今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

文字の大きさ
40 / 94
第二部

第三章:Wake Up the Executioner

しおりを挟む


・・・


CETのメンバーに、いつになく緊張した空気が流れる。
当然だろう。今回フェイスダウンが起こした事件は、過去の比ではない。
万が一原子力発電所から核燃料が漏洩したら。
半径数十kmに住む人々は、避難を余儀なくされる。


『ノー・フェイス! アルカー! 着いたか!?』
「たった今着いたところだ。PCP、及び偵察班との
 合流はこれからだ――ああ、桜田も着いた」


通信機から切迫した御厨の声が聞こえる。それに答えるアルカーの声も、
いつになく固い。

「お待たせひのっち、ノーちゃん! 施設内部の見取り図はここ!」

情報を集め奔走していた桜田があわただしく駆け寄る。
見取り図を広げ、精査する。脇から確認されたフェイスたちの配置を
マーカーで記入していく。

「配置されていた警官は?」
「フェイスダウンの侵攻が確認されてから30分以内に全滅。
 一部は回収できたけど、やっぱり……」

桜田は語尾を濁したが、感情を奪い取られ植物状態になっていることは
想像に難くない。問題は、回収できていない警官もいることだ。

「……もし万が一、核燃料が露出でもしたら逃げられない警官たちは……」
「その場合、警官だけでなく最大二万人近い民間人が
 急性死亡するおそれがある」

一同が沈黙する。

「……原発はテロ対策として侵入口はロックされるはずだが」
「されたね。でも、突破されちゃったみたい。流石に、
 時間はかかったみたいだけど……」
「時間の問題にすぎなかった、と」

腕を組んでノー・フェイスがうなる。
さいわい、中央制御室や原子炉本体にはまだ到達できていないらしい。
だが、冷却系だけでも損傷をあたえられたらことだ。


「監視カメラは潰されてないわ。中継してもらって、作戦本部に
 繋がるよう細工をしてあるから」
『こちらからフェイスの動きは伝えられる。その点は、安心していい』
「助かる」


施設内に入れば、携帯端末を介した無線wi-fiは使えなくなる。
ノー・フェイスはあらかじめ可能な限りの情報を
脳内にダウンロードしておいた。

「……おかしいな」
「と、いうと?」
『奴らは、原発を襲ったわりに外苑ばかり固めている。
 肝心の核燃料を奪取しようという動きが、薄い』

まるで、原発を襲った、というよりは強固な砦を確保して
外敵を迎え撃とうとする意志を感じる。


「……俺たちを、待っているのか?」
「――かもしれんな。そもそも、奴らがこんなものに
 興味があるとは、思えんのだが」


フェイスダウンの技術力を持ってすれば、核の力など必要だろうか。
いや、よしんば必要だとして、日本でわざわざ事を起こさずとも
闇取引で得られる場所は海外にある。それこそ、改人どもが
活躍していたという中東であれば、見つからないこともないはずだ。

原発を襲えば、日本という国家そのものが敵に回る。
先日の市街地戦闘などとは比べ物にならない。


『……第一、奴らにとっても人間は死なれたら困るはずだ。
 こんな、大規模災害に発展しかねない場所を襲うとは――
 腑に落ちないな』

御厨もうなる。
フェイスダウンにとって、人間は感情エナジーを奪うための対象であるし、
連中の主張が正しければ改人としての素材でもある。
下手に死なれても、困るのではないか?
……と、なると奴らの狙いはおのずと絞られてくる。

「……この施設内では、"力ある言葉ロゴス"は使えない」
「戦力は半減するな」


考えられる理由は、それだ。アルカーが存分に力を奮えない環境を
構築するため、ここを襲ったということだ。



『慎重を期してもらう必要があるのは、事実だ。
 ……本来なら、専門の特殊部隊にシミュレーションを
 繰り返させてから突入すべき事案だが。
 相手が改人となると、お前たちに頼るしかない』
「……おたがい、頭が痛いですね」


アルカーにしろノー・フェイスにしろ、必要最低限の
知識や技術はあるが、流石にここまで専門性のある作戦には
自信がない。

『フェイスダウンは人間を無為に殺すのをよしとしないはずだ。
 今は、それを前提に作戦を進めるしかあるまい』

御厨が決断する。失敗したら、大災害だ。
大勢の人間が死に、おえら方の首もいくつも飛ぶだろう。


が、できる範囲でやるしかない。
とにかく、改人たちを外に追い出すだけでもかまわないのだ。
なんとか、引きずりだすことができれば――


『アルカーとノー・フェイスは奴らを倒すより、
 追い込む方向で動いてくれ。作戦は現在立案中だが、
 配置には今からついてくれ』
「了解!」


・・・


キー・チは監視カメラの存在に気づいていないわけではない。
あえて、残しておいたのだ。アルカーたちを誘導しやすくなるように。
CETらが飛ばしている電波を傍受し、仮に設置した拠点で
モニターに映している。

「……来たか」

監視カメラの映像を見つめながら、キー・チは考えをめぐらす。
画面に映ってるのはノー・フェイスだけだ。アルカーは見当たらない。

おそらく、裏切り者が囮となって目をひきつけ、アルカーが
少しずつフェイスを始末していく算段だろう。

事実、監視カメラに映っていないところに配置されたフェイスの数が
どんどん減っているようだ。フェイスの状態をモニターした機器の
情報が消えていく。

とはいえ、問題ない。……今回の目的は、アルカーたちを
倒すことではないからだ。

今ここにいる改人はキー・チだけだ。相応の実力者ではあるが、
流石に一人でアルカー二体を相手取って立ち回るのはかなり厳しい。

だからこそ、この原発を選んだ。
迂闊に力を発揮するわけにもいかず、下手に壁をぶちぬくこともできない。
テロ対策に入り組んだ迷宮のように複雑な施設内は、
奴らを翻弄して動き回るのに、非情に都合がいい。

うまく立ち回れば、それなりに戦闘を引き伸ばすことができる。
……それによって、今回のキー・チの行動に対する総帥の
対応で、"改人"たちの立場がどのようなものなのか、わかるだろう。


「……ワタシも動くとしますか」


翼をひるがえして部屋を出る。
――その背後で、モニターが一つ一つ、暗くなっていくことに気づかず。
その異常事態を、ことも、知らずに。


・・・


「――ふう」

緊張を解くわけにはいかないが、わずかに肩の力を抜いて息をつく。
施設を迂闊に傷つけないよう注意を払いながらの戦闘は、気が張る。

今、施設内を駆けずり回っているのはノー・フェイスとアルカーだけではない。
警察の特殊部隊とPCPの混成部隊も投入され、バックアップにまわっている。

「……そちらはどうだ?」
『ああ。それが……
 予想以上に、投入された戦力は少ないのかもしれないな』
「――それはそれで、奇妙な話だな」

これだけ派手に動いておいて、必殺の布陣を敷いていないとは。
なんのための作戦なのか、わからない。
ノー・フェイスの倒したフェイスの数も、大したものではなかった。

……急報を受けたときの緊迫感が、嘘のようにあっけない。


『……考えてみれば、改人関連の動きはみんな大体そんなものだな。
 何がしたいのか、さっぱりわからない。実際に対峙してみれば、
 幼稚な言動ばかり繰り返す。まるで子供だ』
「確かにな……」

――本当に無計画な行動だったというのか?

そう結論付けるのは早計ではあるが、そう思いたくなるほど
改人たちの動きは無軌道だった。

「こちらも改人には未だ遭遇していない。
 あるいは、もっと奥で待ち構えてるのかもしれんが……」


刹那、殺気を感じ取りその場を飛び退る。
直後にノー・フェイスが立っていた足元が爆ぜる。
――改人の強襲だ。


「前言撤回、たった今改人と遭遇した!
 場所は4号機前正面通路!」
『すぐに向かう!』


アルカーとの通信を切り上げ、目の前の改人と対峙する。
その姿はカラスにも、天狗のようにも見える。


「私の名はキー・チ。……お相手、願おうか」


・・・

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...