今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

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第二部

第一章:02

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・・・


ばたばたと服をはためかせ、愛機I-I2を疾走させる。
なるほど、フェイスダウンの活動が昼間に移ったことで、現場に移動するに
躯体むきだしの姿では支障がでる。まったく意味が無いわけでもないらしい。

内側にフーディを着て頭部を隠し、濃紺のテーパードジーンズで固めている。
併走する火之夜のように上下一体化したライダースーツの方が着やすそうだが、
あいにく入る体形がなかった。

「ノー・フェイス! そろそろ現場が近い! やるぞ!」
「――了解。ホオリ、頼む!」
『うん。アナタに、力を――!』


火之夜が精霊の力を制御している腰のベルトを開き、アルカーの力を解放する。
ノー・フェイスは精霊と繋がっているホオリが祈りを捧げ、装身する。


雷光が胸からほとばしり、全身にまとわりついていく。無形の雷が
形をともなってノー・フェイスに融合していった。


「あっ」
「…………………………あっ」


その衝撃で着込んでいた服が弾け飛ぶ。アルカーの場合は着込んだ服ごとその身が
変化していた。だがどうやらノー・フェイスの場合はその身体の表面に直接鎧が
覆いかぶさる形をとるため、は吹き飛ばされるようだ。

「……………………………………………………」

なぜか妙に未練がましく飛んでいく布切れを眺めてしまう。
……意外と気に入っていたのだろうか。

「……その、なんだ。気にするな」
「……………………………………ああ」

アルカーがぎこちなく気遣ってくる。――他はともかく、
あのジャケットはもったいないと思ってしまう。


(……次からは、脱いで装身するか)


・・・


現場は繁華街。改人とフェイスが人々を襲い周囲には何人も倒れふしている。
改人は――三体。それぞれ天狗型、牛型、蛙型の改人だ。

今回は、小細工なしだ。握ったアクセルをひねり、回転数をあげる。
精霊アルカーの力で車体を保護し――そのまま、改人に衝突させる。


「ぐぇッ……!!」
牛型と蛙型改人を巻き込み、数百mをひきずる。
「アルカーッッッ!」
「任せろッッッ!!」

振り向きアルカーに呼びかけ、それに彼も答える。改人たちの分断に成功だ。
バイクから飛び降り、二体の改人と向き合う。

「……なかなか、舐めた真似をしてくれおるわ」
丸太のような腕で棍をふりまわし、凄む牛型改人。蛙型改人も這い蹲るような
構えで威嚇する。


臆することもない。
鉤手で相手を押し留めるように構え、ぎしりと筋肉をきしませる。
そして――吶喊してきた牛型改人を抱きとめる。

「ムォォォォォォォォォォ……ッッッ!!!」
「ウオオオオオォォォォォォォッッッ……!!!」

ギチギチギチッ! と筋肉と筋肉がぶつかりあい、せめぎあう。
足元のコンクリートを破砕しながら押し込まれ、それを食い止める。

「ムウゥゥゥゥァァァアアアアアッッッ!!!」
「ガアアアアァァァァァァァッッッ!!!」

手と手を絡み合わせ、真っ向からの力比べだ。――アルカーの力を得たが、
火之夜と違い筋力面での強化はあまり大きくないようだ。
筋力を特に増強しているらしいこの改人に少しずつ押しきられる。

むろん、力勝負にバカ正直につきあう必要などない。

スッ、と膝の力を抜いて相手の力を逃がす。
相手もすばやくその動きに対応しようとするが、勢いを利用した巴投げで
後ろへ投げ飛ばす。

「クェーーーッッ!」

もう一体いることは忘れていない。死角が生まれたと勘違いして
ノー・フェイスのから蛙型改人が突進してくるが、
すぐさまかかと落としでその勢いを削ぐ。

そのかかと落としを横回転に繋ぐ。足払いの要領で、背中から襲おうとした
牛型改人をけん制する。

「グヌゥゥ……」
「クェェ……ッ!」

二体の改人にはさまれ、対峙する。
今度は蛙型の改人から攻めてくる。舌を長く伸ばし、腕を巻き取る。
こちらの動きを封じている間に牛型改人が棍を振り回し、幾度も打ち付ける。

「ぐっ……!」

だが苦痛を押さえ込み、冷静にその動きを見極め――棍を掴みとる。
すかさず引き寄せ、伸びた牛型改人の腕を蹴り上げるとたまらず手放す。
奪い取った棍を蛙型改人の舌に突き立てるとぎゃっと叫んで腕を解放する。


「おい」
「ヌッ……!?」

腕を抑えて呻く牛型改人に呼びかけ、顔を上げたときに奴の棍を

「ギャッ!」

顔を抑えてのけぞる牛型改人。……貫く勢いで投げたのだが、刺さりもしない。
相当面の皮が厚いようだ。

「クェェェーーーッッッ!!」

叫び声をあげながら超低空タックルをかましてくる蛙型改人。
接触する寸前で飛び上がり、その背を踏み抜く。

「メメタァッ!?」

文字通り蛙がつぶれるような声を出してうめく。その腹を蹴り飛ばし、
牛型改人の横に並べてやる。
ふらふらと立ち上がり、悪態をつく改人。


「ギュベッ……! こ、この野郎……たいしたタマじゃねぇか……」
「……だが、防戦一方ではないか。守ってばかりでは勝てんぞ?」
「その通りだが」
今頃、気づいたのだろうか。


オレが積極的に攻めず、
そして今、お互いに死角を補えないよう同じ方向に並ばせたことを。


ぼうんっ! と牛型改人の脇を二本の炎が挟み込む。反応する間もなく、
"力ある言葉ロゴス"が響き渡った。


「"ヴォルカニック・ストナー"ッッッ!!!」


炎を纏ったアルカーの飛び蹴りが牛型改人を貫通し、爆散させる。
アルカー・エンガは一撃が重く、アルカー・アテリスは俊敏さを得る。
オレとアルカー自身の戦闘スタイルとは真逆の特性だが、
かえって欠点を補いあってバランスがいい。


「ひ、ヒケェェェイッ!? バ、バぎゃなッ!? ウル・カの野郎、
 もうやられたっていうのか……!?」
「連携がなってないな」

あわてふためく改人にダメ出しするアルカー。そもそも、ノー・フェイスが
改人二体を抑えている間にアルカーが電光石火に一体を倒し、残る改人を
二人がかりで倒す目論見だった。
改人たちは目の前の敵にばかり意識がいき、分断された仲間にちらりとも
意識を向けなかったのが敗因だ。

「キ、ケェェェェェッッッ!!」
「あとは、貴様だけだ」

じり、と近づくと改人も一歩さがる。さがって――

「フェ、フェイスども! 壁になれぇッ!」

きびすを返して逃走する。哀れなフェイスたちはその姿に何も思うことなく
命令どおりノー・フェイスたちの前に立ちはだかる。

「逃がすか」

アルカーのつぶやきを耳にするのとほぼ同時に、"力ある言葉ロゴス"を発動する。

「"ライトニング・ムーヴ"」

ビシッ、と火花のような音を立てて一瞬で空中に移動する。アルカーも一緒だ。

「"フラカン・リボルバー"ッ!」

高速回転する回し蹴りを放つアルカー。
改人やフェイスなら軽く粉砕する威力の蹴りだが、
同じ精霊を宿したノー・フェイスにはダメージは入らない。
結果、勢いだけを与えられノー・フェイスが一直線に射出される。


空中で足を突き出し、とどめの"力ある言葉ロゴス"を発動させる。


「"サンダー・フォール"ッッッ!!!」


雷が足先に集約していき――超高速のとび蹴りとなって蛙型改人に吸い込まれる。
改人はなにか叫ぼうとしてぱくぱくと口を開き――雷光につつまれて消滅した。


「ふう……」
曲げた膝に腕をのせ、ひと息つく。これでこの場に現れた改人は全て始末した。
数を大きく減らしたフェイスたちは、撤退しはじめたようだ。

「――あとは、桜田たちの仕事だ。これで少しでも奴らの本拠地の情報が
 つかめるといいのだが……」
「ああ……」


逃げていくフェイスたちを横目にアルカーと頷きあう。
姿は見えないが、桜田たち偵察班が彼等を追跡しているのだろう。


ノー・フェイスが知るフェイスダウンの拠点はひとつだけ。それも出撃したのは
一度だけで、夜間の行動だった。
今、フェイスや改人たちは白昼どうどうと活動している。にもかかわらず、彼らの
動向を事前に察知するのはいまだに成功していない。

おそらくは、ノー・フェイスが組織に居たときには使わなかった手段で、
フェイスたちを派遣しているのだろう。まずはその手段の特定が急務だ。


「無理するなよ、桜田」
『あいあい』

アルカーが通信機に向け呼びかけ、桜田が軽くこたえる。それ以上は何も言わない。
お互いに信頼しているのだろう。



「……ん?」
戦闘が終わり、一人でも無事な者がいないかと倒れふした人たちを介抱していると、
見慣れないものをみつける。黒く細長いバッグだ。――死体袋ボディバッグ
呼ばれる種類の袋だ。いくつも転がっている。

いやな予感をしつつあけてみるが、幸い中にいた人は生きている。
それも、昏睡させられてはいるものの感情も奪われていないようだ。

「……ふむ……?」
「どうした、ノー・フェイス……む」
覗き込んできたアルカーも腑に落ちないようだ。

「生きたまま……人間を、連れ去ろうとしたのか?」
「らしいが……何のためだ?」

これまで、フェイスたちは人々を襲うとそのまま放置していた。
その場で直接感情を奪うのだ。連れ去るということはしない。
連れ去る、ということそのものが逃走において重荷になるうえ、
感情を引き抜いたあとの処分にも困るはずだ。
それなら、フェイスたちに現地で奪わせたほうが効率がいい。


だというのに。


「……人間を、浚おうとした、か……
 奴ら、行動どころか目的まで変化してきているのか……?」
「……」

もはやフェイスならぬ身には、その答えはわかりようもなかった。


・・・

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