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帰りのバス
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暗い屋内にいたので、外は少し眩しく感じられた。
「これからどうする?」
と、惣助。
「いま何時?」
ずっと白い包みに落としていた目を、ようやく持ち上げて惣助を見て、問いを投げかける。惣助はすぐさまスマホを取り出す。
「十時四十分。十分くらいいたかな、店の中に」
「じゃあ、公園行こうよ。公園」
「どこにあるの」
「アパートの近く。そうすけの」
「じゃあ、バスに乗って引き返そう」
「おっけい」
歩き出してすぐ、包みの先端で惣助の尻を小突く。
「どうしたの?」
「持って」
「そんなに重いの?」
「軽いけど、手がふさがるのが嫌だから」
惣助は素直に差し出されたものを受けとる。
*
不規則に曲折したルートを、しかし迷いなく、行きとは逆の方向に進み、少しずつ着実に駅へと近づいていく。
ココ壱番屋の前を通ると、カレーの匂いが漂ってきた。
「おひる、カレーがいいなー」
「まだ早いよ」
「ちがうよー。公園でじじいを退治してから食べるの」
「僕の家の近くにカレーを食べられる店はないね、残念ながら」
「えー、なんでぇ?」
「なんでって言われても」
人通りの多い道に合流したところで、思い出したようにアラバマの手を握る。アラバマは惣助の顔を見た。少し間を置いて、弱い力ながらも握り返してきた。
前方右手に、学習塾の長大な看板が見えた。
*
バスの乗り場は、下り場からは少し離れた場所にある。
テーブルの脚を短く切り詰めたようなベンチに座って待っていると、二・三分ほどで、行きに乗ったのと同じカラーリングのバスが到着した。待っていた二・三名とともに乗りこむ。
「おっ」
惣助の声。視線を辿ると、行きに座ったのと同じ座席が空いている。
「ラッキーだね」
「らっきー」
窓側にアラバマが、通路側に惣助が腰を下ろす。
*
求めに応じて、アラバマにスマホを手渡す。
「またYouTubeですか」
「なんでわかったの」
「昨日と今日とでだいぶ分かったからね、アラバマのことは」
「ねえ、音出してもいい? 音楽聴きたい」
「他のお客さんの迷惑になるから、だめです」
「えー、けち」
受け答えをしながらも、アラバマの目はディスプレイに釘づけで、右手の人差し指は絶えず動いている。
「しかたないでしょ、マナーなんだから。昼食おごってあげるから、我慢して」
返事はない。アラバマはじっとディスプレイに見入っている。
*
「訊くの忘れてたけど、公園ってどのバス停で降りればいいの?」
唐突な質問に、スマホのディスプレイに注いでいた目を惣助に向ける。
「乗ったのと同じバス停で降りるべきなのか、もっと公園に近い停留所があるのか、それが知りたいんだけど」
「んー……」
アラバマは両腕をV字に突き上げて伸びをし、あくびをする。すでに暗転させてあるスマホを惣助に返却しながら、
「わかんない。でも、たぶん、乗ったところが一番近いよ」
「そっか。じゃあ、予定どおりのバス停で降りよう。まあ、多少歩いたとしても――あっ」
何気なくといったふうに窓外に視線を投げかけたとたん、なにかを発見したかのような声。同じ方向を向くと、既視感を覚える景色が視界に映った。
「いつの間にかあと三駅だ。降りる準備してね」
惣助はスマホをしまい、入れ替わりに財布を取り出す。
「準備とか、べつにないし」
返事に対する返事はない。惣助は妙に真剣な顔で、指で一枚一枚、小銭を選び出している。
「これからどうする?」
と、惣助。
「いま何時?」
ずっと白い包みに落としていた目を、ようやく持ち上げて惣助を見て、問いを投げかける。惣助はすぐさまスマホを取り出す。
「十時四十分。十分くらいいたかな、店の中に」
「じゃあ、公園行こうよ。公園」
「どこにあるの」
「アパートの近く。そうすけの」
「じゃあ、バスに乗って引き返そう」
「おっけい」
歩き出してすぐ、包みの先端で惣助の尻を小突く。
「どうしたの?」
「持って」
「そんなに重いの?」
「軽いけど、手がふさがるのが嫌だから」
惣助は素直に差し出されたものを受けとる。
*
不規則に曲折したルートを、しかし迷いなく、行きとは逆の方向に進み、少しずつ着実に駅へと近づいていく。
ココ壱番屋の前を通ると、カレーの匂いが漂ってきた。
「おひる、カレーがいいなー」
「まだ早いよ」
「ちがうよー。公園でじじいを退治してから食べるの」
「僕の家の近くにカレーを食べられる店はないね、残念ながら」
「えー、なんでぇ?」
「なんでって言われても」
人通りの多い道に合流したところで、思い出したようにアラバマの手を握る。アラバマは惣助の顔を見た。少し間を置いて、弱い力ながらも握り返してきた。
前方右手に、学習塾の長大な看板が見えた。
*
バスの乗り場は、下り場からは少し離れた場所にある。
テーブルの脚を短く切り詰めたようなベンチに座って待っていると、二・三分ほどで、行きに乗ったのと同じカラーリングのバスが到着した。待っていた二・三名とともに乗りこむ。
「おっ」
惣助の声。視線を辿ると、行きに座ったのと同じ座席が空いている。
「ラッキーだね」
「らっきー」
窓側にアラバマが、通路側に惣助が腰を下ろす。
*
求めに応じて、アラバマにスマホを手渡す。
「またYouTubeですか」
「なんでわかったの」
「昨日と今日とでだいぶ分かったからね、アラバマのことは」
「ねえ、音出してもいい? 音楽聴きたい」
「他のお客さんの迷惑になるから、だめです」
「えー、けち」
受け答えをしながらも、アラバマの目はディスプレイに釘づけで、右手の人差し指は絶えず動いている。
「しかたないでしょ、マナーなんだから。昼食おごってあげるから、我慢して」
返事はない。アラバマはじっとディスプレイに見入っている。
*
「訊くの忘れてたけど、公園ってどのバス停で降りればいいの?」
唐突な質問に、スマホのディスプレイに注いでいた目を惣助に向ける。
「乗ったのと同じバス停で降りるべきなのか、もっと公園に近い停留所があるのか、それが知りたいんだけど」
「んー……」
アラバマは両腕をV字に突き上げて伸びをし、あくびをする。すでに暗転させてあるスマホを惣助に返却しながら、
「わかんない。でも、たぶん、乗ったところが一番近いよ」
「そっか。じゃあ、予定どおりのバス停で降りよう。まあ、多少歩いたとしても――あっ」
何気なくといったふうに窓外に視線を投げかけたとたん、なにかを発見したかのような声。同じ方向を向くと、既視感を覚える景色が視界に映った。
「いつの間にかあと三駅だ。降りる準備してね」
惣助はスマホをしまい、入れ替わりに財布を取り出す。
「準備とか、べつにないし」
返事に対する返事はない。惣助は妙に真剣な顔で、指で一枚一枚、小銭を選び出している。
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