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断罪
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髪の毛の長い、若い女性が道端に座り込み、号泣している。
女性の目の前には、赤鬼と青鬼が仁王立ちし、険しい顔つきで彼女を見下ろしている。女性の手にはバリカンが握られている。
「潔く剃髪しろ! 責任を取れ!」
赤鬼が凄まじい剣幕で怒鳴る。いや、鬼だから元々こんな顔なのか。
「あんな不埒な真似をしておいて、謝罪しただけで済むと思っているのか! 反省しているのなら剃髪しろ!」
青鬼の表情は、赤鬼と比べると幾分穏やかだ。しかしその分冷笑的だし、声は赤鬼に負けず劣らず荒々しい。
「嫌ですぅ! 剃りたくなぁい! 髪の毛は女の命なんですぅ!」
女性は泣きじゃくりながら激しく首を横に振る。その動きに合わせて長髪も左右に揺れる。
不埒な真似とは、一体なんなのだろう。女性は中々の美人だったので、異性関係ではないかと推測したが、所詮は推測。手っ取り早く、なおかつ確実に事実を把握する方法は、赤鬼か青鬼に尋ねてみることだろう。しかし、藪をつついて蛇を出すことになるのではと思うと、声をかける勇気は萎えてしまう。
「ほら、剃れ! さっさと剃っちまえ!」
「嫌ぁ! 嫌だぁ!」
「責任を取れ! 行動で示せ!」
「やだぁ! 剃りたくなぁい!」
見ているうちに、段々女性のことが可哀想になってきた。たとえ罪を犯したのだとしても、女性の命を奪い取るなんて、酷すぎる。
藪蛇といっても、まさか殺されるわけではないだろう。彼女を守ろう。男を見せよう。
決意を固め、行動に踏み切ろうとした矢先、
「そこまで言うなら、今回は許してやる。次回からは気をつけろよ」
あっさりと怒りを収め、笑顔まで見せ、赤鬼と青鬼は女性のもとを去った。わたしは安堵するというより、拍子抜けしてしまった。女性は蛇口をキュッと閉めるように泣くのを止めると、バリカンを足元に置いて立ち上がり、わたしのもとまで来た。
「ありがとうございました。あなたのお陰で助かりました」
女性のためになるようなことはなにもしていないので、返答に窮してしまう。苦し紛れに「どうも」と呟き、その場を後にした。
女性は僕の後をついてきた。話しかけてくるわけでも、距離を詰めてくるわけでもない。たまたま向かう方角が同じだけなのだろう。
駅に着いた。切符を買い、改札を通過し、ホームの白線の内側に佇む。女性はわたしのすぐ後ろに並んだ。話しかけた方がむしろ自然だろう。行動に移ろうとした矢先、電車がホームに到着した。苦笑をこぼし、開いたドアから乗り込む。
座席を確保してすぐ、甘ったるい匂いを感じた。通路を挟んだ向かいの座席に座った金髪碧眼の男性が、なにかを食べている。バレーボールほどの大きさの、宇宙空間にも似た色合いの球状の物体だ。男性の口が物体をかじるたびに、パン屑のようなものが床に落下している。匂い自体はチョコレートに似ているが、味も食感も全く想像がつかない。
「車内で食事をするのは構わないにしても、食べ滓を落とすのはマナー違反ですよね」
聞き覚えのある声が隣席から聞こえた。赤鬼と青鬼に責められていた女性だ。
「誰かが一言注意するべきなんじゃないでしょうか?」
わたしは返事をしなかった。赤鬼と青鬼が乗り合わせていたとすれば、どのような対応を取っただろうか、と考えた。
女性の目の前には、赤鬼と青鬼が仁王立ちし、険しい顔つきで彼女を見下ろしている。女性の手にはバリカンが握られている。
「潔く剃髪しろ! 責任を取れ!」
赤鬼が凄まじい剣幕で怒鳴る。いや、鬼だから元々こんな顔なのか。
「あんな不埒な真似をしておいて、謝罪しただけで済むと思っているのか! 反省しているのなら剃髪しろ!」
青鬼の表情は、赤鬼と比べると幾分穏やかだ。しかしその分冷笑的だし、声は赤鬼に負けず劣らず荒々しい。
「嫌ですぅ! 剃りたくなぁい! 髪の毛は女の命なんですぅ!」
女性は泣きじゃくりながら激しく首を横に振る。その動きに合わせて長髪も左右に揺れる。
不埒な真似とは、一体なんなのだろう。女性は中々の美人だったので、異性関係ではないかと推測したが、所詮は推測。手っ取り早く、なおかつ確実に事実を把握する方法は、赤鬼か青鬼に尋ねてみることだろう。しかし、藪をつついて蛇を出すことになるのではと思うと、声をかける勇気は萎えてしまう。
「ほら、剃れ! さっさと剃っちまえ!」
「嫌ぁ! 嫌だぁ!」
「責任を取れ! 行動で示せ!」
「やだぁ! 剃りたくなぁい!」
見ているうちに、段々女性のことが可哀想になってきた。たとえ罪を犯したのだとしても、女性の命を奪い取るなんて、酷すぎる。
藪蛇といっても、まさか殺されるわけではないだろう。彼女を守ろう。男を見せよう。
決意を固め、行動に踏み切ろうとした矢先、
「そこまで言うなら、今回は許してやる。次回からは気をつけろよ」
あっさりと怒りを収め、笑顔まで見せ、赤鬼と青鬼は女性のもとを去った。わたしは安堵するというより、拍子抜けしてしまった。女性は蛇口をキュッと閉めるように泣くのを止めると、バリカンを足元に置いて立ち上がり、わたしのもとまで来た。
「ありがとうございました。あなたのお陰で助かりました」
女性のためになるようなことはなにもしていないので、返答に窮してしまう。苦し紛れに「どうも」と呟き、その場を後にした。
女性は僕の後をついてきた。話しかけてくるわけでも、距離を詰めてくるわけでもない。たまたま向かう方角が同じだけなのだろう。
駅に着いた。切符を買い、改札を通過し、ホームの白線の内側に佇む。女性はわたしのすぐ後ろに並んだ。話しかけた方がむしろ自然だろう。行動に移ろうとした矢先、電車がホームに到着した。苦笑をこぼし、開いたドアから乗り込む。
座席を確保してすぐ、甘ったるい匂いを感じた。通路を挟んだ向かいの座席に座った金髪碧眼の男性が、なにかを食べている。バレーボールほどの大きさの、宇宙空間にも似た色合いの球状の物体だ。男性の口が物体をかじるたびに、パン屑のようなものが床に落下している。匂い自体はチョコレートに似ているが、味も食感も全く想像がつかない。
「車内で食事をするのは構わないにしても、食べ滓を落とすのはマナー違反ですよね」
聞き覚えのある声が隣席から聞こえた。赤鬼と青鬼に責められていた女性だ。
「誰かが一言注意するべきなんじゃないでしょうか?」
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