惣助とアラバマ

阿波野治

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塵埃堂

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 店先に、惣助の肩くらいの高さの木製の棚が置かれ、焼き物が並べられている。皿が多く、小型の壺もある。

「盗まれないのかな、これ」

 惣助はひとり言をつぶやいた直後、アラバマの手が離れていることにはたと気がついた。周囲に目を走らせると、五・六メートル先の道の端を歩く、黒いパーカーを着た小さな背中を発見した。

「ちょっと待って」

 追いつこうと早足になる。アラバマは足を緩めたので、簡単に目的を達成した。
 アラバマは熱心にあたりを見回している。

「もしかして、近い?」
「うん。なんとなく、そんな感じ」
「じゃあ、さっきの焼き物の店は見覚えある?」
「焼き物? なにそれ」
「さっき通り過ぎたけど、気づかなかった? 高そうなのに、ケースにも入れずに店の前に飾ってあって――」
「あっ、あった」

 アラバマの足が止まり、体を九十度左に向ける。同じく立ち止まった惣助に顔を向け、目の前にある建物を指差す。
 出入り口の戸は開け放たれていて、屋内はほの暗い。戸口の高い位置に、かまぼこ板ほどの木板が掲げられていて、流暢な墨字で「塵埃堂」としたためられている。

*

「アラバマ、ここなの?」
「うん、まちがいない」

 入ってすぐの壁を指差す。

「そのあたりにね、立てかけてあった」
「槍が?」
「槍が。リボンがついてたよ。赤いやつ」

 隣を向くと、惣助と目が合った。アラバマは店内を指差し、

「入らないの?」
「ていうかこれ、店? なんとか堂って書いてあるけど。営業している雰囲気では……」
「入ったらわかるんじゃない」
「この前はどうだったの? 槍を見かけたときは」
「わかんない。通ったときに槍を見かけて、おおすげーって思って、そればかり見て、店の中までよく見なかったから。暗いし」

 惣助は店内に視線を戻した。もう一度入店を促そうとすると、

「すみませーん!」

*

 十秒待ってみたが、返事はない。二人は顔を見合わせる。

「いないのかな」

 目と言葉で意見を求めると、アラバマは少しオーバーに首を傾げた。

「戸が開いているということは、誰かが中にいるということなんだろうけど、そもそも店かどうか……」

 近くで走行音が聞こえたので、反射的に振り向く。水色の自転車に乗った学生服姿の少女が、二人をちらちらと見ながら走り去った。

「突っ立ってても仕方ないし、入ろうか。人を見つけて、槍のことを訊いてみよう」

 惣助、アラバマの順番に足を踏み入れる。

*

 店内の空気は少し冷たく感じられる。
 三列の棚が店の奥に向かって真っすぐに続いている。見上げると、灰色の天井まで達している。
 細かく縦横に区切られている棚があれば、仕切りが取り払われてスペースが広く確保されている棚もある。

 ピースが何個か欠けたジグソーパズル。
 錆びついた指輪。
 片腕がない西洋人形。
 途中からページが破れている雑誌。
 鏡面にラクガキがある手鏡。
 ビー玉サイズのものから、抱きかかえるのに苦労する大きさのものまで、様々な雑貨や玩具の類が陳列されている。古びたものばかりだ。どの商品にも値札はついていない。

 一番近くにあった、ガチャガチャのカプセルを手にとってみる。中には金色の砂が十分の一ほど入っていて、量の割に掌にずっしりとくる。カプセルを右に傾ければ砂は右に滑り、左に傾けると左に滑る。

 入ってすぐの地点に佇み、奥に進むに従って深くなる闇を凝視していた惣助は、おもむろにアラバマのほうを向いた。
 なにか言いかけたがやめて、奥に向かって進んでいく。
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