わたしの流れ方

阿波野治

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北西の森

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 果てしなく広がる草原に、高さ十五メートルほどの円柱状の岩が、自身の高さほどの間隔を置いて無数に地面に突き刺さっている。岩すれすれの空を、ドローンのわたしは飛行している。記憶が改変されているのでなければ、これがわたしにとって初めての飛行ということになる。
 初めての割に、飛行は極めて安定している。機体は微塵も揺らいでいないし、すれすれを飛んでいるにもかかわらず、危うく岩に接触しそうになることは一度もない。どうやらわたしは、高性能なドローンとして生まれついたらしい。
 誇らしい気持ちになった直後、はたと気がつく。わたしはドローンとして飛行しているのだから、わたしを操縦している者がいるはずだ。飛行性能が優れているのではなく、操縦者の技術が優れているに過ぎないのでは?
 一転、暗澹たる心持ちになる。他者に操られる生涯を送るくらいなら、死んだ方がマシだ。
 強い思いとは裏腹に、凄腕の操縦者に操縦されているわたしは、並び立つ岩のいずれかに衝突することも、地面に墜落することもなく、飛行を継続している。自力で死ぬことができないとは、なんと不幸な身の上なのだろう。
 異変が生じたのは、等間隔に突き刺さった岩が尽き、青々とした草原が広がるばかりの景色になった時だった。急に体が軽くなったのだ。
 まさかと思い、右に曲がるよう、自らに命じた。するとわたしは、その通りの動きを取った。続いて、左に曲がろうと試みたところ、その目的は易々と達成された。操縦者とわたし、どちらの身に変化が生じたのかは定かではないが、どうやらわたしは自由を得たらしい。
 生まれて初めて獲得した自由は、困惑を伴った。どのような目的を持ち、どこへ向かえばいいのか、それが分からない。これでは操縦されていた時と同じだと思いながら、ひたすら真っ直ぐに飛び続けた。
 やがて前方に切り立った崖が見えた。何者かの姿がある。ホバリングし、様子を窺う。二匹の、いや、二人の猿人だ。焚火を挟んで相対し、言葉を交わしている。会話に夢中になっているらしく、わたしの存在には気がついていない。
 最近、このあたりもめっきり食料が少なくなった。北西の森までいけば食べるものはそれなりにあるが、毎日通うには遠すぎる。そろそろ引っ越しを考えないといけない時期かもしれない。
 二人はそういう意味の言葉を交わしている。
 彼らの話を聞いて、目的と行き先は自ずと決まった。機体の向きを変え、北西の森へ向かう。自らの意思で人のために働く喜びをひしひしと感じながら。
 二本足で歩かなければならない彼らからすれば遠い餌場にも、わたしにかかれば数分で着く。木の枝に機体が接触しないよう、鬱蒼とした森の中を慎重に進む。
 ほどなくして、ふんだんに実をつけた葡萄の木を見つけた。彼らが喜ぶ姿が脳裏に浮かび、こちらまで嬉しくなった。一直線に紫色の果実に近づく。
 あと一歩、というところまで来て、急に動きが止まった。
 故障? 操縦権が操縦者に復帰した?
 違う。蜘蛛の巣に引っかかったのだ。
 不意に気配を感じ、顔を上げた。一本の糸を伝って蜘蛛が降りてくる。黄緑、オレンジ、ピンク。毒々しいまだら模様の、人間の掌よりも大きな蜘蛛。
 わたしは無機物だから、蜘蛛に食べられずに済むはずだ。
 そう自らに言い聞かせたが、虚しいだけだった。
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