今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

文字の大きさ
74 / 94
第三部

第四章:02

しおりを挟む

・・・


ノー・フェイスとエリニスが、対峙して間合いを計る。


戦闘経験では、ノー・フェイスに一日の長がある。が、先日の戦いを見る限り
目の前の少女はアルカーの力を引き出す措置が取られているようだ。


人体実験。


その言葉を思い浮かべると、胸が痛む。

この少女はフェイスダウンの研究所で、一体どのような目にあってきたのか。
想像することすらできないが、人生を奪われたという意味では、
確かにホオリの比ではあるまい。


おたがいににらみ合い、動かない。


(……意外と、戦い慣れている……?)


評価をあらためる。ノー・フェイスの電子頭脳はめまぐるしく戦況をシミュレートし
あらゆる展開を考慮している。つまりは、"先を読んでいる"わけだ。

その読みが、膠着している。迂闊に動けば致命的な一撃をもらいかねない、
その危惧がノー・フェイスの足を止めていた。


先日より、強くなっている。


おそるべき成長スピードだ。
この数日の間で、どれほど経験を積んだと言うのか。


「……ここしばらく、ずっと"改人"を"喰って"たからね?」


――その言葉を一瞬理解できず、間があく。
そして、気づく。


「――仲間を、標的にしたというのか」
「仲間? あのどもが?」


にくにくしげな声で吐き捨てるエリニス。が、なにか思いなおしたように
自嘲して呟く。


「――そう、確かに"仲間"かもね。
 もう用済み、というくくりの仲間だけど」
「……なんだと?」


意味がわからないことをたてつづけに言う。
改人が――できそこない? 用済み?


それは、単なる少女の戯言かもしれない。それにしては、やけに知ったふうな
口ぶりが気になった。
ノー・フェイスはその意味を考えながら目の前に迫った触手を見つめ――


「――ッッッ!!」


……きわどいところで、のけぞってかわす。
なかなかに、さかしい娘だ。こちらが気になることを口にして、
その隙を容赦なく狙ってくる。


もっとも、戦闘中に余計なことに気をまわしたノー・フェイスが迂闊だろう。
戒めて、大地を蹴る。ホオリを狙った触手に飛び掛り、握り締める。


「……ッッッ!!」


そこに、エリニスのとび蹴りがするどく突き刺さる。
これは、予想していた動きだ。だから、対応できた。


「……チッ」


わき腹に突き刺さったエリニスの脚を、肘と膝で挟み込む。
そのまま力任せに引き寄せ、触手と四肢を固めホオリから
引き離す。


「……ノー・フェイス……ッ!」


ホオリの声が遠くなるが、今は構っていられない。
ぎりぎりのところで、"力ある言葉ロゴス"の発動が間に合う。


「"ライトニング・ムーヴ"ッ!」
「"ガイア・リザウンド"ッッ!!」


ノー・フェイスによる亜光速移動と、エリニスによる大地を引き裂く
超振動が発生するのはほぼ同時だった。

一瞬でホオリから離れ、そして周囲の大地が砕け割れ隆起する。


(……本気の攻撃は、やはり詠唱が必要か)


わずかに好材料が見えるが、やはり状況が不利なことに変わりはない。



なにしろ、相手は容赦なくこちらとホオリを殺そうとしてくる。
が、ノー・フェイスにしてみればやり返すわけにもいかない。
……それどころか、攻撃することさえためらってできないのだ。



「……アハハハハハ! どうしたの? なんで攻撃しないの?
 ――この偽善者がッ! 」   



エリニスが、ホデリが狂ったように哄笑しながら
ノー・フェイスを打ちつける。彼にできることは、できるだけその攻撃を
受け流し、ダメージを蓄積させないことだけだ。


(どうすれば、いい……どうすれば、彼女を……救えるんだ!)


悩む。悩んで、悩み続ける。
アルカーに……それがノー・フェイスの力だと、言われた。
だが今は、なにも思い浮かばない。そのことが、悔しい。


「――いいかげんにしろッッッ!!!」


一転して怒気を孕んだ声をエリニスが叩きつける。

それと同時に放たれたリバーブローは重く、うめきながら吹き飛ばされる。
そのノー・フェイスを冷たく見下ろしながら、エリニスが吐き捨てる。



「……いったいいつまで、偽善者の仮面を被り続ける?
 痛いでしょ? 苦しいでしょ? 腹立つでしょ?
 ――こんな小娘に、いいようにされて、罵られて!」



先ほどまで愉快そうに暴れていた少女が、今は激昂してわめいている。
まるで手の着けられない幼子のように。


「だったら――あなたも、ぶつければいい。
 私を嘲笑えばいい。救われなかった哀れな娘って。
 憎めばいい。理不尽なことばかり言いう、我侭な餓鬼を!!」
(……そうか……)


ノー・フェイスは、なにかを得心した気がした。


彼女は――自分の言い草に筋が通っていないことなど、百も承知だ。


両親は、彼女を救えなかった。
ノー・フェイスにも、彼女は救えなかった。

ただそれだけ。誰も、彼女をいらないなどと思っていない。
できなかった、ただそれだけなのだ。



だからこそ――彼女は救われない。
誰にも非がないなら、彼女が置いていかれたことが必然だというなら、
彼女は"助けられない"ということが生まれながらに定められていた、
――そういうことになってしまう。


それでは、彼女はあまりに救われないではないか。
誰かに救いを求めたくても、誰にも望めなかったその悲しみ。
胸がはりさけそうなその悲痛が、彼女を狂わした。


誰かに責任転嫁し、理不尽に憎まなければ痛みに耐えられなかったのだろう。
そうして理不尽に悪意を撒き散らし――やがて、気づく。


そうやって人を呪う自分の醜さに。


だから――彼女は、他人にも悪意を植え付けようとしていたのだ。


アルカーとノー・フェイスを挑発し。
ホオリを襲い、周囲の人間を傷つけようとし。


そうして相手も憎しみに染めることで――自身を慰めようとしていたのだ。




ノー・フェイスは、理解した気がする。
彼女を苛む、悪意の源を――




(……なら……)




ノー・フェイスは、覚悟を決める。



悪意に支配されている。彼女の四肢を突き動かすのは、胸から湧き出る
果てしない周囲への呪詛だ。



ノー・フェイスにできることは――




「……ホデリ」
「――なれなれしく、呼ぶな」




一転して、冷たく感情を想起させない声で拒絶するエリニス――ホデリ。
だが、ノー・フェイスは力強く呼びかけた。その氷の心を、溶かすように。


「おまえがオレたちを憎むというなら……それもいいだろう」


はじめて――ホデリが、いぶかしげな空気を見せる。
かまわず、続ける。



「オレは、お前を――置き去りにした。助けを求めるお前の声がオレに届かず、
 手を伸ばさずに立ち去ったんだ。
 ――そうだ、ホデリ。オレはお前を見捨てた」



ホオリとホデリ。同じ顔をした二人の少女が、同じように驚愕している。



同じ両親から生まれた、同じ姿の双子姉妹。
彼女たちは何から何までそっくりで――ただ悪意の有無だけが違う。


彼女たちをわけたのは、ただ一点。

救われた少女と、救われなかった少女。

その一点だけが、二人の運命をわけた。





……認められるものか。





そんな違い、認められるものか。

ホオリは、救われた。完璧ではなかった。それでもノー・フェイスは決断し、
彼女に手を伸ばした。そうして初めて、彼女を救うことができた。




今も同じだ。




彼女を救いたいなら――とにもかくにも、手を伸ばすのだ。








「おまえの憎しみは、否定しない。蔑視も嘲笑も――好きなだけすればいい。
 だが、それを受けるのはオレ一人だ。
 全てをオレにぶつけろ、ホデリ。――おまえを置いていった、このオレに!!」
「……ッな……なに、を……ッッッ!?」





ホデリが、うろたえたように後ずさる。そしてそんな自分に腹立てたように、
ぐっと地面を踏みしめる。




「なにを……ほざくかッッ!! なにが、否定しない、だ!
 思ってるくせに。――わかってるくせに!
 私を救えなかったのなんて、仕方がないってことを!」
「仕方がなかったかもしれない。
 だが、お前は





それを口に出すのは、心が痛んだ。だが彼女の痛みに比べれば、
どれほど軽いものか。




「おまえは、救われなかったんだ。手の届く場所にいたオレに省みられず、
 ただ置き去りにされた――なら、おまえの怒りは正しい。
 おまえは間違っていない。――オレだけを、憎むかぎりは」
「――ッッッ!?!?」




混乱したようにホデリが顔を抑える。かまわず、続ける。




「その悪意、好きなだけ晴らせ。オレはおまえの全てを受け止める」



ノー・フェイスは大地に脚を踏み下ろす。
彼女の全てを抱きとめ、けして怯まぬように――地面に杭をうちこんだ。


・・・

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...