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空き地のピラミッド
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近所の空き地にピラミッドが作られたらしい。
わたしはピラミッドに興味はなかったが、兄が毎日のように空き地まで足を運んでは、ピラミッドは凄い、ピラミッドは凄いと報告するので、次第に気になり始めた。
「そう言えば、お前はまだピラミッドを見に行ったことがなかったな。見に行こうぜ、ピラミッド」
積極的に見に行きたいとは思わないが、積極的に見に行きたくない理由があるわけではない。兄の度重なる催促にとうとう屈し、兄弟揃って空き地へ赴いた。曇天の日曜日の昼下がりのことだ。
目的地に到着すると、確かにピラミッドがあった。底面は五メートル四方、高さは二メートル前後。ピラミッドと言うと、全体が黄金色に光り輝いているイメージがあるが、これは褪せた砂色だ。
「どうだ、立派だろう」
自分が作ったわけでもないのに、誇らしげに兄は言う。
「どうして、ピラミッドが空き地にあるんだろう」
砂色の四角錐を眺めながら、初歩的な疑問をぶつけてみる。
「分からない。いつの間にかあったらしいけど」
「空き地の所有者はさぞ迷惑しているだろうね」
「いや、空き地の所有者が作ったのかもしれないぞ」
「なんでピラミッドなんかを作ったんだろう」
「さあな。秘密基地にでもするつもりなんじゃないか」
「出入り口らしきものはどこにもないけど……」
「地下に通路があって、そこから中へ行けるようになっているのかもしれない」
兄と話をしているうちに、ピラミッドに見飽きてきた。兄はそうでもないようだったが、多少強引に袖を引っ張って空き地を後にした。
帰り道、わたしたちはピラミッドとは無関係の話をした。思春期を迎えてからというもの、兄と話をする機会は減っていたので、こんなにも言葉を交わすのは久しぶりだ。楽しかったが、兄弟水入らずの時間は、予想外の動物の出現に邪魔されることとなる。
カンガルー。
腹のポケットに運動靴の片足を入れた一頭のカンガルーが、いかにもカンガルーらしい跳びはね方で跳びはねながら、こちらに向かってくるのだ。
兄弟揃って道の端に退き、息を殺す。カンガルーはわたしたちを一瞥することなくわたしたちの前を通り過ぎ、曲がり角に消えた。
「見たか。カンガルーだぜ、カンガルー」
兄の声は昂奮していた。
「イメージよりでかくなかったか? 蹴られるかと思って、マジでビビった」
「そうかな。蹴られるとまでは思わなかったけど」
「運動靴を入れていたな、腹のポケットに」
「片足だけだったね」
「多分、なくなったもう片方を探しているんだ。方向的に、ピラミッドまで探しに行ったんじゃないか」
「まさか。たまたま方向が同じだけでしょ」
「いや、行き先はピラミッドだね。――引き返すぞ」
兄は来た道を引き返し始めた。放っておこうかとも思ったが、行き先がピラミッドだけに心配だったので、後に続く。
空き地まで戻ると、相変わらずピラミッドが鎮座していたが、カンガルーの姿は見当たらない。
「ピラミッドの中に入ったんだ。きっとそうだ」
「まさか、そんなはずはないよ」
カンガルーの行方を巡って、兄との間でちょっとした口論が勃発した。
兄は心根が優しい。この言い争いがきっかけとなり、兄弟の間に修復不可能な亀裂が生じるとは考えにくかったが、それでもわたしは、最悪の未来を脳裏に描かずにはいられなかった。
わたしはピラミッドに興味はなかったが、兄が毎日のように空き地まで足を運んでは、ピラミッドは凄い、ピラミッドは凄いと報告するので、次第に気になり始めた。
「そう言えば、お前はまだピラミッドを見に行ったことがなかったな。見に行こうぜ、ピラミッド」
積極的に見に行きたいとは思わないが、積極的に見に行きたくない理由があるわけではない。兄の度重なる催促にとうとう屈し、兄弟揃って空き地へ赴いた。曇天の日曜日の昼下がりのことだ。
目的地に到着すると、確かにピラミッドがあった。底面は五メートル四方、高さは二メートル前後。ピラミッドと言うと、全体が黄金色に光り輝いているイメージがあるが、これは褪せた砂色だ。
「どうだ、立派だろう」
自分が作ったわけでもないのに、誇らしげに兄は言う。
「どうして、ピラミッドが空き地にあるんだろう」
砂色の四角錐を眺めながら、初歩的な疑問をぶつけてみる。
「分からない。いつの間にかあったらしいけど」
「空き地の所有者はさぞ迷惑しているだろうね」
「いや、空き地の所有者が作ったのかもしれないぞ」
「なんでピラミッドなんかを作ったんだろう」
「さあな。秘密基地にでもするつもりなんじゃないか」
「出入り口らしきものはどこにもないけど……」
「地下に通路があって、そこから中へ行けるようになっているのかもしれない」
兄と話をしているうちに、ピラミッドに見飽きてきた。兄はそうでもないようだったが、多少強引に袖を引っ張って空き地を後にした。
帰り道、わたしたちはピラミッドとは無関係の話をした。思春期を迎えてからというもの、兄と話をする機会は減っていたので、こんなにも言葉を交わすのは久しぶりだ。楽しかったが、兄弟水入らずの時間は、予想外の動物の出現に邪魔されることとなる。
カンガルー。
腹のポケットに運動靴の片足を入れた一頭のカンガルーが、いかにもカンガルーらしい跳びはね方で跳びはねながら、こちらに向かってくるのだ。
兄弟揃って道の端に退き、息を殺す。カンガルーはわたしたちを一瞥することなくわたしたちの前を通り過ぎ、曲がり角に消えた。
「見たか。カンガルーだぜ、カンガルー」
兄の声は昂奮していた。
「イメージよりでかくなかったか? 蹴られるかと思って、マジでビビった」
「そうかな。蹴られるとまでは思わなかったけど」
「運動靴を入れていたな、腹のポケットに」
「片足だけだったね」
「多分、なくなったもう片方を探しているんだ。方向的に、ピラミッドまで探しに行ったんじゃないか」
「まさか。たまたま方向が同じだけでしょ」
「いや、行き先はピラミッドだね。――引き返すぞ」
兄は来た道を引き返し始めた。放っておこうかとも思ったが、行き先がピラミッドだけに心配だったので、後に続く。
空き地まで戻ると、相変わらずピラミッドが鎮座していたが、カンガルーの姿は見当たらない。
「ピラミッドの中に入ったんだ。きっとそうだ」
「まさか、そんなはずはないよ」
カンガルーの行方を巡って、兄との間でちょっとした口論が勃発した。
兄は心根が優しい。この言い争いがきっかけとなり、兄弟の間に修復不可能な亀裂が生じるとは考えにくかったが、それでもわたしは、最悪の未来を脳裏に描かずにはいられなかった。
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