わたしの流れ方

阿波野治

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小人のピザ屋

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 小人が配達してくれるピザ屋が近所にオープンした。
 その一報を聞いて、わたしは喜んだ。小人が配達してくれるから喜んだのではない。自宅から近い場所にピザ屋がオープンしたことで、注文してすぐにピザが食べられるようになったから喜んだのだ。ピザさえちゃんと届くならば、配達するのが人間だろうと、小人だろうと、どうでもいい。
 そのピザ屋の注文方法は面倒くさかった。電話で注文したのだが、生地はどのタイプにするかだとか、トッピングはどれがいいかだとか、何十項目も質問をしてくるのだ。
 どんなピザが食べたい、ではなく、ただ単にピザが食べたいだけのわたしは、辟易した。ピザの範疇から逸脱しない程度に、そちらの感性で好きなようにやってくれ。そう思ったが、それでは話が先に進まないので、質問に一つ一つ根気強く答えていく。
 十分近く受け答えして、漸く注文が完了した。配達が完了するまでには、電話をかけてから注文を完了するまでに要した時間と同程度かかるという。
 待っている間にトイレ掃除をしてしまおう。トイレ掃除は一週間に一回することに決めていた。
 一度はトイレに向かいかけたが、面倒くさいな、と思った。一週間に一回しかトイレ掃除をしないのは、週に一回すれば充分と考えているからではなく、毎日するのが面倒だからだ。
「十分ではちゃんと掃除できないから、食べ終わった後でやろう」
 声に出して呟き、スマホでゲームでもしながらピザを待とうと、ダイニングの椅子に腰かけようとした瞬間、
「また易きに流れている。そんな調子では、いつまで経っても、成し得るものを成し得られないぞ」
 いかめしい男性の声が呆れたように苦言を呈した。
 マグネットだ。冷蔵庫の扉に貼りつけてある、五センチ四方のマグネット。私の祖父が青年だった頃からずっと家にあるマグネットで、冷蔵庫が買い換えられても生き残り続け、今年で五十年目になる。
 マグネットは、年月を経たことで無機物にもかかわらず意思を持った、付喪神だ。彼はかつて、給食の献立表やゴミ収集日予定表など、様々な紙片を挟んできたが、電子化の波が到来すると共にお役御免となり、単なる飾りと成り下がった。その境遇に不満を抱き、わたしがすることに頻繁に文句をつけてくるのだ。
 わたしにとっては煙たい存在だが、年の功があるので、口論をしても到底敵わない。妖気を帯びた存在であるが故に捨てがたくもある。分かったよ、という風に苦笑で応じ、トイレに向かう。
 ピザが届く時間に間に合うように掃除を済ませた。チャイムが鳴ったらダッシュで応対に出るつもりで、ピカピカに磨かれた便座の真横でクラウチングスタートの構えを取る。その僅か数秒後、期待していた音が鳴った。猛然とスタートしたが、
「ぐわーっ!」
 便座以上に入念に磨いた床に滑り、激しく転倒。背中を強打し、激痛のあまり起き上がることが出来ない。苛立ったようにチャイムが連打される。
 マグネットよ、わたしの代わりにピザを受け取ってくれ。
 そう念じたものの、彼は自力では動けない。口うるさいだけの無能なのだ。
「要らないんですか? じゃあ、注文は取り消しですね」
 不意にチャイムが鳴り止んだかと思うと、聞き覚えのない男な声が飛んできた。それに続いて聞こえてきたのは、がつがつ、という咀嚼音。獣が肉を貪り食らっているかのような、野蛮な、浅ましい食事の音だ。
 配達に来たのは小人ではないのか……?
 咀嚼音が止み、入れ替わりに、激しいノックの音が響き始める。
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