わたしの流れ方

阿波野治

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生徒会室より

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 生徒会室では生徒会主催の茶会が開かれていた。参加者は生徒会長と、一般の生徒であるわたし、以上二名。
 当校所属の生徒は全員、茶会に出席すること。ただし、同時刻にグラウンドで開催されるドッヂボール大会に参加したい者は、そちらに参加しても構わない。
 そのような告知をした結果、わたしと生徒会長を除く生徒は全員、ドッヂボール大会に参加するためにグラウンドに行ってしまったのだ。
「俺もドッヂボール大会の方に行っておくべきだったかな~」
 椅子を回してわたしに向き直り、生徒会長は微笑する。自虐的ではなく、底抜けに明るい口調だったのが、却って痛々しかった。
 わたしは返事はしなかった。どう答えればいいかが分からなかったからだ。わたしが生徒会室に足を踏み入れて以来、わたしたちはまだ、挨拶の言葉しか交わしていない。
 ドッヂボール大会は大いに盛り上がっているらしく、グラウンドからは絶え間なく歓声が聞こえてくる。わたしは次第に惨めな気持ちになっていく。会話を交わせば少しは気を紛らわせられるのかもしれないが、双方が共通の話題を見出せない現状、それは出来ない相談だ。
 茶会が始まって、まだ十分少々。あと五十分間も、この重苦しい空気の中で過ごさなければならないのかと思うと、世界なんて滅びろ、という心境になる。
「……しゃーねーな」
 生徒会長はおもむろに呟き、テーブルの引き出しを開けた。取り出したのは、黄金色に輝くホイッスル。それをわたしに見せびらかしながら、はきはきとした口調で説明を述べる。
「これは魔物を呼ぶホイッスルだ。これを一吹きすると、都市を壊滅させるレベルの強さの魔物が異空間から現れ、破壊の限りを尽くすと言われているんだが――どうする? 暇だし、吹いてみる?」
「でも会長、そんな魔物を呼び出したりしたら……」
「ホイッスルの近くいる人間は安全らしいし、もう一回吹けば帰っていくらしいから、心配ないさ。吹こうぜ、ホイッスル。茶会に来なかった裏切り者共を皆殺しにしてやろう」
 現在ドッヂボール大会に参加している者の中には、わたしが密かに思いを寄せている女子もいる。しかし、恋が成就する見込みがないこと、気詰りな時間から逃れられるメリットを考え合わせると、首を縦に振らない理由は見出し難しい。
 頷くと、生徒会長は満面に笑みを浮かべ、ホイッスルをくわえて一吹きした。
 二人揃って席を立ち、二人並んで窓辺に立つ。空に巨大な穴が生じたかと思うと、そこから巨大な生物が現れ、グラウンドに降り立った。全高は三階建てのビルほど。両手足の代わりに、蛸や烏賊の足に似た触手が生えた、全身が瘤だらけの肥満した猿、といった姿の魔物だ。
 生徒たちの歓声はたちまち悲鳴に変わった。それを合図に、魔物は触手を鞭のように振るい、生徒たちを片っ端から叩き殺し始めた。
「うおお、すげえ! いけ! 殺れ! 皆殺しだぁ!」
 生徒会長ははしゃいだように声援を送る。魔物は凄まじいペースで生徒たちの命を奪っていく。
 熱狂する気持ちは分からないでもないが、怪物はいくらなんでもやりすぎだ。出現から一分少々が経過した現時点で、既に五十人近く死んでいる。もうそろそろ異空間に帰してもいい頃合いではないか。
 生徒会長が手にしているホイッスルに注目を移すと、その先端には夥しく唾液が付着している。
 ……まあ、満足するまで放っておくとしよう。
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