惣助とアラバマ

阿波野治

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灰色じじい

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 店先にたむろしている数人の男子学生がいたので、緊張しながら自動ドアを潜る。
 リップクリームなどが置かれている棚の前で足を止めたが、買うべきものは特に思い浮かばない。「立ち読みはご遠慮ください」と注意書きされた雑誌コーナーの前で、マンガ雑誌を立ち読みしている、三十歳くらいの男性の背後を通過する。
 インスタントのかきあげそばと、幕の内弁当と、ペットボトルの緑茶を手にレジへ。

「いらっしゃいませ」

 レジ業務を担当したのは、まだ十代に見える、ショートボブをトリコロールに染めた女性。

「ポイントカードはお持ちですか」
「いえ」
「お弁当、温めますか」
「結構です」
「お箸は何本おつけしますか」
「一本で」
「袋、ごいっしょでもよろしいですか」
「はい」
「ただいまキャンペーン中なので、千円のお買い物につき一回くじを引けます。どうぞ」

 トリコロール店員はどこからか黒い箱を取り出し、レジカウンターに置く。惣助は一枚引く。開封作業はトリコロール店員が行う。

「あっ、ジュースが当たりましたね。おめでとうございます」

 トリコロール店員はジュースの棚まで走って、250ミリリットル入りの紙パックのグレープフルーツジュースをとってきた。

「ジュース、お弁当といっしょに入れてもよろしいですか」
「はい」
「レシートはどうされますか」
「いらないです」
「ありがとうございました」

*

 アラバマはミニドーナツの袋を開封し、一つつまんで半分かじった。

「……んまっ」

 西のほうへ、西のほうへ、太陽を追いかけるように歩く。半分ずつ口にしたのは最初の一個だけで、あとは一口で食べてしまう。

 袋の中身が残り三個になったところで、公園に差しかかった。出入り口で足を止め、広くない敷地内の中央に配置された遊具を凝視する。
 抹茶色に塗られた、かまくらのような形状の半球。半球の表面には大小の穴がいくつか開いていて、それを足がかりや手がかりにして頂上まで登ったり、中に入ったりして遊べるようになっている。
 ドーム型の遊具からは目を離さずに、黙々とミニドーナツを食べる。

 ラスト一個を袋からつまみ出したところで、遊具の穴の一つから顔を出した者がいる。
 少なくとも七十歳は過ぎているだろう。男性で、ぼさぼさの白髪頭で、眉毛まで白い。元は白色だったが、汚れて灰色になったらしい服を身にまとっている。

 アラバマと灰色じじいは見つめ合う。アラバマは、あと薄皮一枚向けば嫌悪と軽蔑の色が現れそうな顔つきで。灰色じじいは、警戒心を張り巡らせた無表情で。
 一陣の風が吹き抜け、手にしていた袋がかさかさと音を立てて、ミニドーナツを食べている最中だったと思い出す。
 灰色じじいから目を逸らさずに、指につまんでいた最後の一個を口に運ぶ。胃の中に消えた九個よりも多少時間をかけて咀嚼し、嚥下する。

「んまっ」

 灰色じじいは微動だにせずにアラバマを凝視している。
 ミニドーナツが入っていた袋とレジ袋、二枚まとめてぐしゃぐしゃに丸め、公園の敷地内に投げ捨てる。灰色じじいは袋ではなくアラバマを見ている。
 灰色じじいから視線を切り、歩き出す。
 西へ、西へ。
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