今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

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第二部

第二章:You are my hero

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・・・


樹海での戦闘から一週間が過ぎた。

「――っつぅわけで、残念ながらあの装置からは
 何の情報も得られんかったわ。復元も無理、転送先を知るのも無理、
 なぁーーンもわかんねぇ。すまんなあ」
「こっちも似たようなものだなぁ……あの施設、ホントに出入り口としてだけ
 利用されてたみたいでまともな痕跡はなかったよ」

金屋子と桜田が珍しく殊勝な態度でわびてくる。
とはいえ、彼らのせいではあるまい。

「いや、奴らのほうが周到だったというだけだ。謝る必要はないさ」

火之夜が笑って手を振る。ノー・フェイスも同様に続けた。

「フェイスはともかく、改人の一人か二人は生かしたまま
 捕えるべきだった。追い込んだのがかえって仇になってしまった」
「いやいや、それこそ謝るなっつぅ話よ」

金屋子がぽんぽん、と肩を叩いてくる。硬い掌から暖かさが伝わる。


今はCET本部の廊下で休憩中だ。たまたま五人が集まったため
先日のブリーフィングをかねて雑談している。
ほかの四人はコーヒーや紅茶などを飲んでいるが、ノー・フェイスは
水以外何も飲まないためどうにも手持ち無沙汰ではある。


「たけっちの方はどうだった?」
「おめ、その呼び方はやめろって言ったろ?
 ま、おかげさまでおやっさんが作ってくれたパワードスーツと
 新型の徹甲破砕弾は効果てきめんだったぜ?」
「……そりゃ、よかった」
「ああ、もう俺らPCPでも少数のフェイス戦闘員なら、各個分断できる。
 いつまでもテメェだけにデケェ顔させとかないってわけよぉ」


けけけ、といやらしく乾いた笑いを漏らす竹屋。
……彼は口には出さなかったが、彼らが常用している薬物も強化されている。
安全性そのものは低くはないが、それでもけして身体への負担は
軽くない。彼らはまさに血反吐を吐く思いで戦っているのだろう。

その覚悟に敬意を表し、感謝する。

「助かる」
「……ケッ」

おもしろくなさそうに吐き捨て、そっぽを向いてしまう。

「ツンデ……」
「それ以上言うとぶっ殺すぞ」
「やれやれ……」

桜田がなにやら茶化し、そのやりとりを火之夜が肩をすくめて、
しかし朗らかに笑う。


「ノー・フェイス」
「……ホオリか」


廊下の向こうからホオリが駆けて来る。後ろには小岩井医師もいた。
今日は、定期健診で『学校』は休みだったか。


ぽすん、と自身の腹に飛び込んでくるホオリをやさしく受け止めてやる。
そのまま脇に並べ、頭を軽くなでてやってから話に参加させる。


「最近はどう? ホオリんは」
「おまえそういう呼び方だったか?」

ころころ呼び方が変わる桜田に思わず突っ込む火之夜。
最近はノー・フェイスも同様にツッコミをいれてしまうことがあるくらい、
桜田の台詞には脱力するものがある。

「良好ですよ。と、言っても大きく変化があるわけじゃないんですけど。
 エモーショナル・データ測定器をみると、ほんのわずかですが
 上昇傾向にあります」
「そうか……!」

思わずほっとした思いにホオリの肩を抱く。
すこし、はにかむようにその手を受け入れる彼女に、救われた気持ちになる。

「確かなことは言えませんが――やはり、彼女の内に眠っていた
 "雷の精霊"が覚醒したことが、正の影響を与えてるんじゃないかと思います」
「ああ。こっちでもちょいちょい研究してるが、多分"雷の精霊"は
 お嬢ちゃんの心とある種同化してたんじゃねぇかなって思うね」


金屋子が自身の頭(最近、髪が薄くなったと嘆いている)をさすりながら
しみじみと呟く。
すすす、と小岩井が横に寄り添ってきて続ける。

「ホオリちゃんの話によると、いまだ彼女の心は"雷の精霊"と繋がってて、
 しかもノー・フェイスさんの心ともリンクしているんだとか。
 言わば、彼女の心と"雷の精霊"はミラーリングによって同期して
 三つで一つの心――のようなものなんだと思います」
「私も、そう思う」

ぎゅっ、とホオリがノー・フェイスのジャケットを掴んで身体を寄せる。
小岩井もさらに近づいてくる。

「……狭いんだが」
「そんなこと、ない」
「そんなことないですよ?」

なぜかばっさりと斬り捨てられてしまう。
竹屋はねちっこい、桜田はいやらしい視線を投げかけてくる。

「ほらほら見てくださいよ竹っち。あっちもあっちで両手に花ですよ」
「るせ。るせ。ていうかオメェら自覚あんのかよ。
 あっちは男は顔ってことで納得いくが、こっちは顔すらねぇだろ」
「やっぱアレじゃないですか? 男は中身っすよ、中身」
「オメェな! 俺だって、心のうちは男らしい熱さに……」
「オメーの腹んなかは酒とタバコでいっぱいだろ」


ケェェーッ、と四方から責められて不貞腐れたように雑誌を
顔の上にのせ、狸寝入りを決め込む竹屋。
なにがなんだかわからない状況だが、ほほえましいことだけはわかる。


「……仲がいいな、お前ら」
「あ、こういうこと言っちゃいますよホオリちゃん」
「つねっていいよ、頬」


なぜか両脇から批難され、頬をつねられる。
……仮面なので掴めもしないのだが。


「どいつもこいつも仲が良いのは、管理職として嬉しい限りだよ、まったく」
「御厨女史……」

廊下の角からCET作戦本部長が姿を現す。彼女は確か上司に一連の事態を
報告しに外出していたはずだ。

火之夜がたちあがり、彼女のために自販機で飲料を買う。
とぽとぽと液体が紙コップに注がれる音を聞きながら彼が聞く。


「しかし大変ですね、貴女も。そんな報告、本当ならメールかなにかで
 済ませてしまうものでしょうに」
「流石にこの役職ともなるとな。それに、情報漏えいの危険性も
 バカにはできないからなぁ……」

珍しく疲れ果てたような声音で壁にもたれかかる御厨。
たしかに、フェイスはIT面でも諜報活動をかかしていない。
だが――


「……考えてみれば、不思議なものだ」
「なにがだ?」

火之夜が興味を示す。

「フェイス・ダウンは、情報戦も得意とする。なのに、オレたちと
 戦うときは力押しが目立ちすぎる。圧力をかけるなり、電波ジャックして
 民衆を扇動するなり、やるなら手はいくらでもあるはずだが」
「あー……たしかに、ねぇ……」

桜田が渋面になって考え込む。


「言いたいことは、わかるぜぇ。どうせ奴らにとって脅威になるのは
 アルカーと、テメェぐらいなもんだ。力押しするにしても、
 改人二、三体何ぞ言わずに一個小隊ぶんくらい
 突っ込んでもいいんじゃねぇか?」
「……」

竹屋も(めずらしく)同意する。そう、改人の投入数も絶妙だ。
こちらを倒せるか倒せないか、そんなギリギリのラインでもある。
セオリーから行けば、こちらの十倍の改人を投入しても向こうにとって
けしてやりすぎということはないはずだ。


これではまるで――


「……」
「む……」

と、そこでホオリがすこし不満げな顔で見上げているのに気づく。
考えてみれば、難しいうえに面白くも無い話だ。彼女にはいまいち
輪に入っていけない疎外感があるのだろう。

「……悪いが、ここらでオレは失礼しよう」
「あいあい。お姫さまのお相手、よろしくねー」
「あっ、その、私ももうちょっとホオリちゃん見てようかな~、なんて……」

桜田がのんきに手を振り、なぜか小岩井がそわそわと視線を泳がす。
特に拒む理由も無いが、自分でも殺風景とわかるノー・フェイスの私室では
彼女も気が休まるまいと思うが。


「ああ、そうだノー・フェイスにホオリ。朗報があったのを忘れていた。
 お前たちの外出許可、どうやらおりそうだ」
「――ホント!?」

これまた珍しく――ホオリが、はしゃいだような声をだす。
無理もあるまい。彼女がまともに外出できるのは数ヶ月ぶりだ。

「ありがたいが、よく降りたな。先日の件があったから、
 あきらめていたのだが――」
「拠点を一つ潰したということもあるからな。
 長い間安全に外出できるルートの構築にみなで尽力していたが、
 それがようやく実ったということだ」
「……感謝する」

御厨が明るい笑顔で礼を辞す。彼女も喜んでいるのだろう。


この場にいる人間は、ほんとうに気のいい奴ばかりだ。


「……ホオリ。そういうことらしい。
 これから、どこに行くか……調べてみるか?」
「うん!」


青空のような明るさが彼女の顔にようやく戻ってきた。
まだ、わずかずつの進歩だが。ここにいる皆、
ここにいない人々の努力の賜物だろう。


(ほんとうに――いい奴らばかりだ)


ノー・フェイスはホオリの頭をなでながら、心の底からしみじみと思うのだった。


・・・

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