ヒモ男と新幹線

阿波野治

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 朝のセックスが終わり、リリカは着衣して台所へ、俺は全裸でトイレへ。
 じょぼじょぼと音を立てて放尿する。水を流す。手は洗わない。
 六畳間に戻って服を着ていると、台所からソーセージが焼ける匂いが漂ってきた。リリカが作る朝食には大抵、ソーセージと卵が使われる。

 部屋を出て階段を下り、集合ポストから朝刊を取り出したところで、庭から気配を感じた。
 玄関ホールの硝子越しに問題の方角を見やると、新幹線が停まっていた。日本人にはお馴染みのあの乗り物が、原寸大で、庭に。
 首を傾げ、踵を返す。

 帰室すると、卓袱台の上に朝食が並んでいる。ソーセージ、目玉焼き、オーロラソース。コーヒー、トースト、ブルーベリージャム。どうってことのないラインナップだが、空腹は些事を黙殺する。手は洗わない。朝刊はリリカが座るあたりに置いておく。百円ショップで買ったちんけな塗り箸を手にする。
 ソーセージの一本、目玉焼きの半分、トーストの三分の一を胃の腑に収容したところで、台所でぐじゃぐじゃやっていたリリカがやって来た。卓袱台の中央に置かれたのは、クリーム色のボウル。サラダのご登場だ。キュウリ、レタス、赤色と黄色のパプリカ。いずれも千切りにされている。

「あ、忘れてた」

 リリカは台所に引き返し、すぐに戻ってきた。手にしているのは、胡麻ドレッシング。
 ……胡麻ドレッシング。

「いっただっきまーす」

 朝刊をどけて着座し、礼儀正しく手を合わせ、リリカも食べ始める。

「このサラダ、切ってボウルに入れただけ?」

 小皿に装った野菜と胡麻ドレッシングを箸でぐちゃぐちゃに混ぜながら、俺は尋ねる。

「うん、そうだよ」

 リリカはさらっと答え、ブルーベリージャムを分厚く塗った食パンをかじる。

「何か貧乏くさいな、切ってボウルにぶち込んだだけって。もっと手の込んだサラダは作れないの?」
「手の込んだのって、具体的にはどんなのがいいわけ?」

 貧乏くさいの一言が癪に障ったらしく、むっとした表情で問い返してきた。

「例えば、そうだな。野菜が十種類くらい使われてて、アホみたいにボリュームがあって、ドレッシングも手作りで」
「時間さえあれば、もうちょい気合い入れて作るんだけど、朝は忙しいからね。誰かさんと違って仕事あるし」

 誰かさんと違って仕事あるし。
 俺は拳を卓袱台の天板に思い切り叩きつけた。ソーセージは揺らぎ、目玉焼きは震え、サラダは一部が皿からこぼれ、コーヒーは波打ち、トーストは飛び上がった。

「なにたわけたこと抜かしてんだ、アホ! 切っただけの野菜ボウルにぶち込んで、はい召し上がれって、兎じゃねぇっつうの。こちとらヒューマンなんだよ、ヒューマン。働いてほしけりゃもうちょいまともな飯作りやがれ、この売笑婦が!」
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