく、徐々に近づいてきている。さながら、一筆書きで描かれた渦巻き模様の線を外から内へとなぞるように。
相手にとっては近く、こちらにとっては遠い間合いから攻撃されれば、一方的な展開になるのは避けられない。そもそも、武器を所持しているとはいえ、所詮は細い棒。高速で飛んでくる矢を防ぐには心許なさすぎる。三花はともかく、俺は運動能力も反射神経もせいぜい人並みだし、アリッサに至っては命令しないとまともに動けない。
この状況、打開するにはどうすればいい?
「アリッサ! 揺れている叢を目指して進め!」
突然の号令に、アリッサはきょとんとした顔を命令者に向ける。三花は鬼の形相で怒鳴った。
「いいから、行け! 走れ! 叢に突撃しろ! 一瞬でも足を止めたら、体の穴という穴に新幹線を一両ずつぶち込むぞ!」
「は、はぃい……!」
大声で返事し、アリッサは幹の陰から飛び出した。
両腕をどこか不器用に振り、裸足で地面を蹴り、全力疾走。雑草を薙ぎ倒しながら目指すのは、揺れる叢の方角だ。もっとも、アリッサが駆け出した時には、問題の場所は静まり返っている。すぐさま三花がアリッサに続き、俺も三花の後を追って駆け出した。
飛び道具を所持している敵へ向かって、縦一列になって一直線に突き進めば、先頭を走る者はどうなるか。想像がつかないわけではなかったが、アリッサに注意を促し、作戦の非人道性に抗議するだけの心の余裕はない。
四・五メートル走ったところで、アリッサが食べ物を喉に詰まらせたような声を発して立ち止まった。すかさず三花が尻を蹴飛ばす。
「止まるなと言っただろうが! 走れ! 突っ込め!」
アリッサは返事をしたが、まるで瀕死の虫の羽音のような声だった。
再び走り出した直後、彼女の上半身が不自然に揺れた。
三花の肩越しにアリッサを注視すると、うなじから矢尻が突き出ている。
体がスローモーションに後方へと傾く。三花は右に避け、俺は後ろに下がる。三花のすぐ左側、俺のすぐ目の前に、アリッサは仰向けに倒れた。
口のど真ん中、舌を串刺しにする形で一本、臍の真上に一本、それぞれ矢が刺さっている。驚いているような、憤っているような表情で固定され、全身は凍りついたかのように動かない。
三花はアリッサの右手から鉄パイプを奪い取り、矢が発射された地点を目指して駆け出した。一直線にではなく、不規則にジグザグに折れながらの走行だ。最早永久に動き出すことのない体を前に、呆然と立ち尽くす俺に向かって怒声が飛ぶ。
「死にたくなかったら動け! 走れ!」
顔を上げ、遅れること数秒、俺は駆け出した。三花に倣い、ジグザグに動きながら。
アリッサの死。それを招いた三花の策略。その危険性を認識しながら、声を上げなかった自分。人命を奪うことを躊躇わない敵。血なまぐさい骨肉の闘争に巻き込まれている現実。
様々な考えや思いが脳内を駆け巡るが、それでも動くしかない。走るしかない。
『死にたくなかったら動け! 走れ!』
殺されたくない。煎じ詰めればその一念だった。
盾の役割を果たす者が脱落した以上、矢がいつ自分の心臓を射抜いてもおかしくない。そう思うと足が竦みそうになるが、それでも走るしかなかった。走り出した以上は、走り続けるしかない。敵を叩きのめすか、こちらが倒れるまで。
俺は勿論、後者の運命に甘んじるつもりは毛頭なかった。
三花が急に立ち止まった。走行速度を緩めて注目すると、顔と胸を同時に守るように縦にバットを構えている。そのほぼ中央から、釘とは似て非なる細長い鉄製の物体が突出し、血色の羽根飾りが風にはためいている。
一刻も早く殺さないと、殺す前に殺される。舌打ちし、俺は走るスピードを上げた。
「そんなに鉄の棒を飛ばすのが好きなら、お返ししてあげる」
三花は釘バットを捨てると、鉄パイプを右手に持ち替え、槍投げ選手のフォームを真似るように構えた。
「ただし、あなたのよりも断然、太くて長いのをね」
助走をつけ、雄叫びと共に鉄パイプを投擲する。冷たい空気を切り裂き、長大な鋼鉄の矢が飛んでいく。羽鳥が潜む叢へと一直線に。
鉄パイプが叢に飛び込む寸前、黒い塊が姿を現し、後方に跳んで飛来物をかわした。ゴシックロリータ風の黒衣に身を包んだ、小柄な少女――羽鳥だ。
青白い顔に付属した青い瞳は驚きに見開かれている。右手には自らの衣装と同色のボウガンが握り締められ、腰に巻いたベルトに括りつけた矢筒には何本もの矢が収納されている。ボウガンは現在、矢が装填されていない状態だ。
三花は釘バットを再び握り締め、羽鳥へと一直線に突撃した。
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