惣助とアラバマ

阿波野治

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惣助とアラバマ

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 少女は何食わぬ顔で陳列棚から商品を一つ掴みとると、ジーンズのポケットに押しこみ、その場から立ち去った。
 十歳くらいだろうか。肩までの長さの金髪。中性的な目鼻立ち。黒地にすみれ色で「ALABAMA」と綴られたパーカーを着て、何か所も穴が開いたジーンズを穿いていた。
 棚に歩み寄り、ポケットに入れられた商品を目で確認する。ソイジョイのバナナ味。
 惣助は早足であとを追った。

 アラバマは野菜コーナーの端に佇んでいた。レモン色のパプリカをじっと見つめていたが、視線を切り、出入り口の自動ドアを潜ろうとした。早足から駆け足に移行し、彼女の足が店外に出るよりも一瞬早く、腕を掴まえる。
 アラバマは目を丸くして惣助を見返した。

「ソイジョイのバナナ味」

 アラバマの肩がびくっとなった。怯えたように唇が歪む。掴んだ腕から、全身が硬く強張っているのが伝わってくる。

「お金ないの? 買ってあげるから、出して」
「ミニドーナツがいい」

 アラバマがつぶやいた。「は?」という声が思わず漏れた。

「ミニドーナツの袋、大きくて入らなかったから。ソイジョイよりもそっちがいい」
「そういう問題ではないと思うけど……」
「ぼく、三日後たんじょうびだから、買ってよ」
「……まあいいや。とにかく、行こう」

 軽く引っ張って促したが、足を踏ん張って動こうとしない。手を離して菓子売り場へ向かうと、ついてきた。
 アラバマはポケットから出したソイジョイのバナナ味を元の場所に戻し、ミニドーナツの袋を自分でとってきて惣助に渡した。一口サイズのものが十個入っている。

「君、ドーナツ好きなの」
「おいしいから」
「そっか」

 ミニドーナツの袋を手にレジへ向かう。

「ほら」

 会計を済ませて、店の外でレジ袋を手渡す。アラバマは礼を言うのではなく、「なにか言いたいことがあるなら、さっさと言って」という目で惣助を見る。

「それ、僕のおごり。次からはお金持ってくるんだよ」
「もらってないもん、おこづかい」
「お皿洗いとかを手伝えばいいよ」
「しないし」
「お手伝い、嫌? だったら、おこづかいが欲しいときだけ、嫌々すればいい。少しの我慢で対価をもらえるんだと思って」

 ノーリアクション。

「じゃあね」

 その場から去る。
 五メートルほど歩いて振り返ると、アラバマは袋を覗きこんでいた。

*

 袋を覗きこんで、ミニドーナツがミニドーナツでしかないことを確認したり、周囲を見回したりしているうちに、惣助の姿は消えていた。
 袋を右手に提げ、アラバマは歩き出した。
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