わたしの流れ方

阿波野治

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完成度が低い小説

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「あなたの小説は完成度が低い」
 先生はそうおっしゃった。金賞をとったわたしの小説に対する評価だった。金賞に値すると評価を下した審査員は、他ならぬ先生なのに。
「まあ、意味がないとは言いませんが」
 先生が言う「意味がないとは言わない」とは、無意味だという意味がある、という意味だとわたしは解釈した。
「丁寧なご批評、ありがとうございました」
 丁重に礼を述べ、先生の自宅を後にした。
 その足で、田畑さん家のビニールハウスまで行った。
 裏口に一匹の子ヤギが繋がれている。完成度は低いが意味はある小説の原稿を与えると、子ヤギはあっという間に平らげた。しかし完成度の低さが災いし、子ヤギの体型は歪に歪んでしまった。
 大変なことをしてしまった。推敲をしなければ。
 子ヤギの体を続け様に平手打ちする。打擲するたびに子ヤギの体は徐々に平べったくなっていき、最終的には原稿用紙の束と化した。書かれている文字を読んでみると、先生から金賞をもらい、「完成度が低い」と評されたわたしの小説そのものだった。
 その小説を胸に抱えて先生の自宅に引き返し、読んでもらった。金賞に値するが、完成度が低い、と先生は評した。わたしは堪らなく恥ずかしくなり、逃げるように先生の自宅を去った。
 帰り道を悄然と歩いていると、道が続いているはずの場所が川になっていて、小型の木船が川面に浮かんでいる。
 乗り込むと、船はひとりでに進み始めた。人間が普通に歩く程度の速度だ。右に曲がれと念じれば右に曲がり、止まれと願えば停止し、時空を超えろと命じれば瞬時に違う川へと移動した。木船はわたしの意のままに操ることができるらしい。
「あれは私小説だね」
 いきなり川岸にいた人が声をかけてきた。嬉しさと照れくささ、両方が込み上げた。悪い気分ではない。さらに水上を進むと、
「あれは私小説だね」
 再び川岸にいた人が声をかけてきた。同じ声、同じ外見だったが、さっきの人とは別人らしい。照れくさかったが嬉しかった。さらに水上を進んだ。
 時々「あれは私小説だね」と声をかけてくれる人に出会い、嬉しくも照れくさくもある気持ちになりながら川をひた進んでいると、やがて行く手に砂浜が見えた。
 別の川にテレポートしようかとも思ったが、着岸し、降り立つ。巨大で立体的な砂の城が築かれていたので、裏口から城内に足を踏み入れると、そこはわたしの自室だった。
 中央に見知らぬ卓袱台が置かれている。その上に何枚もの白紙の原稿用紙が用意されている。
 それを見て、わたしは木船を意のままに操ることができた理由をおおむね理解した。
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