今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

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第四部

第二章:03

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・・・


バタバタとけたたましくヘリのローター音が響き渡る。
遠くかすむ海上には巨大な基地があるが、まだ小さな点にしか見えない。


「――すでに海上保安庁と機動隊が攻撃を仕掛けたけど、
 どちらも近づくことさえできずに追い払われたって!」


輸送ヘリに同乗した桜田が、爆音に負けぬよう声を張り上げて叫ぶ。
その説明を黒い車体のI-I2にまたがり、じっと腕を組んで聞く。

隣ではアルカーに装身した火之夜が、同じようにXinobi NX-6Lに
またがり、セパレートハンドルを握り締めている。


基地が浮上してから、丸一日以上が経過した。
その間、CETの偵察班が得られた情報全てをつぶさに精査し、
御厨たち作戦本部が海底(今は海上だが)基地攻略の作戦を立案した。



やることは、単純。――アルカーとノー・フェイスによる、
基地の制圧と転送装置の確保、だ。

先の桜田の報告どおり、警察でも自衛隊でもフェイスダウンの
科学力の前では、太刀打ちどころか近づくことさえできない。
そちらを牽制していた天津がいなくなったことでCETの制止も
むなしく先走ったようだが――損害がでなかっただけ、マシというものか。


だが放置しておけば自衛隊が出張り、さらなる戦力の投入が
行われるだろう。そうなればフェイスダウンによる迎撃も苛烈になり、
今度は死者も大勢でることになる。そうなる前に、手を打つ必要があった。



こちらはホオリたちを奪われたというアドバンテージをとられている。
もとより、時間をかけて慎重に挑む余裕など、ありはしない。



「――その時得られた知見をもとに、限界接近距離を算出したから!
 あの基地の外苑から、およそ40km! いける!?」
「ああ! その距離なら、海上を走らせられる!」


アルカーが桜田に怒鳴り返す。前回の襲撃の際、ヒュドールが水の道を
創り出したのを参考に海上を走る術を獲たらしい。
そうなれば危険な上空や速度の遅い船舶を使うより、最高時速300km以上を
たたき出すノー・フェイスたちの愛車で近づいた方が、安全だ。


脚の間から伝わるエンジンの鼓動の力強さが、頼もしく感じられる。
このバイクとの付き合いはせいぜい数ヶ月程度だが、ノー・フェイスにとっては
"人生"の大半を共にした相手でもある。いまや、アルカーとはまた別の
"相棒"と呼ぶに相応しい愛着があった。


黒光りのメタリックボディが、物言わず鎮座している格納庫。
そっとそのタンクを撫で、祈るように心中で呟く。


(頼むぞ、相棒……ホオリたちを救い出すために、俺たちを
 あそこへ連れて行ってくれ……)


「……投下地点まで、あと20秒!」
「――だってさ! あとはよろしくね、ノーちん、火之夜!」


桜田が離れ、格納庫のハッチを操作する。
がごん、と音をたててゆっくりと開いていく扉から、蒼い光が
少しずつ広がっていく。その先には一面の海だ。

その海面を見つめながら、ノー・フェイスは桜田に話しかけた。


「……桜田」
「ん!? なに!? まだ気になるところ、あった!?」
「――今まで助けられた。ありがとう」


素直な気持ちを口に出しただけのつもりだったのだが、言われた
桜田は面くらったようだった。


「……なんかそういうの、嫌なフラグみたいでやだなぁ」
「言っている意味がよくわからんが……
 この作戦が終われば、事実上フェイスダウンとの戦いも終わりを
 告げる可能性もある。だから、言っておきたかった」


返答しながらノー・フェイスは数時間前のことを思い出していた。


・・・


「――ごめん、なさい……。」

青ざめた顔で震えながら呟いたのは、小岩井医師だった。
普段は柔和な笑顔をたたえているその顔が、今はかわいそうなほど
ひきつっている。


「……私が、私にまかせてと言っておきながら……結局話す機会を逸して。
 それで、こんなことに……」
「おまえの責任は何もない。ホオリがあそこまで大胆な行動をとるのは
 誰にも予想がつかなかったし、守りきれなかったのはオレの責任だ。
 ……オレの方こそ、おまえにあやまらねばならん」
「いいえ……!」


のしかかる痛いほどの自責を押し隠し、彼女の心痛をやわらげようと
かけた言葉は、かえって逆効果だったようだ。髪が乱れるのも気にせず
激しくかぶりをふり、否定する。


「ノー・フェイスさんは……ノー・フェイスさんたちは、いつも彼女に
 危険が訪れないよう見守ってきた。なら、彼女の心をケアするのは
 私の役目。彼女がここを飛び出すほど思いつめていたなら、私が
 察しなければいけなかったんです!
 それを……私、は……」
「……小岩井……」


言葉尻に涙をまじえ、小岩井がうつむく。その肩を両手で抱き、
可能な限り優しく声をかける。


「……ホオリは、おまえによく懐いていた。オレにも、おまえにも
 何も言わず出て行ったなら……他の誰にも、聞く機会はなかっただろう。
 あいつも……きっと、自分がそんなことをするなど、思っていなかったはずだ」
「ノー・フェイス、さん……」
「あいつは、無事だ。精霊でつながっているオレには、わかる。
 だから……そんな顔を、しないでくれ」


くしゃくしゃになった顔で見上げる小岩井、そのまなじりに溜まった涙を
そっと指ですくってやる。この女性は、常に他人を思いやり優しく微笑んでいた。

――こんな顔は、似つかわしくない。


「ホオリは、オレが必ず連れ戻す。ホデリもだ。
 だから――おまえは、二人を迎え入れる準備をしていてくれ」
「……ふふ。ノー・フェイスさんがそう言ってくれると、
 他の誰よりも信用できますね……」

多少無理しながらだろうが、わずかに笑顔をのぞかせてくれた小岩井に
少し救われる。


「ホオリたちは……オレが、必ず連れ戻す。なににかえてもだ」
「……ノー・フェイスさん?」

こちらの気負った言葉に、小岩井がふたたび顔をくもらせる。
何か、不穏なものを感じ取ったのだろうか。
――察しのいい女性だ。


その不安を晴らすように、つとめて明るい声で重ねて約束する。


「アルカーもいる。サポートしてくれるものたちもいる。
 大丈夫だ――彼女たちは、必ずここに戻ってくる。必ず、だ――」


・・・


(……)


小岩井たちの顔を思い出しながら、そっと胸に手をあてる。
ホデリに、貫かれた中心。雷の精霊が宿る、その胸に。


「……大丈夫だ」
「ノー・フェイス! いけるか!?」


アルカーの張り上げた声に、面をあげて前を見る。
ハッチは進行方向の反対。海面が、後方へと流れていく。


限界接近距離だ。



アルカーの声に応えるように、スロットルを開く。
ギア操作をし、ローからセカンド、セカンドからサードへとスムーズに
あげていく。スロットルは全開に近い。

スーパーチャージャーを搭載したモンスターマシンはそれに応え、
咆哮をあげながらタイヤを回転させる。あっという間に格納庫を飛びだし、
空中へと舞う。


精霊の力で車体を保護し、海面に擬似的な道を生み出す。
数百mの高さから叩きつけられた衝撃をうまく逃がし、タイヤが海面に食い込む。
ギャリッ、と音を立てて前輪を滑らせ、フェイスダウンの基地へと矛先をむけた。



――向かう先に待つのは、自分を含めたフェイス全ての基礎となった――
プロトタイプフェイス、"大戦闘員"キープ・フェイス。
大改人さえも萎縮させるその存在に、いいしれぬ恐怖を感じぬでもない。



だが。



ばしゃん、と後方で大きな水柱がたつ。
同じように降りてきたアルカーと彼が駆るNX-6Lが、着水したのだ。


一瞬、アルカーとノー・フェイスの視線が錯綜する。
何も言わずとも、それだけでお互いの覚悟が伝わってきた。



そうだ。



この最強の"英雄ヒーロー"と共になら、どんな強敵にも勝利して来れた。
だから――何も恐れることはない。



(――もって、くれよ――)
ぎゅっ、と胸をもう一度掴むと、前方にむきなおりスロットルを開ける。
弾丸のようにバイクが加速し、基地へと走り出した。




決戦の時は、近い。


・・・

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