わたしの流れ方

阿波野治

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危ない缶

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 梅雨が明け、気温が上昇したのに伴い、分厚い掛け布団が暑苦しくなってきた。邪魔だし、古くなってきたから、そろそろ処分してしまいたい。
 このような大きな不要物は、どう処分するのが正しいのだろう。粗大ごみ? それとも、ごみ袋に入るサイズに切り分けて燃えるごみの日に出す? どちらも手間がかかるし、さて、どうしたものか。
 机上のカフェオレの缶を手に取り、残り四分の一程度にまで減った中身を一気に飲み干す。空き缶を元の場所に置いた途端、万年床の掛け布団がひとりでに動き出した。ずるずる、ずるずると床を這いながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。
 身構えたが、掛け布団の一端が触れたのは、わたしの体ではなく空き缶の口だった。ずるずる、ずるずると缶に吸い込まれていき、ほどなく全体が中に収まった。
 手に取ってみる。持ち上げられないわけではないが、ずっしりと重たい。
 缶の回収日に出せるのはありがたいが、経緯が経緯だけに気味が悪く、三日後の収集日まで部屋に置いておくのは気乗りがしない。なにかいい方法はないだろうか?
 こういう時に頼るべきは、文明の利器だ。缶、処分、即日。検索窓に打ち込んで検索ボタンを押す。
 ディスプレイに表示されたのは、検索結果ではなく、消防署の公式サイトだった。書いてあることは消防署のサイトらしい文言ばかりなのだが、背景が一面真っ赤なので、名状しがたい気味の悪さを感じる。
 ブラウザバックした途端、外からサイレンが聞こえてきた。状況が状況だけに、跳び上がるほど驚いた。音はすぐに止んだ。
 カーテンを開けると、アパートの前の道に一台の消防車が停まっている。運転席のドアが開き、屈強な体格の消防隊員が出てきた。嫌な予感がした。消防隊員はアパートの階段を駆け上がる。少し間があって、わたしの部屋の玄関ドアが開く音が聞こえた。ドアの鍵をかけ忘れていたのだ。カフェオレの空き缶を胸に抱き締め、玄関へ。
 侵入者は案の定、屈強な消防隊員だった。玄関ドアを入ってすぐの場所で揉み合いになった。
「その空き缶を渡しなさい! 燃えて危ないから! 渡しなさい!」
 消防隊員は拳を振るい始めた。身の危険を感じたわたしは、正当防衛を大義名分に、消防服越しにも厚いと分かる胸板を突いた。消防隊員の体は勢いよく吹き飛んだ。玄関を通過し、廊下のフェンスを突き破り、衝撃音。玄関を飛び出し、階段を駆け下りる。
 消防隊員は人間ほどの大きさの岩になり、駐車場に転がっていた。ごつごつとした表面に消防服が引っかかっていて、形がどことなく消防隊員めいていたので、消防隊員の成れの果てだと分かった。試しに持ち上げてみると、驚くほど軽い。
 わたしはアパートの前の道に停まっている消防車のもとまで移動し、開けっ放しになったドアから、まずは岩を、次いで掛け布団が入ったカフェオレの空き缶を、運転席へと無造作に投げ込んだ。
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