惣助とアラバマ

阿波野治

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街を歩く

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 運賃を運賃箱に入れ、駅前の歩道に降り立つ。
 アラバマが降りてこない。車内を覗くと、硬貨を落としたらしく、しゃがみこんでいる。
 無事に回収し、運転手に三枚をちゃんと見せてから運賃箱に投入する。ステップからぴょんと飛び降りて惣助と同じ高さに立ち、彼を見上げる。

「よし、行こうか」

 アラバマが右手を差し出した。惣助はそれを握り、もう一方の手で前方を指し示し、そちらに向かって歩き出す。スカイブルーのウェアに身を包んだ、引きしまった体型の青年が、二人の脇を軽やかに駆け抜けていった。

*

 進行方向にある、横断歩道の青信号が点滅しはじめたが、惣助は急ぐ素振りを見せない。
 白線の連続がはじまる二歩手前で、青い点滅が赤に変わり、二人は足を止める。
 渡った先にはホテルらしき建物の入り口があって、その前を歩道が左右に走っている。スカイブルーウェアの青年は右方向へ走っていった。目で追うと、ホテルらしき建物に隣接して駅舎が建っていて、その外壁が歩道に沿って長く続いている。歩道の脇には、客を待っているタクシーがずらっと並んでいる。

「まずどっちへ行くの。商店街のほう? それとも右?」
「右」
「本当に?」
「うん。確実」

 やりとりをしているあいだに、二人の左右と後ろで老若男女が続々と足を止め、信号が青に変わるのを待ちはじめる。
 黒いワゴン車が横断歩道の手前で減速し、すぐに加速して通り過ぎた。

*

 駅舎の前を横切り、スターバックスを通過すると、長大な学習塾の看板が出入り口に掲げられた建物が左手に見えた。
 横断歩道の信号は赤だ。渡った先の歩道は、前方と右方向、二方向に伸びている。前者は、ビルに遮られて日陰になっていて、整然と立ち並ぶ木々の緑が遠くに見える。後者は、曲がってすぐの場所に地下駐輪場の出入り口が口を開けていて、車道と高いビルとに挟まれながら真っ直ぐに伸びている。

「真っ直ぐでいいの? それとも曲がるの?」
「んー、真っ直ぐ」

 学習塾の看板を見ながらアラバマは答える。

「武器を売っているお店は、ビルの中にあるの。それとも独立した建物なの」
「ちいさい店だったよ。古い感じの」
「……ねえ、本当に場所分かってる? すごく不安になってきたんだけど」
「歩いたらわかると思う」
「雰囲気で?」
「ふんいきで」

 信号が青に変わり、両岸で待っていた人々が歩き出す。二人も歩き出す。

*

 少し歩くと、景色から高いビルが消え、こぢんまりとした建物ばかりになった。
 惣助の手をしっかりと握って、ジグザグに折れるような軌道で道を進む。
 人の姿はない。ココ壱番屋から出てきた若い男女と、狭い駐車場の前ですれ違った四十歳くらいのスーツ姿の男性。今のところその三人だけだ。
 碁盤の目のように規則正しく、似たような景色が続いている。民家なのか、商店なのか、判断がつきづらい建物が多い。

「本当にこっちでいいの?」
「うん、たぶん」
「本当かなぁ」
「だいじょーぶだってば」

 交差点に差しかかる。横断歩道も信号もない。右に向かって進むと大きな道路があるらしく、走行音がひっきりなしに聞こえてくる。

「おっと」

 いきなり腕を引っ張られた。惣助の体に背中からぶつかったかと思うと、両腕で抱きしめられた。
 次の瞬間、アラバマの目の前を、車高が低い赤い車が猛スピードで駆け抜けた。
 惣助は左右を確認し、アラバマから体を離して道の横断を開始する。三歩歩いたところで、上体を反時計回りにねじって振り向き、左手を差し出す。
 歩み寄ってその手を握り、道の向こう側に行く。
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