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母への電話
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洗濯物の入ったプラスチック製のカゴを提げてベランダに出ようとして、ごみの下に埋もれたごみ袋を偶然発見した。引っ張り出すと、可燃ごみ用の袋だ。
カゴを足元に置き、ちゃぶ台の周囲のごみを片づける。台の上に置きっぱなしの弁当の容器も片づけたいが、プラスチックごみのごみ袋が見当たらない。掃除自体を断念し、スマホをいじりはじめる。
インターネットに夢中になっているうちに、いつの間にか、午後七時まで十分を切っている。
ため息をつき、ディスプレイを暗転させる。
*
アラバマは路地に入っていく。
いきなり犬に吠えられた。小型犬と思われる甲高い声だ。出所を探したが見つからず、そのまま道を道なりに進む。雲形定規のように不規則に曲がりくねっていて、車同士がすれ違えないほど道幅は狭い。
どこからか話し声が聞こえた。そうかと思うと、三叉路の右手から二人組の女性が曲がってきて、アラバマのほうに向かってくる。
二人とも二十歳前後だろうか。一人はロングヘアをピンク色に染めていて、クリーム色のトレーナーを着ている。一人は黒縁メガネをかけていて、カウボーイのようなブーツを履いている。
「でも、一人暮らしをするとなると――」
二人組はアラバマのほうは見向きもせずにすれ違い、遠ざかっていく。
三叉路で足を止め、二人組が歩いてきた道を見据える。郵便ポストが見え、敷地を囲う金網フェンスが見え、鉄道高架が見える。
視線を切り、もともと通るつもりだった道を進む。
*
午後七時を回り、母親に電話をかける。
「もしもし、母さん」
「惣助、今あんたなにしてるの」
「だらだらしてる」
「ごはん食べ終わったの」
「うん。だからまあ、のんびりと」
「今日はなに食べたの。晩ごはん」
「コンビニ弁当」
「あんたは料理ができないからしょうがないけど、野菜はちゃんととりなさいよ。ついでにサラダを買うとかして」
「うん。明日からはそうする」
「今日は授業、どうだった?」
「いつもどおり。面白いことも困ったこともなく」
「ああ、そう。えっと、他になにか伝えることあったっけ? お金は十日に振りこんだから……」
「特にないよ。じゃあ、もう切るね」
通話を終わらせると、大きなため息が口から溢れ出した。組んだ両腕をちゃぶ台の上に置き、視線の先にある白い壁をただ見つめる。
*
細い道を上ると、土手の上の道に出た。
車の交通量が多い。空は暗くなりはじめていたが、車のライトのせいで昼間に負けないくらい明るい。
土手の下にも道があり、その先には畑が広がっている。立ち働く人の姿は、現在アラバマがいる場所からは確認できない。畑の向こうには、壁を作るように樹木が立ち並んでいて、視界を遮っている。
自動車はアラバマの前に差しかかるたびに速度を少し落とし、苛立ったようにエンジンを唸らせて走り去る。
道の向こうに行くための横断歩道も、歩道橋も、近くには見当たらない。道には歩道が備わっていない。
踵を返した。
カゴを足元に置き、ちゃぶ台の周囲のごみを片づける。台の上に置きっぱなしの弁当の容器も片づけたいが、プラスチックごみのごみ袋が見当たらない。掃除自体を断念し、スマホをいじりはじめる。
インターネットに夢中になっているうちに、いつの間にか、午後七時まで十分を切っている。
ため息をつき、ディスプレイを暗転させる。
*
アラバマは路地に入っていく。
いきなり犬に吠えられた。小型犬と思われる甲高い声だ。出所を探したが見つからず、そのまま道を道なりに進む。雲形定規のように不規則に曲がりくねっていて、車同士がすれ違えないほど道幅は狭い。
どこからか話し声が聞こえた。そうかと思うと、三叉路の右手から二人組の女性が曲がってきて、アラバマのほうに向かってくる。
二人とも二十歳前後だろうか。一人はロングヘアをピンク色に染めていて、クリーム色のトレーナーを着ている。一人は黒縁メガネをかけていて、カウボーイのようなブーツを履いている。
「でも、一人暮らしをするとなると――」
二人組はアラバマのほうは見向きもせずにすれ違い、遠ざかっていく。
三叉路で足を止め、二人組が歩いてきた道を見据える。郵便ポストが見え、敷地を囲う金網フェンスが見え、鉄道高架が見える。
視線を切り、もともと通るつもりだった道を進む。
*
午後七時を回り、母親に電話をかける。
「もしもし、母さん」
「惣助、今あんたなにしてるの」
「だらだらしてる」
「ごはん食べ終わったの」
「うん。だからまあ、のんびりと」
「今日はなに食べたの。晩ごはん」
「コンビニ弁当」
「あんたは料理ができないからしょうがないけど、野菜はちゃんととりなさいよ。ついでにサラダを買うとかして」
「うん。明日からはそうする」
「今日は授業、どうだった?」
「いつもどおり。面白いことも困ったこともなく」
「ああ、そう。えっと、他になにか伝えることあったっけ? お金は十日に振りこんだから……」
「特にないよ。じゃあ、もう切るね」
通話を終わらせると、大きなため息が口から溢れ出した。組んだ両腕をちゃぶ台の上に置き、視線の先にある白い壁をただ見つめる。
*
細い道を上ると、土手の上の道に出た。
車の交通量が多い。空は暗くなりはじめていたが、車のライトのせいで昼間に負けないくらい明るい。
土手の下にも道があり、その先には畑が広がっている。立ち働く人の姿は、現在アラバマがいる場所からは確認できない。畑の向こうには、壁を作るように樹木が立ち並んでいて、視界を遮っている。
自動車はアラバマの前に差しかかるたびに速度を少し落とし、苛立ったようにエンジンを唸らせて走り去る。
道の向こうに行くための横断歩道も、歩道橋も、近くには見当たらない。道には歩道が備わっていない。
踵を返した。
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