今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

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第二部

第一章:03

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・・・


「――連れ去られそうになっていた人たちですが、全員後遺症も見られません」
「……さらに、共通点も無い。特段突出した才能があるわけでもないし、
 確認できる範囲では特異性も見られない。――無作為に選ばれた、と
 判断するよりほかないな」
「……そうか」

難しい顔をして結論を報告する小岩井と御厨に、やはり渋面で返す火之夜。
表情筋があればノー・フェイス自身もおなじような顔だったろう。


先日の作戦の際、フェイスたちが感情を奪わずに人間を浚おうとしたことは
CETの作戦本部でも問題になっていた。

会議に参加している竹屋がぐるりと首をまわして御厨の顔色をうかがう。
御厨が頷き、発言を許可する。

「……実は、こっちでも同様の事例を確認している。
 あいにく、こちらでは救出はできなかったがな」

苦いものをいくつも込めた口調で滔々と語る。現在フェイスダウンとの
主戦場は昼間に移ってはいるが、夜間での行動も途絶えたわけではない。
そしてその全てがアルカーたちに出動要請がでるわけではなく、
相手が少数の場合はPCPが対応していることもノー・フェイスたちには
伝えられていないが、暗黙の了解ではあった。


その場にいる全員の視線が集まる。この中で一番フェイスダウンの情報を
保有しているのはノー・フェイスなのでいたし方あるまい。
もっとも――


「あいにくオレが知っている情報はほぼ全て報告済みだ。
 現在のフェイスダウンの動向について、判断できる内容はゼロに等しい」
「なにか推測できることはないか?」

御厨が促すが、あいにくそういうのは得意ではない。
助け舟ではないが、桜田が提案する。


しておくって線は?」
「連れ帰る手間を考えると薄いな。フェイスを連れて
 その場で奪わせたほうがかえって手早く、かつ確実だ」
「じゃ、だな」

あけすけない物言いに同席していた小岩井医師が顔をしかめる。

「連れ帰った連中を番わせて、増やすんだ。
 つまり家畜ってわけだな。クソがッ!」

ガンッ、と机をあらあらしく蹴り飛ばす。下卑た言い方に聞こえるが、
彼なりの正義感で憤っているのだということはわかる。


が、ノー・フェイスはそれにも否定的だった。


「それも考えにくい」
「なぜだ?」

火之夜が指を組んで聞く。彼もその可能性がもっとも高いと判断していたのだろう。

「……詳細はわからない。が、その案はジェネラルによって却下された場面に
 俺は遭遇している」
「……なんだと?」

御厨が身を乗り出して聞き入る。
あの頃のオレはアルカーを倒すことだけに注力していて
あまり気に留めていなかった、と前置きしてから続ける。

「あれは確か、隊長格フェイスからジェネラルに同様の提案がなされていた。
 人間を捕獲し、アジトで増やしてはどうか、と。
 それに対するジェネラルの返答は――
 『総帥に奏上したことがある。が、それでは意味が無いと言われたよ』
 ……だったか」
「『それでは意味が無い』……?」

がりがりと頭をかきむしりながら御厨が繰り返す。意味を掴み損ねているのだろう。
かくいうノー・フェイス自身、どういうことなのかはわからない。

「それ以上のことは不明だ。だが、一度『無意味』として却下したものを、
 今更採用するとは、考えづらい」
「うーん……振り出しかぁ……」

桜田が投げ出すようなジェスチャーで反り返る。
ノー・フェイス自身も持てる情報をフル回転で参照してみるが、
どうしても判断につながるものは出てこない。


「……
「え?」

珍しくずっと考え込んだように黙りこくっていた金屋子が、ぽつりとつぶやく。

「貯蔵。養殖。どちらも違う。なら――給餌だ。
 アジトに連れ帰り、なにかにエサとして与えるんだ。感情エナジーをな」
「――先ほど否定したが、そんな手間をかけるぐらいならフェイスを直接……」
「そうそれ。そこだよ」

普段のほがらかな年長者としての顔はなりを潜め、海に沈み獲物を待つサメのように
冷たい瞳で何かを見据えている。

「フェイスなら、直接でばって感情を奪えばいい。なら、フェイスじゃない何者か
 ――アジトから動かせないに、運んでるんじゃねぇか」
「……フェイスじゃない、何者か……」

左手首を右手でひねりながら、脳内データベースを検索する。
しかし、情報はほとんどでてこない。アルカー専門に訓練された
フェイスがもつ情報など、たかが知れている。


「……残念ながら肯定材料は無いが、否定材料もない」
「だろ?」

ぱちん、と指をうって意気込む金屋子。

「……仮にその線でいくと、問題は『なぜ動かせないのか』、だな。
 考えられるのは二つ」

かたり、と立ち上がると書記をさがらせ、自らホワイトボードに記入していく御厨。

「一つは、なんらかの固定設備、あるいは未完成などの理由で
 物理的にその場を動かせない可能性。
 もう一つは、その存在を表にだしたくない、という
 戦略上外に出せない可能性だ」
「あとはその両方、ですね」

火之夜が後をつぐ。つまりは――


「フェイス戦闘員でも改人でもない。
 フェイスダウンの"秘密兵器"――という可能性が浮上したわけだ」


しん、と会議場が静まり返る。
既にフェイスダウンは改人、そして三大幹部という戦力増強を行っている。
そのうえ得体の知れない秘密兵器があるとなると――


「あ、そうそう。その改人なんですけど。ようやくこっちでも
 裏取れましたよ。いやー、これマジで大変でした。マジで」
「マジで苦労をかけるな――こほん」

つい桜田の口調がうつってしまい、誤魔化すように咳払いする御厨。
桜田から手渡された資料に目を通す。

「やっぱり、米軍とロ軍がアイツらの存在を認知していながら隠蔽してました。
 ま、これはフェイスダウンの暗躍とかでなく、単に向こうは向こうで
 発表するにできない――って事情みたいですけど」
「――想像はつくな」

くりくりとこめかみを押しまわして火之夜。

「えーえー、おっしゃるとおり。改人たちは、中東に展開している両軍を
 無差別に襲っていたみたいです。あ、もちろん百戦百勝。
 そんな有様ですから、面子やらなんやらで正式に認められなかったみたい。
 あくまでテロ組織の一つ、という扱いだったようでして」

フェイスですら、同数の戦車小隊を撃破する力があるのだ。改人ならいわんや、だ。
おそらくは改人たちは中東にて実戦訓練、あるいは戦闘データの収集に
従事させられていたに違いない。

「で、これかなり気になることなんですけど。
 どうも改人たち、二十年近く前から、活動はしてたみたいです」
「――ずいぶんと古いな。明確にフェイスの存在が確認された時期より、
 少し早いぐらいだ」

意外な話だ。人間組から聞いた話では、フェイスの活動が確認され始めたのは
十二から十五年ほど前。わずかだがそれより早い。

「――気になるねぇ、それ。つまり、もうとっくの昔に改人ってのは
 完成か、それに近い状態だったんじゃねぇのか?
 それがついこないだまで出し惜しみし続けてたってのかい」

確かに、腑に落ちない。何年もの間、彼らはアルカーに苦しめられてきたはず。
なのになぜ、これまで改人を投入してこなかったのか?
いや、それどころかフェイスたちにすらその存在が隠匿されてきたのか?


「戦闘員は結局使い捨てってことかなぁ。……あ、ノーちゃん勘弁ね」
いい加減疲れてきたのか、ぽりぽりと菓子をつまみながら謝る桜田。
特に何も思うこともないので軽く手を振って返礼する。


「……しかしそれにしても、通常の人間狩りを続けているのは
 どういうことだ? フェイスはいくらでも作れるとはいっても、
 改人もあわせてアルカーとノー・フェイスによって削られていく数を
 考慮すれば、むしろ被害の方が大きいくらいではないのか?」
「うーん……戦力的なことを言うならいっそ、感情を奪うことにやっきにならず
 数を揃えたほうが都合がいい気もするんだよねぇ……
 いまや、改人っていう指揮官もできたんだから」


そうだ。
そもそも、フェイスによるエモーショナル・データの回収を続けていること自体
首を傾げざるをえない。桜田の言うとおり、いまや改人がいる以上
フェイスの戦力強化を目的に人間狩りを大々的に行うのは、リスクが――


――。


「――?」
「なに?」

火之夜が不審げにノー・フェイスの顔を覗き込む。

「……オレがフェイスダウンに居た時……ジェネラルは、いや組織では
 エモーショナル・データに対し……という言葉を
 用いることが多かったように思う」
「それが、どうしたんです……?」

ここまで専門外のことには口をはさまなかった小岩井医師が、
意図を測りかねてたずねる。

「大した意味はないかもしれない。だが今更気になっている。
 に対して使う言葉では?」
「む……」

御厨も気になったのだろう。鼻をおさえてうめく。

「特に考えも無く使った言葉かもしれん。だがそれにしては、
 文書中にやけにその単語がでてきた。強奪でも奪取でもなく」
「でも、感情って配るようなものじゃないしねぇ……
 生まれもってもつものだし」

ぴこぴことペンを振って桜田が首をひねる。
確かに、考えすぎかもしれない。いや、そもそも考える意味がないことか。


「話を本題に戻そう。フェイスダウンが生きたまま人間を連れ帰る目的。
 それは本拠地にいる"なにか"がその場を動かせないため、感情エナジーを
 供給する目的で連れ去っている。
 この可能性を重点に対策を練る、ということでいいか?」

御厨のまとめに反論するものはいない。

「では、詳細な要綱は後ほどまとめるとして――
 桜田たち偵察班は連れ去られた人間たちがどこへいくのか、
 引き続き調査を。そして戦闘時だが、アルカーとノー・フェイスに
 彼らを保護する余裕はなかなか生まれないだろう。
 危険だが、PCPには戦闘に介入して彼らの保護をお願いすることになるだろう」
「うへぇ」

親指を下にして竹屋が抗議するが、もちろん御厨は無視する。

「すみません、いつも世話になりっぱなしで……」
「へっ。たまには酒につきあえよな。表の店にいいとこあるんだぜ、
 美人ぞろいのパブとかよ! おっとおっかない顔しないの御厨本部長」

一瞬見せた御厨の顔は見なかったことにして、ノー・フェイスも
竹屋をねぎらう。

「できるだけ援護はする。が、無理はするな」
「――へっ。あーいかわらず癇にさわる言い方しやがる。
 見てろ? 華麗に救ってみせるからよ。美人さんならなおいいわな!」

指で撃ち抜く真似をしてニヤリと笑う竹屋。この男も、頼もしい仲間の一人だ。

「感情を奪われない都合上、軽症患者が増えることも予想される。
 必然、小岩井医師の仕事も増えるかと思うが、よろしく頼む」
「ノ、ノー・フェイスさんたちが頑張ってますので、わたしも頑張ります」

すこし疲労の影を濃くしながらもぐっと握りこぶしを作ってみせる。


「では、今日の会議はここまでにする。
 ここに集まったものはレポートを作成しそれぞれのチームに配布した後、
 ゆっくり休んでくれ」

その言葉を締めに、それぞれが身体を解し始める。
ふと、小岩井医師がふわりと笑ってこちらを指差す。


「似合ってますよ、その"北風"コーデ」


・・・

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