今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

文字の大きさ
39 / 94
第二部

第二章:05

しおりを挟む


・・・


がしり、と交差した腕が組み合う。
互いに力が拮抗し、どちらも譲らない。
いや、アルカーが先に動いた。力を抜くとこちらが勢いあまって
体勢を崩したところに掌底をくりだす。

その程度の動きはこちらも承知のうえだ。おそらくはノー・フェイスが
避けることを予想しているだろうが――あえて、そのまま受ける。


強烈な打撃に一瞬意識がとびかけるが、意識をねじふせて
アルカーの腕をつかむ。
万力のような――万力よりも強いのだが――力で、
握り締めて離さない。

アルカーが空いた脚でその拘束を振り払おうと蹴りを放つが、
そのタイミングにあわせてひねり飛ばす。
片足立ちで踏みしめが甘くなっていたアルカーは軽く投げ飛ばされる。


すかさず、倒れこんだアルカーの肩口に膝をのせ関節を固める。
そのまま本気で肩を砕くつもりで捕えた腕に体重をかける。


通常の人間相手ならこれで詰みだが。アルカーはさすがにそうもいかない。
自由な片手で床をつかみ、勢いよく弾き飛ばす。


弾かれた勢いでアルカーと、腕をつかんだノー・フェイスの身体が
勢いよくスピンする。極めた関節も緩んでしまい、脱出される。


アルカーに向き直ろうとするが、脚をすくわれる。
頭から床に落ち、避ける間もなく胸を踏み砕かれる。

そしてそのまま眼前にアルカーの拳が広がり――



「……俺の勝ちだな」

ぴたり、と寸前で止まる。踏み潰された胸から足がどけられ、
かわりに手が差し出される。

「……もう少しなんだがな」
「なに、おまえの勝率も相当あがってきている。
 俺のほうこそうかうかしてられないな」

その手を掴んで起き上がると青ざめた顔で小岩井とホオリが駆け寄ってくる。


「だいじょうぶ、ノー・フェイス……?」
「……いつもいつも思うんですが、貴方たちの組み手、
 おっかなすぎです……」

むこうでは桜田と御厨が火之夜に駆け寄っている。


アルカーとの組み手は毎日行われている。互いにすこしぐらいの
損傷は再生するため。かなり本気で相手を害する勢いだ。
確かに傍からみれば戦々恐々だろう。


とはいえ、組み手でアルカーの力を使うわけにも行かない。
全力をだした訓練ができない分を補うには、これぐらい
本気でやらないと意味がないのだ。


「とはいえ、そろそろ二人とも休んだ方がいい。
 ちょうど昼時だしな。食堂にでも行こうか」

御厨が火之夜にペットボトルを渡してやりながら、声をかけた。


・・・


「今日のAランチは海老カツか」
「私、Bランチのほっけの方がいいなー」
「……私、ダイエット中なので豆腐サラダセットで……」

がやがやとにぎやかな食堂で、思い思いの注文をする。
ノー・フェイスはなんとはなしに、あたりを見回す。
CETに来てからすでに数ヶ月はたつが、実のところ食堂に入るのは
初めてかもしれない。


「ノー・フェイス。こっち、こっち」


先に来て席を取っていたホオリが手を振って呼ぶ。
彼女の横に座り、みなを待つ。
ほどなくしてトレイを抱えた火之夜たちがまわりに座り、
食事を始める。


「ここの食堂はきらいじゃないな。特に、揚げものはハズレがない。」
「でもその分なのかどうか、焼きもの系は苦手という印象あるがな」
「ちょっとねー、もそもそしてるんだよね、焼き魚とか」

思い思いの感想をのべながら、楽しそうに食事をする。
ものを食べないノー・フェイスにはよくわからないが、
この雰囲気はきらいじゃない。

「はい、ホオリちゃん」
「ありがと」

ホオリの食事は小岩井医師が選んだものだ。食事に対する
欲求が薄いため、彼女が監督している。
とくに何の感慨もなく、もそもそと料理を口に運ぶ。


「しっかし、最近はフェイスダウンも大人しめだねー」
「よいことかどうかは、なんとも言えんがな」

行儀悪く口にスプーンを頬張り、桜田が話題を振る。


事実、ノー・フェイスたちの出撃回数は大分減っていた。
フェイスダウンによるものとみなされた被害者の数も、
ぐんと減っている。


それだけを聞けば、好ましい話なのだが――


「奴らの動きがないということは、大規模作戦に備えて
 戦力を蓄えているという可能性が高い。気が抜けないな」

火之夜が難しい顔をして言う。カリッ、と衣を噛み切り咀嚼する。

「やはり、先日の転送拠点を失ったことは連中にとっても
 問題だったのだろう。一方でこちらが得たものも少ない」
「ある意味、あいつらに転送装置なんてものがあるって知れたことが、
 唯一の収穫だねー。……おかげでこっちの捜索範囲は
 べらぼうに拡大したけど」


めずらしく辟易した顔で桜田がぼやく。無理もあるまい。
ノー・フェイスたちが目の前の敵にだけ集中できるのは、彼女らのおかげだ。

「……感謝している」
「ノーちゃんのそういうとこ、好きぃ☆ ナスあげちゃう」

そそそ、と野菜炒めからナスを抜き取り、小皿にとってよこす。

「いや、オレは……」
「気にするな、ノー・フェイス。こいつはナスが嫌いなだけだ」

じとりとした目つきで桜田をにらむ火之夜。好き嫌いか。
食事をしないノー・フェイスには、それもわかりづらい。


「おまえは、好き嫌いが多すぎるぞ、桜田」
「そーいう本部長だって偏食じゃないですかー。
 一つのものばっかりずーーっと好きでいて」
「あ、それ言えてますね」
「……おい、なんの話をしている、なんの」


桜田と小岩井がなにやら 御厨を茶化す。
なんの話かわからず火之夜に視線をやるが、その火之夜も
いまいちわかってないらしく、首を傾げてくる。


「……こんなわっかりやすい話してるのに、
 この男どもときたら……」
「ま、そこがいいところじゃないですか?
 そうじゃなかったらこんな話、目の前でできませんし」


くすくすと女性陣が笑う。ホオリも、目元が笑っている。


まさに、女三人。姦しい。


と、廊下のほうからあわただしい足音が聞こえる。
音響センサーから判断するに……竹屋のものだ。


はたして、食堂に飛び込んできたのは竹屋だ。
そうとう慌てた様子だ。

「本部長ッ! 火之夜、ノー・フェイスッ!
 フェイスダウンだッ!」


がたり、と呼ばれた三人が席を立つ。
ついに奴らが動きを見せたのだ。竹屋の切迫した様子から
かなりの緊急性を感じる。


「この区域に電力を供給している、原子力発電所だ!
 そこが占拠されようとしているッッ!!」


……竹屋の口から飛び出た言葉は、想像していたよりも
深刻なものだった。


・・・


ヤク・サ直属の部下であるカラス天狗型改人、キー・チは 腕組みをして
眼下の施設を見下ろしていた。

制圧した施設を、フェイスが掌握のため駆け回っている。
一糸乱れぬ動きだ。文字通り、じつに機械的に行動している。

今回連れてきたフェイスは、全てエモーショナル・データを
入手していない個体のみだ。自我がある個体では、不都合がある。


通常、フェイスダウンによる作戦行動はその大半が総帥フルフェイスによる
直接認可を経て実行される。膨大な量の作戦要綱すべてに目を通し
精査しているというのだから、その頭脳は驚異的というほかない。


だが、今回は申請を行っていない。だ。
過去の例から判断するに、広大な範囲に影響をもたらすような作戦は、
認可が下りない可能性が高い。だからこその行動だ。


むろん、キー・チの勝手な独断ではない。秘密裡にではあるが、ヤク・サの
命令によるものだ。彼の命令に従うことに無上の喜びを感じている
キー・チはあくまで自分の暴走によるものとしてかたをつけるつもりだ。

(あのお方は、不審を抱いておられる) 

ヤク・サの心中を推し量る。
フェイスダウンの技術力は、人智を越える。
こんな島国ひとつぐらい、制圧しようと思えば不可能ではあるまい。
物資の確保、人員の確保ができれば"改人計画"とてより発展できるはずだ。


だが、それをしない。
あれだけ派手な暴露をしたにも関わらず、結局やることは
地道な人間狩りとアルカー討伐だけだ。


非効率的すぎる。戦力の無駄遣いとしか思えない。


だから、ヤク・サは命じたのだ。総帥が望んでいない行為することで、
その対応を見てあの方の思惑を見極めようとしているのだ。


「……アナタの御心のままに、ヤク・サさま」


キー・チは待ち受ける。アルカーを。裏切り者の、ノー・フェイスを――。


・・・

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...