48 / 94
第二部
第四章:04
しおりを挟む・・・
作戦は成功したようだ。
空を見上げ、落下してくるノー・フェイスと大改人をとらえる。
既にステイシス・フィールドは全ての電源装置を破壊され、
ダウンしている。
取り囲むフェイスたちをけん制し、タイミングを測り――
"力ある言葉"を発動させる。
「"アタール・ヘイロー"ッッッ!!!」
炎の光輪が、弧を描いて飛んでいく。狙い過たず――大改人の
背につきささる。
遠くうめきが響く。そのまま、大地に激突した。
もうもうと土煙がたちこめる。
ザッ、と飛び出てきたのはノー・フェイスだ。アルカーの横に並び立つ。
「うまくいったな」
「ああ。738便も、離脱したようだ」
機首を南にむけ戦域を離脱していく旅客機。既に受け入れ態勢が整っている
静岡空港へ向かうのだろう。フェイスダウンのヘリも追跡はしない。
まずは、一安心というところだ。
「あなたたち……!」
地獄の底から響くような、怨嗟の声が土煙の中から沸いてくる。
大改人、シターテ・ルだ。最強の改人が激昂している。
もともとおぞましい容貌が、怒りに歪んでさらに醜く見える。
「よくも……よくもッ! この私を……ここまでコケに
してくれたものね……!!!」
ばぎばぎばぎ、と改人の装甲が変化していく。とげとげしく、
より攻撃的な姿へと、変貌する。
「……処刑だわ。おまえたち全員! 処刑してやるッッ!!」
咆哮する、蟷螂。それだけで旋風が巻き起こるほどの圧倒的な力だ。
アルカーと比べてすら遜色がない。
だが
「……怒ってるのはこちらも同じだ」
ノー・フェイスが腕輪を握り締め、怒りをこめて呟く。
アルカーも、同じ気持ちだ。
「フライトは楽しんだか?
ここからは、昆虫採集の時間だ」
・・・
カマキリ型改人が、音を置き去りにして突撃してくる。
以前はまるで見えなかったが、アルカーとなった今ではノー・フェイスの目にも
とらえることができた。とはいえ、尋常ではなく早い。
相手の攻撃にあわせ半歩身をずらし、串刺しにしようとする鎌を回避する。
迂闊に手を伸ばしたりはしない。まずは相手の動きを見切ることに専念する。
アルカーも、同じような判断だ。ただし威力偵察がわりに牽制攻撃を繰り返す。
彼の最初の一撃によって、大改人は飛翔能力に制限がかかっているらしい。
が、戦闘速度に影響は見られない。
(……御厨と桜田たちの話では……)
CETの調査により、この改人は全力機動を行うと熱がたまり、
放散するのにわずかな隙ができることがわかっている。狙うなら、そこだ。
(まだだ……)
心中で数え、大改人の動きを見つめる。熱により動きが鈍るタイミングが
あるはずだ。それを見極め、攻撃をかわし続ける。
鋭い斬撃を身をそらしてかわし、続けて振り降ろされる鎌をうちはらう。
だがその際に右腕を切りつけられ、損傷する。
決定的な打撃は受けない。が、細かい裂傷が蓄積している。
(――まだか!?)
妙だ。
事前の推測で導き出されていた最大機動時間を越えている。
いや、それどころか――さらに早くなっていないか?
ぼぅん! と大改人の全身から蒸気が発生する。
高熱が体液を蒸発させ、大量の水蒸気となったのだ。
「――おほほほほほ! こざかしいことを考えていたようね。
でも……あの程度の接触で女を理解したつもりになるなんて、
あさはかというものよ!」
いったん距離をとったシターテ・ルが高笑いする。
全身の甲殻がひらき、そこから放熱板のような翅がとびでる。
翅は赤い鱗粉を撒き散らした。いや、これは赤いのではない。
超高温で赤熱しているのだ。
「――そういうことか!」
おそらく、体内に溜まった熱を鱗粉に集めて放出しているのだ。
いわば、奴の冷却システム。これにより長時間全力機動を行っても、
熱を体内に溜めることなく逃がしているのだ。
「……いわば、これが奴の本気か――!」
アルカーも舌打ちする。どうやら、事前の作戦は全て帳消しになったようだ。
……底知れない相手だ。やはり、他の改人とは明らかに一線を画している。
きぃぃぃぃぃ、と甲高い音が徐々に大きくなりながら鳴り響く。
そして――吶喊してくる!
「くおっ……!」
危ういところでかわすも、胸のプロテクターに大きな傷跡が残される。
慌ててふりむくがすでに大改人はいない。
苦悶の声にアルカーの方をみやると、彼も一撃をうけてうめいている。
やはり、強敵だ。最初に対峙したときほどの絶望感はないが、
それでも二人がかりでなお勝てるかはわからない。
(なんとか、とらえなければ……!)
だが、肉を切らせて骨を断つ――というのも通用しそうにない。
本気を出したことで一撃の鋭さも増している。迂闊にうけようものなら
骨ごとまっぷたつだ。
アルカーとしめしあわせ、森の中に飛び込む。まずは少しでも
時間を稼がねば。
「ほほほほほ!!!」
ざあぁっ! とさざなみのような音を立てて木々がなぎ倒されていく。
なんとか、見つからずにはすんだようだ。
背をかがめてアルカーの元にかけよる。
大きな怪我こそないが、あちこちに擦過傷がある。
音速を遥かに越えた速度で飛び回るため、避けても衝撃波で
わずかながらダメージが入ってしまう。
「……やはり、奴は早い。俺の方ではとらえられそうにない。
おまえはどうだ、ノー・フェイス」
「……似たようなものだ。だが、"ライトニング・ムーヴ"なら
ごく短い時間だが奴の速度を越えられる。」
奴が音速を超えるなら、"ライトニング・ムーヴ"は光速に限りなく
近づく"力ある言葉"だ。いかに奴といえど追いつけまい。
が、あまりに発動時間が短い。
とらえるには精密にタイミングを測る必要があるが、そのタイミング自体が
まともにつかめないのだ。
「……なら、その"タイミング"をとらえる隙さえ生めれば……」
「だが、どうする。攻撃を受ける覚悟で挑んだところで、
叩き斬られるのがオチだぞ」
アルカーはわずかに沈黙する。
その間にも、大改人は樹木を切り倒して飛び回り、狂ったように笑い続けている。
その軌跡には赤い鱗粉が火の粉のように漂う。
それをみて、アルカーが何かに気づいたように顔をあげた。
「――熱だ」
「何?」
「奴の弱点は、熱だ」
それは戦闘の直前まで推測されていたことだが、結果として覆ってしまった。
もはや奴に、熱暴走の欠点はないはずだが……。
「違う。あくまで奴は、熱を逃がせるだけだ。裏をかえせば、
熱が溜まれば動けなくなる、ということに変わりはないわけだ」
「……なるほど」
ようは、奴の排熱・冷却能力を破壊する、あるいはそれを越える
熱量を与えればいい、となる。
――そして、アルカーは"炎の精霊"を宿した戦士だ。
熱を扱うのは、十八番だ。
「……仕掛けるぞ」
アルカーが、猛禽のように鋭くささめいた。
・・・
「おほほほほ! 臆したか、アルカー! 木偶人形!」
木々の間を――いや、木々の"中"を飛び回りながら挑発する。
もちろん、口で言うほどあなどっているわけではない。
相手の出方を見極めようとしているのだが――どうやら、
それに乗るような相手でもないらしい。
シターテ・ルは自分自身の性能に絶対の自信を持っている。
それと同時に、その特性を十二分に理解してもいた。
装甲、パワー、耐久力。どれをとっても一般の改人どもに
劣るものはない。が、特筆すべきはやはりその速度と機動性だ。
同じ大改人であっても、彼女についてこれるものはいない。
"最速の女王"。自らそう名乗ることさえある。
この世ある全ての物体より、早い。そんな自負を、持っていた。
事実、彼女が出せる最大速度である秒速15.7kmは第二宇宙速度を越える。
その速度は地球を脱出できる早さだ。つまり、この地球上に限れば
彼女を越える存在はない、と言ってもいい。
自分をとらえられる存在など、いない。
その自信がある。
――逆に言えば、とらえられてしまえば彼女の強みの大半は失われる。
だからこそ彼女は止まらない。敵を殲滅するまで、止まることなく
飛び続ける。そうすれば、彼女は負けることはない。
……唯一の欠点は、この速度で飛び回ると周囲の索敵がおろそかになる点だ。
完全な闇に乗じて隠れるアルカーとノー・フェイスを見つけることが
できずにいる。
「……いまいましい連中ね、どこまでも」
痛む背中に歯噛みする。最初に受けた傷が、飛翔機能に制限をかけている。
機動に問題はないが、高度が足りない。
もっとも、あまり高く飛びすぎても攻撃ができない。
そして、連中を前にして逃げることもするつもりはない。
(……私の計画を! 私の計画を、ここまで台無しにしてくれるとは……!
許しがたい、許せない、許すものか……ッッ!!!)
激情が全身を支配する。改人の性だ。
こうなっては、自身の衝動を満たすまではとまることがない。
私をとめられるものなど、この世に存在しない。
・・・
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる