今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

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第三部

第三章:02

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・・・


(――外の世界は、くだらない)


生まれて初めて、見下ろすのではなく雑踏の中に入って体感する街への
感想は、そんなものだった。


歩く人、人、人。大抵はお互いに無関心だし、たまに興味を持つと思えば
そのほとんどが打算か下心によるものだ。


今、ホデリが話しかけられているように。


「ねーねー……だからさ。こんなところでなにしてるのかな、
 って聞きたいんだってば」

なれなれしく話しかけてくる集団は、いかにも遊んでいそうな男たちだ。
ファッションには磨きをかけているのだろう、チャラそうではあるが
なかなかまとまってはいる。だが、その下心が透けた顔で台無しだ。


「勘違いしないでくれよ。おれたち、別に説教しようなんて
 思ってないからさ」
「そうそう、その逆、逆。わかるんだよなぁ……学校とか、
 センセーとか、親とか。ああいうなんもわかってねー連中とは
 つきあいたくねー、って気持ち」


したり顔でうなずく男ども。いかにも理解がありそうな体を装って、
隙あらば食い物にしようという魂胆が見え透けている。


ほんとうに、ばかばかしい。
この自分に、つきあうような学校や教師や――親などが、
いるように見えているのだから。


「だから、さ。――おれたち、そういう時の遊び方、詳しいから。
 騙されたと思って、ついてきてみ? 色々知ってるんだぜ、この街のこと」


そうして騙されて泣く娘もおろかと言わばおろかだ。
自ら選択してそうなったのだから。
ホデリにはそうとしか感じられない。


そして、にっ、と笑って答えてやる。
こいつらが喜びそうな言葉を。


「いいね、おニーサンたち。じゃ、楽しいこと、教えてよ」


・・・


「……ッッッッひ、ひぃぃぃぃぃ……ッッッ!!」
「どうしたの、おニーサン? 楽しいこと、教えてくれるんでしょ?」


青ざめ腰抜け腑抜けた顔で後ずさる男を、挑発する。


騙されて泣くこの男どもも、おろかと言わばおろかだ。
自ら選択してそうなったのだから。
ホデリにはそうとしか感じられない。


二つ、三つアミューズメント施設を回った後、お決まりのように
郊外のさびれたボーリング場へと連れ込んだ男たち。

優しげな人生の先輩面から、厭らしげな狼の顔へと変わった彼らは、
自分に身体を見せるよう迫ってきたのだ。


だから――見せてやったと言うのに。
そうしたら、このザマだ。なんとだらしのないことか。


「ヒ……こ、こいつ……こないだの、テレビの……」
「う、嘘だろ……テ、テロリストかよ!?
 ポリはなにやってんだよ!?」


ゆかいでくだらないことを言うものだ。警察のお世話になるようなことを
していたのは、自分たちだろうに。



ひとしきり嘲笑い、いたぶり、ののしったあと――急速に心が冷えていく。
やはり、つまらない。こんな連中、底が知れているのだ。
あざわらったところで得られる快楽も、たかが知れている。


「――食え、フェイスども」


一言命じると、自分の護衛――という名の監視だ――についた
フェイスたちが、姿を現す。それを見て男たちがまたわめくも、もう何も
感じるものはない。


フェイスに襲われ感情を失っていくそのさまを見るときだけ、少し
溜飲が下がる。


他人が何かを奪われるのを見るのは、胸がすく思いだ。
自分だけが奪われているのではないと、みじめに慰められる。



「――待て、フェイス。一人か二人、残せ」

思いなおして命令する。感情が芽生えたばかりの彼らはおあずけを
やや恨みながらも、唯々諾々と命令に従う。


どさり、と落とされた男どもがみっともなくうめく。
無感情に、そいつらのもとに歩みよった。


「ッ……ててて……て、テメェら……ひ、ひぃぃッ!?」

なけなしの勇気――いや、虚栄心か――を発揮して凄もうとするも、
その眼前にアルカーの複眼をつきつけてやるとすぐに萎縮して
顔を白くする。そんな醜態にさえ、もう興味はない。


関心をもったのは、別のことだ。


「貴様らは、生かしてやる。
 その代わり――」
「な……なにを……ヒッ、ヒィィィィギアアアアアアッッッ!!!!」


男の額に指をつきつけると、その先端にともった熱で焼き焦げる。
指を離すと、きれいな刻印が焼きついている。


「い……いでぇぇぇぇぇ……いでぇよぉぉぉぉ……!
 な、なにをして……」
「おまえの脳みそに爆弾を仕込んだ」


一瞬だけ呆けると、男はがたがたと震え始め目が泳ぐ。
実にみじめな姿だ。爆弾など、嘘八百だと言うことも知らずに。


だが、これなら命惜しさになんでもするだろう。


「死にたくなければ、こう言って練り歩け。
 "アルカーとノー・フェイスのせいで、オレは死ぬ"……とな」
「あ、あるかーのせいで……」
「"みんなみんな、あいつらのせいで殺されるんだ"と言え。
 覚えた? 覚えろ。死にたくなければ」


もういちど指を近づけると、ヒッとみじかく息を呑み
壊れたプレーヤーのようになんどもなんども繰り返す。


「あ、あるかーとのーふぇいすのせいで、おれはしぬ、
 みんなみんな、あいつらのせいでころされる。
 あるかーとのーふぇいすのせいで……」


いや、本当に恐怖で壊れてしまったのかもしれない。
まあ、別にいいだろう。これから何人も同じことをさせるのだから。


これから、街にはこいつらが溢れかえることになるだろう。
自分たちのせいで死ぬんだと、責め立てるクズの群れが。


その怨嗟の声を聞いて、あの偽善者どもはどう思うのだろう?



「……いぶり出してやる」


・・・


青いアルカー……アルカー・ヒュドールは自身と同じく青く彩られた
大型バイク"Xinobi650"に跨り疾走していた。


いまや、どころか三束の草鞋となりなかなかに身が持たない。
厄介な部下は未だ眠ったままなのは、動きやすくて助かるが……。

だがの心は軽快だった。


これまでずっと、諦めてきた。
奴らには、敵わない。従うしかない。唯一の救いは――かつての仲間を、
"死"をもって開放してやることだけだと、諦念してきた。


それを覆すための力を手に入れた。いや、あるいはそれ以上の力だ。


二十年前から狂ってしまった自分の人生。それが今更ながら、新しい道を
切り拓けるのかもしれない。


「……ク」


思わず、笑いが漏れる。
内からあふれ出る歓喜が、抑えきれずに爆発していく。


「ククク……クハハ。ハッハッハッハハハハハハハ……ッッッ!」


スロットルを全開にし、夜の山道を走りぬける。
今の自分には、何でもできる。そんな万能感が、前進を包み込む。

まだまだ、やらねばならないことはいくらでもある。
まずは、"彼ら"を頸木から解放するための力を使いこなさねば。

フェイスダウンから、技術を奪う必要もある。



青い夜は、長い。


・・・


赤い髪をたたえた男――火之夜は、御厨のベッドの傍で座り込んでいた。
まだ、彼女は目を覚まさない。
あの錆色のアルカー……ホデリの対応に追われ、みなが右往左往している中
この病室だけはとても静かだ。


「……思えば、俺たちは貴女に頼りっぱなしだったな」


ぽつり、と漏らす。

彼女は、強い女性だ。みんなが当てにしている。
だが、その強さは張り詰めた強さだ。意図して強く在ろうとしている
彼女にも、限界がきたのかもしれない。


こうして彼女の元に通いつめるのも、ほんとうは彼女が心配なのではなく
ただ頼りたいからなだけではないのか? そんな自問に嫌気が差す。


強く在らねば。


自身を叱咤する。
この女性は、家族の仇をとるために、そして自分と再会するために修羅の道を
歩んできたのだ。火之夜が今怯んでどうなるというのだ。


今、あの少女の思いを受け止められるのは自分とノー・フェイスだけなのだ。
なら、真っ向から受け止めよう。


……その結果が、どのようなものになろうとも。


「もういくよ、ほのか。貴女は……せめて、いい夢を見ていてくれ」


ぐっと脚に力を入れて立ち上がる。
ノー・フェイスと話をしよう。彼は自分などよりよほどよく物を考える。

彼と二人でなら、きっといい策が思い浮かぶはずだ。


彼女の寝息を乱さないよう、そっと扉を閉め、火之夜は病室から立ち去った――。


・・・


「――すまんな、火之夜」


・・・

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