わたしの流れ方

阿波野治

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烏賊と神社

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 自室でパソコンに向かい、エロゲをプレイしていると、突然、壁を突き破って一台のバイクが闖入してきた。全身真っ黒、重厚な印象の大型バイクだ。
 運転席に座っているのは、人間ほどの大きさの烏賊。十本の脚のうち、四本でハンドルを握り、六本で跨っているので、安定感がある。
 生きている烏賊を生で見たのは初めてだが、思ったよりもぬめぬめしていない。あるいは、バイクで走行している間に乾いたのか。
「あうぇsdrf神社まではどう行けばいいですか」
 烏賊が尋ねた。渋い男性の声だ。滑舌が悪く、なに神社と言ったのかが聴き取れなかった。
「あうぇsdrf神社までの道順を教えてください」
 分かりにくい表現を使ってしまったと勘違いしたらしく、言い回しを替えて再度問うてきたが、やはり肝心の部分が聴き取れない。なに神社とおっしゃいましたか、と聞き返そうかと思ったが、そうしたところで、あうぇsdrf神社、という答えが返ってくるだけだろう。なに神社に行きたいのかは、こちらで推測するしかない。
「神社でしたら、家の前の道を北に真っ直ぐに進んで、三つ目の信号を右に折れてください。そうしたら看板が出ているので、それを参考にすればいいですよ」
 自宅の最も近くに建つ神社を念頭に、分かりやすさを心がけて、正確な道順を教えた。烏賊が行きたいのは別の神社かもしれないが、行きたいのがなに神社かが定かではないのだから、教えようがないではないか。そんな開き直りの気持ちがわたしにはあった。仮にそこが目的の神社ではなかったとしても、赤の他人の部屋の壁を破ってまで道を尋ねようとした烏賊のことだ。別の誰かに神社への行き方を訊くだろうから、心配はいらない。
「ありがとうございます。よろしかったら、後部座席に乗ってあうぇsdrf神社まで一緒に行きませんか? あうぇsdrf神社では今、茸祭りが行われているのですよ。楽しいですよ、茸祭り」
「いや、止めておきます。エロゲがしたいので」
「……そうですか。残念です。では、私はこれで」
 烏賊は窓硝子を突き破って部屋を出て行った。
 不思議なもので、烏賊がいなくなった途端、その茸祭りに行ってみたいという欲求が生じた。壁と窓、二か所に穴を開けられて、気持ちが落ち着かないから、外にでも行こうか、という気分になったのかもしれない。外出の支度を手早く整えて自宅を発った。
 近所の神社には十分ほどで到着した。この神社はあうぇsdrf神社ではないが、万が一ということもある。鳥居を潜り、参道を道なりに進む。
 茸祭りは開かれていた。本殿の前の広場のようになった場所。その中央の地面に、ピンク地に水玉模様というポップなカラーリングの、小学六年生の男児くらいの背丈の茸が生えている。その周囲を、狐の面を被った、上は裸、下は褌という出で立ちの老若男女十数名が、舞を舞いながらゆっくりと周回している。
 数名の中には、若い女も二人いる。彼女たちの剥き出しの乳房に着目したならば、烏賊が言ったように、楽しいと言えるかもしれない。しかし、それは最初だけの話。眺める時間が長引けば長引くほど興奮は冷めていくし、舞が悠長なため、段々眠たくなってくる。
 それでも、すぐに帰るのはせっかく勧めてくれた烏賊に悪いという思いから、辛抱強く祭りを見物し続けた。
 すると次第に、茸が烏賊に見えてきた。
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