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本当の終わり
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眠気覚ましにブラックコーヒーをすする昼下がり、なんらかの劇的な変化がこの世界に生じた気がした。この感覚は、わたしの語彙と表現力では到底説明できない。世界規模で、しかも劇的に変化したのだから、わたしの能力では説明できないのも無理はない。
居ても立ってもいられなくなり、自室を飛び出した。階段を駆け下り、玄関へ向かおうとして、リビングに人の気配を感じた。ドアを開けると、腐臭が鼻を衝いた。
姉がテーブルの足元に横たわっている。素っ裸だったため、全身が腐っていることが一目で分かった。駆け寄り、抱き起こすと、弱々しい表情がわたしを見返した。近い将来に自らの命が確実に失われることを明瞭に悟った者特有の表情だ。
「お姉ちゃんはもう駄目。環境の変化についていけなかった。新しい世界に適応できなかった」
表情とは異なり、声からはある種の力強さが感じられた。姉は自ら望んで腐ることを選んだのではないか、という疑いが生じた。しかし、今はそんなことはどうでもいい。
「お父さんやお母さんと同じ場所に私を埋めて。頼んだよ。自分を育ててくれた人と永遠に同じ場所にいられるなら、悔いなんてない」
断言した瞬間、腐敗が急速に進み、姉は単なる腐った人型の物体と化した。それが姉の最期だった。
腐乱死体を純白のカーテンでくるみ、父親と母親が眠る墓地まで向かおうとして、世界は既に劇的に変化してしまっていることを思い出す。目的地まで移動するために、必ずしも体力と時間を消費する必要はないはずだ。
わたしは墓地にいる。心中で呟き、瞼を閉ざす。すぐさま開くと、わたしは墓地にいた。足元には当然の如く、カーテンにくるまれた姉の遺体が横たわっている。
父親と母親が眠る墓はすぐ目の前にあった。尖塔のような形状の墓石が凛然と屹立している。
遺体を抱え上げ、墓の前にかざす。姉の亡骸は水中に没するように静かに墓石にめり込んでいき、ほどなく完全に埋もれた。
やるべきことは全てやった。達成感とも寂寥感ともつかない感情が胸中を占めている。全く同じ感情を過去に抱いたことがある気がしたが、詳細な時期とシチュエーションは思い出せない。あるいは常に胸裏を占めていたが、喜びや悲しみやその他諸々の感情に邪魔されて前面に出ることがなかったに過ぎない、ということなのか。
やるべきことは全てやった。では、これからなにをやればいいのか。
ミーミー、という、か細い声が聞こえた。右手にある叢の中から、何匹もの猫が次から次へと現れ、わたしの前まで来た。どの顔にも見覚えがある。いずれもわたしが過去に飼育し、死に別れた猫だ。
『どうしたの、浮かない顔をして』
猫が問いかけてきた。どの猫が、ということではなく、全ての猫が同時に。
「やるべきことを全てやってしまったから、なにをやればいいかが分からないんだ。なんでもやれるのは分かっているんだけど、なにせ選択肢が無限だから」
『そういうことなら、ついてきて』
丸一日歩き通したような疲労感と引き換えに、一瞬にして目的地に到着した。生まれ故郷を一望できる小高い丘の上だ。
『ここで待っていれば、いつか本当の終わりが来るよ』
「いつかって、いつなの?」
『もう終わりにしてもいい、と君が思った瞬間だよ』
気乗りはしなかったが、本当の終わりを待ってみることにした。
猫たちはみな、わたしの周りから離れない。うたた寝をする猫、グルーミングに勤しむ猫、景色を眺める猫。彼らの喉から発せられる、リラックス状態にあることを示すゴロゴロという声は、永遠に続きそうな気がした。
居ても立ってもいられなくなり、自室を飛び出した。階段を駆け下り、玄関へ向かおうとして、リビングに人の気配を感じた。ドアを開けると、腐臭が鼻を衝いた。
姉がテーブルの足元に横たわっている。素っ裸だったため、全身が腐っていることが一目で分かった。駆け寄り、抱き起こすと、弱々しい表情がわたしを見返した。近い将来に自らの命が確実に失われることを明瞭に悟った者特有の表情だ。
「お姉ちゃんはもう駄目。環境の変化についていけなかった。新しい世界に適応できなかった」
表情とは異なり、声からはある種の力強さが感じられた。姉は自ら望んで腐ることを選んだのではないか、という疑いが生じた。しかし、今はそんなことはどうでもいい。
「お父さんやお母さんと同じ場所に私を埋めて。頼んだよ。自分を育ててくれた人と永遠に同じ場所にいられるなら、悔いなんてない」
断言した瞬間、腐敗が急速に進み、姉は単なる腐った人型の物体と化した。それが姉の最期だった。
腐乱死体を純白のカーテンでくるみ、父親と母親が眠る墓地まで向かおうとして、世界は既に劇的に変化してしまっていることを思い出す。目的地まで移動するために、必ずしも体力と時間を消費する必要はないはずだ。
わたしは墓地にいる。心中で呟き、瞼を閉ざす。すぐさま開くと、わたしは墓地にいた。足元には当然の如く、カーテンにくるまれた姉の遺体が横たわっている。
父親と母親が眠る墓はすぐ目の前にあった。尖塔のような形状の墓石が凛然と屹立している。
遺体を抱え上げ、墓の前にかざす。姉の亡骸は水中に没するように静かに墓石にめり込んでいき、ほどなく完全に埋もれた。
やるべきことは全てやった。達成感とも寂寥感ともつかない感情が胸中を占めている。全く同じ感情を過去に抱いたことがある気がしたが、詳細な時期とシチュエーションは思い出せない。あるいは常に胸裏を占めていたが、喜びや悲しみやその他諸々の感情に邪魔されて前面に出ることがなかったに過ぎない、ということなのか。
やるべきことは全てやった。では、これからなにをやればいいのか。
ミーミー、という、か細い声が聞こえた。右手にある叢の中から、何匹もの猫が次から次へと現れ、わたしの前まで来た。どの顔にも見覚えがある。いずれもわたしが過去に飼育し、死に別れた猫だ。
『どうしたの、浮かない顔をして』
猫が問いかけてきた。どの猫が、ということではなく、全ての猫が同時に。
「やるべきことを全てやってしまったから、なにをやればいいかが分からないんだ。なんでもやれるのは分かっているんだけど、なにせ選択肢が無限だから」
『そういうことなら、ついてきて』
丸一日歩き通したような疲労感と引き換えに、一瞬にして目的地に到着した。生まれ故郷を一望できる小高い丘の上だ。
『ここで待っていれば、いつか本当の終わりが来るよ』
「いつかって、いつなの?」
『もう終わりにしてもいい、と君が思った瞬間だよ』
気乗りはしなかったが、本当の終わりを待ってみることにした。
猫たちはみな、わたしの周りから離れない。うたた寝をする猫、グルーミングに勤しむ猫、景色を眺める猫。彼らの喉から発せられる、リラックス状態にあることを示すゴロゴロという声は、永遠に続きそうな気がした。
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