2 / 26
灰色じじい
しおりを挟む
店先にたむろしている数人の男子学生がいたので、緊張しながら自動ドアを潜る。
リップクリームなどが置かれている棚の前で足を止めたが、買うべきものは特に思い浮かばない。「立ち読みはご遠慮ください」と注意書きされた雑誌コーナーの前で、マンガ雑誌を立ち読みしている、三十歳くらいの男性の背後を通過する。
インスタントのかきあげそばと、幕の内弁当と、ペットボトルの緑茶を手にレジへ。
「いらっしゃいませ」
レジ業務を担当したのは、まだ十代に見える、ショートボブをトリコロールに染めた女性。
「ポイントカードはお持ちですか」
「いえ」
「お弁当、温めますか」
「結構です」
「お箸は何本おつけしますか」
「一本で」
「袋、ごいっしょでもよろしいですか」
「はい」
「ただいまキャンペーン中なので、千円のお買い物につき一回くじを引けます。どうぞ」
トリコロール店員はどこからか黒い箱を取り出し、レジカウンターに置く。惣助は一枚引く。開封作業はトリコロール店員が行う。
「あっ、ジュースが当たりましたね。おめでとうございます」
トリコロール店員はジュースの棚まで走って、250ミリリットル入りの紙パックのグレープフルーツジュースをとってきた。
「ジュース、お弁当といっしょに入れてもよろしいですか」
「はい」
「レシートはどうされますか」
「いらないです」
「ありがとうございました」
*
アラバマはミニドーナツの袋を開封し、一つつまんで半分かじった。
「……んまっ」
西のほうへ、西のほうへ、太陽を追いかけるように歩く。半分ずつ口にしたのは最初の一個だけで、あとは一口で食べてしまう。
袋の中身が残り三個になったところで、公園に差しかかった。出入り口で足を止め、広くない敷地内の中央に配置された遊具を凝視する。
抹茶色に塗られた、かまくらのような形状の半球。半球の表面には大小の穴がいくつか開いていて、それを足がかりや手がかりにして頂上まで登ったり、中に入ったりして遊べるようになっている。
ドーム型の遊具からは目を離さずに、黙々とミニドーナツを食べる。
ラスト一個を袋からつまみ出したところで、遊具の穴の一つから顔を出した者がいる。
少なくとも七十歳は過ぎているだろう。男性で、ぼさぼさの白髪頭で、眉毛まで白い。元は白色だったが、汚れて灰色になったらしい服を身にまとっている。
アラバマと灰色じじいは見つめ合う。アラバマは、あと薄皮一枚向けば嫌悪と軽蔑の色が現れそうな顔つきで。灰色じじいは、警戒心を張り巡らせた無表情で。
一陣の風が吹き抜け、手にしていた袋がかさかさと音を立てて、ミニドーナツを食べている最中だったと思い出す。
灰色じじいから目を逸らさずに、指につまんでいた最後の一個を口に運ぶ。胃の中に消えた九個よりも多少時間をかけて咀嚼し、嚥下する。
「んまっ」
灰色じじいは微動だにせずにアラバマを凝視している。
ミニドーナツが入っていた袋とレジ袋、二枚まとめてぐしゃぐしゃに丸め、公園の敷地内に投げ捨てる。灰色じじいは袋ではなくアラバマを見ている。
灰色じじいから視線を切り、歩き出す。
西へ、西へ。
リップクリームなどが置かれている棚の前で足を止めたが、買うべきものは特に思い浮かばない。「立ち読みはご遠慮ください」と注意書きされた雑誌コーナーの前で、マンガ雑誌を立ち読みしている、三十歳くらいの男性の背後を通過する。
インスタントのかきあげそばと、幕の内弁当と、ペットボトルの緑茶を手にレジへ。
「いらっしゃいませ」
レジ業務を担当したのは、まだ十代に見える、ショートボブをトリコロールに染めた女性。
「ポイントカードはお持ちですか」
「いえ」
「お弁当、温めますか」
「結構です」
「お箸は何本おつけしますか」
「一本で」
「袋、ごいっしょでもよろしいですか」
「はい」
「ただいまキャンペーン中なので、千円のお買い物につき一回くじを引けます。どうぞ」
トリコロール店員はどこからか黒い箱を取り出し、レジカウンターに置く。惣助は一枚引く。開封作業はトリコロール店員が行う。
「あっ、ジュースが当たりましたね。おめでとうございます」
トリコロール店員はジュースの棚まで走って、250ミリリットル入りの紙パックのグレープフルーツジュースをとってきた。
「ジュース、お弁当といっしょに入れてもよろしいですか」
「はい」
「レシートはどうされますか」
「いらないです」
「ありがとうございました」
*
アラバマはミニドーナツの袋を開封し、一つつまんで半分かじった。
「……んまっ」
西のほうへ、西のほうへ、太陽を追いかけるように歩く。半分ずつ口にしたのは最初の一個だけで、あとは一口で食べてしまう。
袋の中身が残り三個になったところで、公園に差しかかった。出入り口で足を止め、広くない敷地内の中央に配置された遊具を凝視する。
抹茶色に塗られた、かまくらのような形状の半球。半球の表面には大小の穴がいくつか開いていて、それを足がかりや手がかりにして頂上まで登ったり、中に入ったりして遊べるようになっている。
ドーム型の遊具からは目を離さずに、黙々とミニドーナツを食べる。
ラスト一個を袋からつまみ出したところで、遊具の穴の一つから顔を出した者がいる。
少なくとも七十歳は過ぎているだろう。男性で、ぼさぼさの白髪頭で、眉毛まで白い。元は白色だったが、汚れて灰色になったらしい服を身にまとっている。
アラバマと灰色じじいは見つめ合う。アラバマは、あと薄皮一枚向けば嫌悪と軽蔑の色が現れそうな顔つきで。灰色じじいは、警戒心を張り巡らせた無表情で。
一陣の風が吹き抜け、手にしていた袋がかさかさと音を立てて、ミニドーナツを食べている最中だったと思い出す。
灰色じじいから目を逸らさずに、指につまんでいた最後の一個を口に運ぶ。胃の中に消えた九個よりも多少時間をかけて咀嚼し、嚥下する。
「んまっ」
灰色じじいは微動だにせずにアラバマを凝視している。
ミニドーナツが入っていた袋とレジ袋、二枚まとめてぐしゃぐしゃに丸め、公園の敷地内に投げ捨てる。灰色じじいは袋ではなくアラバマを見ている。
灰色じじいから視線を切り、歩き出す。
西へ、西へ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる