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vs板垣①
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しばらく道なりに歩くと、血の臭いを感じた。
気のせいかと思ったが、次第に濃くなっていく。三花も気がついているらしく、いっときよりも明らかに表情が険しい。一足ごとに緊張感が高まっていく。
軽トラックを後にしてから約十分後、開けた場所に出た。数々のアスレチック遊具が設置されていて、その至るところに血飛沫がかかっている。
太さも長さも様々な木製の支柱と、太いロープで編まれたネットで構成された遊具に、蜘蛛の巣に囚われた昆虫のように首なし死体が引っかかっている。スカートを履いているので、女性だと一目で分かった。桜色のブラウスの七割ほどが血に染まっている。その左、長い滑り台の上り口に切断された女性の頭部が置かれ、見るも恐ろしい形相で虚空を睨んでいる。
さらにその左に設置された雲梯の下では、子供のものと思われる腕が二本と脚が一本、不恰好な三角形を作っている。その三角形の中央に後頭部を置いて、左脚一本しか四肢がない七・八歳の男児が仰向けに横たわっている。両の眼窩が虚ろな空洞を晒し、口には根本から切断された男性器が突っ込まれている。抉られた眼球は、本来ならば性器が突出しているべき位置に、さながら睾丸のように並べられている。
その奥、不規則に配置された足場を頼りに、垂直にそそり立つコンクリート製の壁の頂を目指す遊具に、右肩から臍にかけて一直線に切り裂かれた男性がもたれ、両脚を投げ出して座っている。両の手首から先、両の足首から先は滑らかな切断面を残して切り取られ、被害者本人の傍らに無造作に転がっている。両耳と鼻は削ぎ落とされ、俯いたことで天を向いている後頭部の上に、新しい顔を表現するように配置されている。
女性は勿論、男児も、男性も、既に息絶えている。
惨劇のほぼ中央、頭部が置かれた滑り台の階段の最下段に、何者かが腰掛けている。
その人物は、機敏でも緩慢でもない動作で立ち上がり、俺たちのほぼ正面、性器を咥えて息絶えた男児の真横まで進み出た。
女だ。踝まで届きそうな長さの、目が痛くなるほど鮮烈な金髪。スリットが深い、スカイブルーのチャイナドレス。右手に握り締めているのは、禍々しいほどに巨大な刃を備えた剣――青龍刀。
「ようこそ、早乙女三花。ようこそ、佐藤友也」
爽やかな、それでいて威厳を感じさせる声で挨拶し、傲然たる笑みを浮かべる。
「私の名は板垣。早乙女一樹様率いるマップスの一員にして、リーダーだ。ところで、早乙女三花に佐藤友也。君たちは羽鳥と会ったはずだが、彼女はどうした? 彼女の矢筒を佐藤友也が持っているようだが」
「分からない? あたしたちが殺して、武器を奪ってここまで来たの。ほら、この通り」
三花の手振りに応じ、後ろ手に隠していたボウガンを顔の高さに掲げてみせる。板垣の表情に変化はない。
「じゃあ、あたしからも質問。あなたの周りに転がっている三人分の死体、それは何なの?」
「私が殺した。邪魔だったからね」
「いくら邪魔だったからって、何もここまで残酷な殺し方をしなくてもよくない? なんでこんなことをしたのか、よかったら教えてよ」
「こいつらのせいで羽鳥のヘルプに入るのが遅れたから、腹癒せをしたまでだ。猟奇趣味は微塵もないよ。いや、本当に。……ああ、そういえば、羽鳥からの報告では『敵は三人』ということだったけど、もう一人はどうしたの? 怖気づいて帰っちゃった?」
「死んだ。ていうか、殺された。誰かさんが放った矢のせいでね」
「あっ、そうなんだ。……ふぅん」
青龍刀を持つ右手が動いた。俺と三花は反射的に身構えたが、板垣は得物を肩に担いだだけだった。
「仲間が殺されて、一対二の状況になったというのに、随分と余裕そうね」
「まあね。だって君たち、弱そうだから」
腰を屈め、男児の口から性器を奪い取る。自らの目の前にかざし、陶然と見入る。
「君たち、恋人同士だろう? 二人仲良く切り刻んであげるよ。くくく……」
大口を開け、その中に性器を放り込む。ぐちゃぐちゃ、と音を立てて噛む。
「あー、不愉快だわ。マジ不愉快。これだからキチガイ相手に喋るのは嫌なの」
サポート、頼むよ。俺に目で合図を送り、三花は駆け出した。
板垣は男性器を吐き出した。途端に目つきが鋭くなり、唇が大きく笑った。青龍刀を両手に握り締め、三花へと走り寄る。
二人の距離はあっという間に縮まった。板垣は走りながら青龍刀を振りかざし、振り下ろした。三花はバールを横に構えて一撃を受け止める。
板垣は押し潰そうとするかのように圧力をかけたが、三花は叫び声と共に跳ね返した。両者ともに後方に跳んで間合いを取り、すぐさま相手に向かっていく。両者は同時に武器を振るい、腹に響くような金属音。
鈍器と刃物が虚空を切り裂く。ぶつかり合う。硬質な音を響かせる。それが延々と繰り返される。息つく暇もない攻防は早くも膠着状態の様相を呈した。
『サポート、頼むよ』
課せられた義務を果たさなければ。矢をセットし、ボウガンを構える。
矢を射出させるには、引き金を引けばいいことは分かっている。ボウガンを支える左手も、引き金にかかった右手の人差し指も震えていない。敵を撃つことに人道的な躊躇いがあるわけではない。
それなのに、引き金を引くことができない。
俺の心に影を落としているのは、誤射の可能性だ。三花を傷つけ、最悪死に至らしめる。傷つける、あるいは死に至らしめることによって、板垣と一対一の状況になり、戦いに敗れ、殺される。そんな未来が現実と化すことを俺は恐れていた。
気のせいかと思ったが、次第に濃くなっていく。三花も気がついているらしく、いっときよりも明らかに表情が険しい。一足ごとに緊張感が高まっていく。
軽トラックを後にしてから約十分後、開けた場所に出た。数々のアスレチック遊具が設置されていて、その至るところに血飛沫がかかっている。
太さも長さも様々な木製の支柱と、太いロープで編まれたネットで構成された遊具に、蜘蛛の巣に囚われた昆虫のように首なし死体が引っかかっている。スカートを履いているので、女性だと一目で分かった。桜色のブラウスの七割ほどが血に染まっている。その左、長い滑り台の上り口に切断された女性の頭部が置かれ、見るも恐ろしい形相で虚空を睨んでいる。
さらにその左に設置された雲梯の下では、子供のものと思われる腕が二本と脚が一本、不恰好な三角形を作っている。その三角形の中央に後頭部を置いて、左脚一本しか四肢がない七・八歳の男児が仰向けに横たわっている。両の眼窩が虚ろな空洞を晒し、口には根本から切断された男性器が突っ込まれている。抉られた眼球は、本来ならば性器が突出しているべき位置に、さながら睾丸のように並べられている。
その奥、不規則に配置された足場を頼りに、垂直にそそり立つコンクリート製の壁の頂を目指す遊具に、右肩から臍にかけて一直線に切り裂かれた男性がもたれ、両脚を投げ出して座っている。両の手首から先、両の足首から先は滑らかな切断面を残して切り取られ、被害者本人の傍らに無造作に転がっている。両耳と鼻は削ぎ落とされ、俯いたことで天を向いている後頭部の上に、新しい顔を表現するように配置されている。
女性は勿論、男児も、男性も、既に息絶えている。
惨劇のほぼ中央、頭部が置かれた滑り台の階段の最下段に、何者かが腰掛けている。
その人物は、機敏でも緩慢でもない動作で立ち上がり、俺たちのほぼ正面、性器を咥えて息絶えた男児の真横まで進み出た。
女だ。踝まで届きそうな長さの、目が痛くなるほど鮮烈な金髪。スリットが深い、スカイブルーのチャイナドレス。右手に握り締めているのは、禍々しいほどに巨大な刃を備えた剣――青龍刀。
「ようこそ、早乙女三花。ようこそ、佐藤友也」
爽やかな、それでいて威厳を感じさせる声で挨拶し、傲然たる笑みを浮かべる。
「私の名は板垣。早乙女一樹様率いるマップスの一員にして、リーダーだ。ところで、早乙女三花に佐藤友也。君たちは羽鳥と会ったはずだが、彼女はどうした? 彼女の矢筒を佐藤友也が持っているようだが」
「分からない? あたしたちが殺して、武器を奪ってここまで来たの。ほら、この通り」
三花の手振りに応じ、後ろ手に隠していたボウガンを顔の高さに掲げてみせる。板垣の表情に変化はない。
「じゃあ、あたしからも質問。あなたの周りに転がっている三人分の死体、それは何なの?」
「私が殺した。邪魔だったからね」
「いくら邪魔だったからって、何もここまで残酷な殺し方をしなくてもよくない? なんでこんなことをしたのか、よかったら教えてよ」
「こいつらのせいで羽鳥のヘルプに入るのが遅れたから、腹癒せをしたまでだ。猟奇趣味は微塵もないよ。いや、本当に。……ああ、そういえば、羽鳥からの報告では『敵は三人』ということだったけど、もう一人はどうしたの? 怖気づいて帰っちゃった?」
「死んだ。ていうか、殺された。誰かさんが放った矢のせいでね」
「あっ、そうなんだ。……ふぅん」
青龍刀を持つ右手が動いた。俺と三花は反射的に身構えたが、板垣は得物を肩に担いだだけだった。
「仲間が殺されて、一対二の状況になったというのに、随分と余裕そうね」
「まあね。だって君たち、弱そうだから」
腰を屈め、男児の口から性器を奪い取る。自らの目の前にかざし、陶然と見入る。
「君たち、恋人同士だろう? 二人仲良く切り刻んであげるよ。くくく……」
大口を開け、その中に性器を放り込む。ぐちゃぐちゃ、と音を立てて噛む。
「あー、不愉快だわ。マジ不愉快。これだからキチガイ相手に喋るのは嫌なの」
サポート、頼むよ。俺に目で合図を送り、三花は駆け出した。
板垣は男性器を吐き出した。途端に目つきが鋭くなり、唇が大きく笑った。青龍刀を両手に握り締め、三花へと走り寄る。
二人の距離はあっという間に縮まった。板垣は走りながら青龍刀を振りかざし、振り下ろした。三花はバールを横に構えて一撃を受け止める。
板垣は押し潰そうとするかのように圧力をかけたが、三花は叫び声と共に跳ね返した。両者ともに後方に跳んで間合いを取り、すぐさま相手に向かっていく。両者は同時に武器を振るい、腹に響くような金属音。
鈍器と刃物が虚空を切り裂く。ぶつかり合う。硬質な音を響かせる。それが延々と繰り返される。息つく暇もない攻防は早くも膠着状態の様相を呈した。
『サポート、頼むよ』
課せられた義務を果たさなければ。矢をセットし、ボウガンを構える。
矢を射出させるには、引き金を引けばいいことは分かっている。ボウガンを支える左手も、引き金にかかった右手の人差し指も震えていない。敵を撃つことに人道的な躊躇いがあるわけではない。
それなのに、引き金を引くことができない。
俺の心に影を落としているのは、誤射の可能性だ。三花を傷つけ、最悪死に至らしめる。傷つける、あるいは死に至らしめることによって、板垣と一対一の状況になり、戦いに敗れ、殺される。そんな未来が現実と化すことを俺は恐れていた。
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