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その後の惣助、その後のアラバマ
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惣助は緩慢に立ち上がる。
鼻はまだずきずきと痛んでいる。鼻の下を掌で拭ってみたが、鼻血は出ていなかった。チノパンツの尻を払い、呆然と立ち尽くす。あたりは静かで、なんの音も聞こえてこない。
ふと思い出し、ポケットからスマホを引っ張り出す。ツイッターのアプリを開く。
通知の詳細を確認すると、相互フォローしているアカウントからのリプライだった。
『いいですね! なんていうか、これからの人生がとっても楽しくなりそう!』
*
アパートに帰るあいだ、アラバマが口にしたセリフがくり返し甦った。
『悪い人じゃなくて、ちゃんとした人だよ』
機械的に足を動かしているうちに、行く手にアパートが見えた。
*
部屋の隅々まで探したが、アラバマが残していったものは一つもなかった。
ベッドに体を投げ出し、なんとはなしにため息をつく。
アラバマの残り香は感じられない。
*
ぼーっとしているうちに、時間は刻一刻と流れ、世界は暗くなる。
洗濯物をたたみ、夕食をとったころには、決意は固まっていた。
*
夜の七時を回り、母親に電話をかける。
「ああ、惣助。今日はどうだった?」
「母さん、実は……」
「どうしたの?」
「実は僕、最近ずっと大学に行ってなかったんだ。これという理由はないんだけど、急に行きたくなくなって、何日か休んだら行きづらくなって、それでずっと」
沈黙。
「でも、明日からは行くから。出席日数、まだ大丈夫だから、今なら取り返せる。だから、明日からちゃんと行くから」
*
大学からの帰り道、食料のストックがなかったことをふと思い出し、スーパーマーケットに立ち寄る。
カゴをとろうとしたが、やめた。弁当売り場に直行するのではなく、反時計回りに順路を進む。
「……あ」
菓子売り場に見知った姿を発見し、足が止まる。
「アラバマ!」
駆け寄る。アラバマは驚いているようだったが、すぐに笑顔に変わった。
「わー、そうすけだ! ひさしぶりー!」
アラバマは今日も黒のパーカーに、穴だらけのジーンズという出で立ち。ただし、パーカーの胸にプリントされた英単語が違っていて、「WISCONSIN」になっている。
「うん、久しぶり。今日はお母さんといっしょ?」
「ううん、一人。おかし買いに来た」
「大丈夫なの? 僕といっしょに出歩いたこと、お母さんは怒ってるんじゃないの」
「怒ってたけど、夜遅くならないようにするなら、もう一人で外に出てもいいって」
「どうして?」
「ぼく、おとといで十歳になったから。一人前になったから、もう一人で外に出てもいいんだって」
「そういえば、もうすぐ誕生日だって言ってたね。アラバマ、おめでとう」
「ありがとー! たんじょうびプレゼント、買って」
アラバマは目の前の棚を指差した。十個入りのミニドーナツの袋が陳列されている。
「また買ってほしいの?」
「うん。好きだから、ミニドーナツ」
「分かったよ。じゃあ、今から公園に行って、二人で半分分け、なんてどうかな?」
「いいよ! 門限あるから、早く行こうよ」
ミニドーナツを棚から掴み出そうと手を伸ばすと、アラバマも手を伸ばしたので、手と手が重なった。
二人は顔を見合わせて、はにかむように笑った。
鼻はまだずきずきと痛んでいる。鼻の下を掌で拭ってみたが、鼻血は出ていなかった。チノパンツの尻を払い、呆然と立ち尽くす。あたりは静かで、なんの音も聞こえてこない。
ふと思い出し、ポケットからスマホを引っ張り出す。ツイッターのアプリを開く。
通知の詳細を確認すると、相互フォローしているアカウントからのリプライだった。
『いいですね! なんていうか、これからの人生がとっても楽しくなりそう!』
*
アパートに帰るあいだ、アラバマが口にしたセリフがくり返し甦った。
『悪い人じゃなくて、ちゃんとした人だよ』
機械的に足を動かしているうちに、行く手にアパートが見えた。
*
部屋の隅々まで探したが、アラバマが残していったものは一つもなかった。
ベッドに体を投げ出し、なんとはなしにため息をつく。
アラバマの残り香は感じられない。
*
ぼーっとしているうちに、時間は刻一刻と流れ、世界は暗くなる。
洗濯物をたたみ、夕食をとったころには、決意は固まっていた。
*
夜の七時を回り、母親に電話をかける。
「ああ、惣助。今日はどうだった?」
「母さん、実は……」
「どうしたの?」
「実は僕、最近ずっと大学に行ってなかったんだ。これという理由はないんだけど、急に行きたくなくなって、何日か休んだら行きづらくなって、それでずっと」
沈黙。
「でも、明日からは行くから。出席日数、まだ大丈夫だから、今なら取り返せる。だから、明日からちゃんと行くから」
*
大学からの帰り道、食料のストックがなかったことをふと思い出し、スーパーマーケットに立ち寄る。
カゴをとろうとしたが、やめた。弁当売り場に直行するのではなく、反時計回りに順路を進む。
「……あ」
菓子売り場に見知った姿を発見し、足が止まる。
「アラバマ!」
駆け寄る。アラバマは驚いているようだったが、すぐに笑顔に変わった。
「わー、そうすけだ! ひさしぶりー!」
アラバマは今日も黒のパーカーに、穴だらけのジーンズという出で立ち。ただし、パーカーの胸にプリントされた英単語が違っていて、「WISCONSIN」になっている。
「うん、久しぶり。今日はお母さんといっしょ?」
「ううん、一人。おかし買いに来た」
「大丈夫なの? 僕といっしょに出歩いたこと、お母さんは怒ってるんじゃないの」
「怒ってたけど、夜遅くならないようにするなら、もう一人で外に出てもいいって」
「どうして?」
「ぼく、おとといで十歳になったから。一人前になったから、もう一人で外に出てもいいんだって」
「そういえば、もうすぐ誕生日だって言ってたね。アラバマ、おめでとう」
「ありがとー! たんじょうびプレゼント、買って」
アラバマは目の前の棚を指差した。十個入りのミニドーナツの袋が陳列されている。
「また買ってほしいの?」
「うん。好きだから、ミニドーナツ」
「分かったよ。じゃあ、今から公園に行って、二人で半分分け、なんてどうかな?」
「いいよ! 門限あるから、早く行こうよ」
ミニドーナツを棚から掴み出そうと手を伸ばすと、アラバマも手を伸ばしたので、手と手が重なった。
二人は顔を見合わせて、はにかむように笑った。
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