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第二部
第一章:06
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「――ひどい有様だな」
偵察班に誘導されやってきた樹海の奥の光景をみて、思わず呟く。
あちこちにフェイス戦闘員が転がり、あるいは改人の武器が
散乱している。樹木がいくつも根元から折れて転がっていた。
アルカーの"力ある言葉"は炎。この樹海では
迂闊に使えないだろう。おそらくはそれを見越してフェイスダウンも
こんな場所に拠点を構えたのだろうが、よくやるものだ。
常ならばアルカーのもとに駆けつけるところだが、すでに戦闘は
終了していると報告をうけている。ここから先は桜田たちの管轄だ。
あたりをみまわしながら、ゆっくりと歩を進めていく。
ふと、気づいたことがある。
「そういえば――」
「はい?」
案内をする偵察員が振り返る。
「フェイス戦闘員の躯体は残っているのに、改人の姿は見えないな」
「ああ、どうも改人は倒されると自壊装置によって消滅するようです」
確かに、先ほど戦った改人も機能を停止すると灰になって消えた。
だが――
「自壊装置がついている意味は?」
「そりゃ、もちろん技術漏洩を恐れて――」
「ならばなぜ、フェイスにはついていない?」
偵察員もその言葉に腑に落ちないものを感じたようだ。
たしかに、フェイスより改人の方が戦闘力は高い。だが、
隠蔽のために自壊装置を備えるなら、そもそもフェイスにも
それをつければよいではないか。
事実、CETに回収されたフェイス戦闘員の躯体は
彼らの技術のもとになっている。
「……」
今、考えてみても答えはでるまい。
いったん思考を打ち切って歩みを進める。
「――きたか、ノー・フェイス」
木々の合間に隠された入口に、アルカーは座り込んでいた。
どうやら中は制圧し終わったらしい。
「やはり、お前が追い返した猫型改人はここを目指していた。
お粗末だな、逃げ帰って拠点を知られるとは」
「その改人も倒したのか?」
「いや――逃した」
ノー・フェイスは怪訝な顔をする――心の中でだけだが――。
このアジトに追い詰められたのなら、逃げ場などないはずでは?
「中をみればわかるさ、来いよ」
アルカーに促されるまま中に入る。……拠点を制圧したわりには、
中に戦闘の跡は少ない。
奥に進む。下り階段といくつかの部屋があるばかりで、
フェイスダウンのアジトにしては簡素すぎる。
「――どういうことだ?」
「奥までいこう」
アルカーは止まることなく足を運ぶ。――どことなく、悔しげな
空気がその背から漂っている。
不審げに思う間もなく、目の前に扉が現れる。
「ここが最奥だ」
「もうか?」
驚く。
あまりにも、狭い。本当にここが拠点なのか?
アルカーが扉を開く。重々しい音を立てて開いたその先には――
さして広くもない空間に、何人ものCET偵察員と研究員。
そして――不可思議なゲートのような機械が中心に据えられていた。
破壊されて、もう動く気配はない。
とても、フェイスダウンの拠点には見えない。
「これは一体――?」
「どうやら、ここは奴らの基地ではなく
駅のようなものだったらしい」
「駅――」
口調に苦々しいものを込めてアルカーが吐き捨てる。
そこから先は部屋にいた桜田が引き継ぐ。
「まだ調査中だけど、どーもこの機械はある種の転移装置
……ワープ装置みたいなものみたいなのね。
ノーちゃんが追い返した猫型改人も、この機械に入って
どこかへ消えたんだって」
「……そういうことか」
得心する。が、同時に驚愕もする。
「……フェイスダウンは、そんな技術さえ持っていたというのか?」
「ノー・フェイスすら知らないか」
あらためて安全を確認し、アルカーが装身を解き生身に戻る。
「オレが奴らの施設に居たとき、出撃は夜間ヘリを用いていた。
その施設内すら全てを知っていたわけじゃないが、
あったとしても一般の戦闘員に使わせるようなものではないのだろう」
「この機械、似たようなものがノーちゃんのいた施設にもあったよ。
ただ、もっと徹底的に破壊されて何の機械かわからなかったけど……」
「本当か?」
おどろいて問い返す。が、すぐに思い当たる。
「……いや、そう言われてみれば……ジェネラル・フェイス。
奴は、確かあの施設に来るのは珍しい、と言われていた記憶がある。
その時はなにも気にしていなかったが――ひょっとしたら、
大幹部たちは、このゲートを利用していたのかもしれん」
「……おエライさんたちが使う専用機、か。
と、すると――ひょっとしたらこの先にある施設、それは――」
「……奴らの、本拠地」
場が静まり返る。
「……結論を出すのは、まだ早いが。
とにかく、研究班のみなさんには可能な限りの調査を
お願いいたします」
火之夜が頭をさげるのにならい、ノー・フェイスも一礼する。
それに力強く応え、研究班がより一層あわただしく活動する。
彼らも、頼もしい仲間たちなのだ。
・・・
「ヒッ……ヒィッ! お、お許しを……!」
「情けない奴め」
ぎりぎり、と猫型改人――ヒダ・ノを踏みにじり、ヤク・サは罵る。
この男は霍乱のために出撃したにも関わらず怯えて逃げ出し、
おろかにも拠点の位置を敵に知らせてしまったのだ。
「貴様が逃げ出した後始末を木偶人形どもがしなければ、
この本拠地――ヘブンワード・テラスまで攻め込まれていたかも
しれんのだぞ。奴らに尻拭いされるとは、恥をしれ」
「も、申し訳――」
「許さん」
べぎっ、と音をたてて踏み砕く。その足元でヒダ・ノだったものが
さらさらと灰になって消えていく。
「……Ash To Ash、Dust to Dustか」
聖書の一節を読み上げ、顎に手をやる。
改人に備えられた自壊装置は、改人が死ぬと全てを灰にかえす。
その自壊装置は実のところ、単に隠蔽措置のためだけにあるわけではない。
こういった愚か者や裏切り者、敵に鹵獲された場合に粛清するため
機能させることもできる。
が、ヤク・サはそれが気に入らず粛清の際は自らの手で行う。
「まったく、部下の手綱はちゃんと握っておいてよね?
――なぁんて、改人にそんなもの期待するの、無駄というものだけど」
「……シターテ・ル。おまえはどう思う?」
「どう思う、とは?」
質問に質問を返したのはヤソ・マだ。
大儀そうに首をめぐらせ、自身の疑問を彼にぶつける。
「自壊装置。なぜ我らには、こんなものがついている」
「バカが。それは我らに使われている超技術を――」
「ならば逆を言おう。なぜフェイスにはついていない」
ヤソ・マもシターテ・ルも押し黙る。
そのまま心にくすぶっていた疑念があふれるように口をついてでてくる。
「フェイスに用いられている技術とて、門外不出のものに変わりはない。
そして何より――裏切り者がでたのは、奴らの方ではないか。
だというのに、何故総帥はその対抗措置をとらず、我らには
粛清のための装置をつけるのだ。これではまるで――
我らばかり、警戒されているようではないか」
最大の疑問点はそこだった。
改人たちは、この粛清装置のためにフェイスダウンを裏切ることはない。
万が一裏切っても、すぐに始末される。
が、フェイスは違う。あの裏切り者がそうであるように、
仮に叛旗を翻したとしてもなんの対抗策もない。
これでは、改人にばかり首かせをつけられ、フェイスたちは――その飼い主だ。
「……それだけ、我らの力は脅威でもある、ということだ。
裏をかえせば、フェイスたちに自由意志などない。
だからこそ拘束が緩いのだ」
「……そういうものかな」
「――妙なことを、考えないことね」
ヤソ・マとシターテ・ルが釘を刺す。その場は不承不承引き下がる。
だが、ヤク・サの心にはわだかまるものがあった。
(……事実としてフェイスに裏切り者が出た。にもかかわらず、その対策は
一向にとらん。一方で裏切り者などいない改人には首輪がはめられている。
これは、一体――何を意味しているのだ……)
・・・
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