7 / 77
女と虎と
しおりを挟む
見知らぬキュートな双子の幼女が、わたしの自宅の庭の物干し竿に勝手に洗濯物を干している。
物干し竿の高さは二メートル近くあり、身長一メートルにも満たない彼女たちには手が届くはずもないのだが、洗濯物を干すべく手を伸ばしたと思った瞬間、その手は物干しハンガーに達し、洗濯バサミに衣類を挟んでいる。瞬間的に手が伸びているものと推察されるが、いくら目を皿にしても、伸びる瞬間を目視することは叶わない。
洗濯物は、双子の足元に置かれた竹籠にしこたま詰め込まれていて、デフォルメされた動物のイラストがプリントされたものが多い。
わたしはなんと声をかけていいか分からない。当たり前のように手が伸びているので、なぜ手が伸びるのかと尋ねるのも却って馬鹿馬鹿しい。ここはやはり――。
「こらっ! 人の家の物干し竿に勝手に洗濯物を干すんじゃない! こらっ!」
双子の幼女は手にしていた洗濯物を取り落とした。抱き合い、怯えた目でわたしを見返す。彼女たちは声を揃えた。
『助けて! 虎よ!』
刹那、わたしの体は虎になった。それと同時に、荒々しい破壊衝動が全身に漲った。
残忍な人間を「ケダモノ」と罵ることがあるが、「虎」という言葉を用いるのは独自性がある。褒美に、二人まとめて食ってやろう。
わたしは双子の幼女に向かって突進した。大口を開け、その柔らかい肉に牙を突き立てようとした瞬間、動きが止まる。双子のどちらから食えばいいのだろう?
逡巡した一瞬の隙に、双子の幼女はどろりと融け、質量保存の法則を無視して大量の水と化した。あっという間に自宅周辺は浸水したが、虎は泳げるので問題ない。
さて、どこへ行こう?
天竺にしよう。それがいい。天竺ならば美味い食い物や美しい女が掃いて捨てるほど存在するだろうし、なにより泳がなくても済む。浸水した天竺なんて、聞いたこともない。
いくら進んでも水は尽きない。疲れれば漂流物に前脚で掴まって体を休め、腹が減れば飛んできた鳥や泳いでいる魚を獲って食った。
三日三晩泳ぎ続けて、漸く天竺に着いた。予想通り、天竺は陸の上にあった。入ってすぐの場所に、黄金色のインド風の建物が建っている。正面玄関から中に入ると、室内にはかぐわしい伽羅の匂いが充満していて、玉座に王が座っていた。
跪き、三日間の旅の模様を仔細に報告すると、褒美をつかわす、と王は言った。美味い食い物と美しい女を用意してあるらしい。美しい女というのは、あるいは双子の幼女のことかもしれない。
期待半分、不安半分で別室のドアを開けると、色とりどりのフルーツに囲まれて、エキゾチックでセクシーな大人の女性が胡坐をかいていた。
女と食い物、どちらを先に味わおう?
思い悩むわたしは、紛れもなく人間だった。
物干し竿の高さは二メートル近くあり、身長一メートルにも満たない彼女たちには手が届くはずもないのだが、洗濯物を干すべく手を伸ばしたと思った瞬間、その手は物干しハンガーに達し、洗濯バサミに衣類を挟んでいる。瞬間的に手が伸びているものと推察されるが、いくら目を皿にしても、伸びる瞬間を目視することは叶わない。
洗濯物は、双子の足元に置かれた竹籠にしこたま詰め込まれていて、デフォルメされた動物のイラストがプリントされたものが多い。
わたしはなんと声をかけていいか分からない。当たり前のように手が伸びているので、なぜ手が伸びるのかと尋ねるのも却って馬鹿馬鹿しい。ここはやはり――。
「こらっ! 人の家の物干し竿に勝手に洗濯物を干すんじゃない! こらっ!」
双子の幼女は手にしていた洗濯物を取り落とした。抱き合い、怯えた目でわたしを見返す。彼女たちは声を揃えた。
『助けて! 虎よ!』
刹那、わたしの体は虎になった。それと同時に、荒々しい破壊衝動が全身に漲った。
残忍な人間を「ケダモノ」と罵ることがあるが、「虎」という言葉を用いるのは独自性がある。褒美に、二人まとめて食ってやろう。
わたしは双子の幼女に向かって突進した。大口を開け、その柔らかい肉に牙を突き立てようとした瞬間、動きが止まる。双子のどちらから食えばいいのだろう?
逡巡した一瞬の隙に、双子の幼女はどろりと融け、質量保存の法則を無視して大量の水と化した。あっという間に自宅周辺は浸水したが、虎は泳げるので問題ない。
さて、どこへ行こう?
天竺にしよう。それがいい。天竺ならば美味い食い物や美しい女が掃いて捨てるほど存在するだろうし、なにより泳がなくても済む。浸水した天竺なんて、聞いたこともない。
いくら進んでも水は尽きない。疲れれば漂流物に前脚で掴まって体を休め、腹が減れば飛んできた鳥や泳いでいる魚を獲って食った。
三日三晩泳ぎ続けて、漸く天竺に着いた。予想通り、天竺は陸の上にあった。入ってすぐの場所に、黄金色のインド風の建物が建っている。正面玄関から中に入ると、室内にはかぐわしい伽羅の匂いが充満していて、玉座に王が座っていた。
跪き、三日間の旅の模様を仔細に報告すると、褒美をつかわす、と王は言った。美味い食い物と美しい女を用意してあるらしい。美しい女というのは、あるいは双子の幼女のことかもしれない。
期待半分、不安半分で別室のドアを開けると、色とりどりのフルーツに囲まれて、エキゾチックでセクシーな大人の女性が胡坐をかいていた。
女と食い物、どちらを先に味わおう?
思い悩むわたしは、紛れもなく人間だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる