努力の天才レフティー

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第1章進路

進路指導

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これは中学3年の進路指導の時…

「おい天堂、お前進路どうすんだ。今日は決まるまで返さんぞ。」担任の川田だ。
純は3年に上がってからとゆうもの、進路指導を受けたことがない。それどころか、「めんどくさい、適当に決めるよ」の一点張りで切り抜けてきた…
よくぞここまで切り抜けた…
と言っていいほどだ…
だってもぉ11月の末…
ある程度決まってなければならない時期だ…
流石の川田も痺れはとうに切れている訳だ。
「おい天堂っっっ」川田が怒鳴る。
「うっさいなぁ、んじゃ東陸堂に行く。それでいいだろ。」
川田はポカァンとしていた…
なぜかと言えば、東陸堂はスポーツバリバリの私立高校だ。
なぜそんな所に天堂が?言って何するんだ?体育もろくにしない、勉強もろくにしないこいつが…
川田は冗談だと思い話していた。

しかし、知らないだけだった。なんせ学校での天堂 純は、あくまで学校が嫌い。全てにおいて寝ている。だが不思議なことに、テストだけは毎度80点以上をとる謎の少年だった。
成績はテストのおかげで2と3がちらほらとある。
それにしたってなぜ東陸堂に…

放課後の純は違った。
別に学校が嫌いなだけで、サッカーは大好きだった。
小学校からずっとやってきた。

元々体が弱く、特に肺が弱く喘息がちだった。
そんな時、親から近くのサッカーチームに入ったら?と言われ体験に行った。
最初は喘息がひどくなることもあったが、気づいた頃にはすっかり治っていた。

そんな純は、次第にサッカーボールを毎日蹴るようになり、サッカーチームでは、一目置かれるようになった。
純のポジションは、ミッドフィルダーだ。
チームの中心だった。
身長はそんなに高くなかったが、体力があり、すばしっこく、頭が冴えた。
それに何より、唯一の左利きだった。
小学校5年生の時には、県の選抜に選ばれた。
病弱だった純が毎日積み上げてきた成果が発揮され、認められた瞬間だった。

小学校6年生になると、純のチームは県大会の決勝で惜しくも破れた。
相手はJリーグ名門の下部組織だった。
0-0のPK戦の末、4-5で敗れた。

地域の少年チームがここまでの大健闘を挙げた。
これだけですごいことだ。

そして、そのチームの中心にいたのは、純。
1番努力をした。
1番結果も残していた。
でも最後の一歩が足りなかった。
純はその場で泣き崩れた。
悔しくて悔しくて仕方なかった。

そして、これが最後の公式戦でもあったからだ。
純は、悔しい反面、もっと上手くなりたい。
中学でリベンジするんだと、この負けに誓った。

中学に上がる前、部活でやるか、クラブチームでやるか悩んだ。

そんな時、一本の電話がかかってきたことがきっかけにクラブチームに入る決断をした。

中学三年間お世話になったクラブチームである。
ここで純は、更に成長した。
あきもせず、学校から帰ってはグラウンドに行き、ボールを蹴っていた。

それが純の本当の姿だった。
いつも学校で寝ているのは、クラブチームでは珍しく、OBの大学生が学校の勉強を教えてくれていたからだ。
呑み込みが早い純は、勉強もそこそこできた。

純が東陸堂に行きたいと考えていたのは、今に始まったことではなかった。
小学校の頃のリベンジは中学で果たせた。
でも純は、二年、三年の時と一回戦、二回戦でまけた。
またその時に誓った。
全国の頂点に立つと…

同じ神奈川県にある東陸堂なら…と思っていた。
しかし簡単な道のりではない。
それだけスポーツに力を入れている学校だ。サッカー部だけでも総勢100人はいるマンモスクラブ、トップチームに入れるメンバーは20名。
その中に残るのは容易ではない。
でも純はその上で、東陸堂でサッカーをしたいと決めていた。
東陸堂で日本一になると。

進路指導室では…
未だに川田はポカァンとしていたが頭の中はフル回転していた。
「いや冗談だ…ありえない…この天堂が…東陸堂…何かの間違いだ…」
少しずつ正気に戻った川田は天堂にストレートに聞いた。
「なっなぁ天堂…冗談だよな?」
しかし冷たく純は言い放った。
「いや、本気だけど」
川田は焦りを隠せず、しどろもどろに聞く。
「なっなぁてっ天堂、何で東陸堂なんだ…」
純はめんどくさかった。学校の奴で純がサッカーをしていることを知ってる人間は少なかった。
「別に、東陸堂なら勉強しなくても適当に部活入ってれば卒業できるじゃん」
川田は何という理由だと頭にきたが、もう少し聞き出そうと、高ぶる気持ちを抑えた。
「天堂は東陸堂に入って、なんの部活にはいるんだ。東陸堂は推薦メインで、一般入試の幅は少ないんだぞ…」
純は、「だから?俺が何をするかは俺の勝手だ。俺は東陸堂に行くから。これで決まり。進路指導もおしまい。んじゃ忙しいから俺。」
淡々ととした純の物言いに川田はあっけにとられ、純が進路指導室を出ていくのを止めることができなかった。

純淡々とでた進路指導室から下校すべく帰路に着いた。

そこから数日学校に東陸堂高校からの電話が入った。
「もしもし、私、東陸堂高校サッカー部スカウト部長山下 恵と申しますが、天堂 純様の担任の先生はいらっしゃるでしょうか。」
電話に出ていたのは、まさしく川田だった。
川田はお決まりの動揺から、今自分が手にしている電話の内容が右から左だった。
「えっえっと申し訳ございません。東陸堂高校サッカー部の方がうっうちの天堂になんのご様でしょうか…」
精一杯動揺を隠したつもりが、そんな努力も無力に終わり、焦りは言葉の節々に現れていた。
「あっはい、この度我が東陸堂高校サッカー部は天堂 純様を特待生としての入学をして頂きたいと思いお電話した次第でして、その旨担任の先生の方とお話をしたいと思い、お電話差し上げた次第でございます。」
電話先でのこの丁寧すぎるほどの対応に更に度肝を抜かれそうになる川田だが、落ち着きを少し取り戻した。
「担任は私でございます。川田と申します。」
少し取り戻した落ち着きの中で、この言葉を言うのが精一杯だった。
「これは失礼いたしました。担任先生でいらっしゃいましたか。
この度我が東陸堂高校サッカー部に天堂様を特待生という形で入学をして頂きたく、天堂様本人とのお話を何度かしてまいりました。
天堂様本人我が東陸堂高校への入学をご希望とのお返事を頂き、我々での意思はお互い確認したので、この度は、現在在学中の学校様へのご挨拶として、お電話いたしました。
今回の件について学校様としてのお返事をお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか。」
なっなんだこの電話の女は…
なんでこんなすらすら話が進んでるんだ…
てか、まずなんで天堂が…
よりも寄ってなぜ東陸堂高校が…
「あのぉ失礼ですが、うちの天堂は勉強はおろか、体育すらまともにできない天堂が、なぜ高校サッカー県下優勝、全国区の学校が天堂を特待生として推薦なのでしょうか。成績も中の下ですよ。」
山下はこの質問にさすがに驚きを隠せなかったようで、「申し訳ございません。おっしゃっていることがよくわからないのですが、勉強においての成績は当人と、ご家族からの成績表の提出で存じ上げておりますが、体育ができないと言うのはどう言うことでしょうか。」
川田こそ頭の中は「は?」の次元だった。
しかし、「天堂は、いつサッカーをしているのでしょうか?どこが東陸堂さんの目に止まったのでしょうか。」
山下はなんとなく持っていた疑問が晴れていた。
「あの子まさか学校にクラブチームにいることを隠していたのね、全く面白い子だは」と電話越しでわらっていた。
「学校様の方では、天堂様がクラブチームでサッカーをしている事をご存じないのでしょうか?」
「えっとそうなんですか?」と素っ頓狂な反応で答えた川田をよそおに山下は、「天堂様は神奈川県の有名なクラブで、キャプテンを務め、中学一年生からトップチームと一緒にプレーをし、二年、三年と全国への出場をしている選手でございます。それ故に我東陸堂高校サッカー部は、天才天堂 純の素質を高く評価し、特待生としての入学のご案内に至った次第です。」
川田は色々と訳が分からなくなっていた。無理もない、天堂 純。学校生活において純程学校生活へ気力のなさを表立たせる人間はいないからだ。
その純が、実はサッカー界では天才と呼ばれていると言う。
驚くなと言う方が無理だと思った。
川田の中には沢山の葛藤が渦巻く中、山下の声で我に返った。
「川田先生、天堂様の我東陸堂高校へのご入学へは賛成いただけますでしょうか。」
川田は、珍しく機転を利かせた。
「天堂が希望してるならおおいに構いません。私共も、東陸堂高校への進学、高校での部活の活躍というのは嬉しいものですので、その点で、うちの生徒を評価頂き特待生と言う条件を提示していただけることは結構なことなのですが…」
川田は次の一言をなかなか言えずにいた。
「結構なことなのですがなんでしょうか。」山下がといただす。
「結構なのですが、私はいささかまだうちの天堂が、現中学サッカー界で天才と言われる選手だと言うことが想像できません。
そこで、もし可能であれば、天堂が東陸堂さんでサッカーをしている所を見せて頂けないでしょうか。本人にはもちろん内緒でです。」
山下は少し驚いていた。
なぜなら、純が東陸堂の練習試合に出ていることを川田が知っていると思ったからだ。
しかしかく言う川田も実は昔、少し名前の知れたサッカー少年だった。
高校では惜しくもベスト4止まりではあったものの、神奈川県では強豪と言われるチームの副キャプテンであり、不動ののサイドバックといわれていたからだ。
そんな川田が、高校の推薦で特待生に選ばれた選手が、中学在学中からも練習試合への参加をしたりしていることは知っていた。
だからこの質問が飛び出た訳だ。
山下はこれに対し、疑問は持ったものの、再来週行われる1軍、2軍の壮行試合へ川田を招待した。
「再来週12月20日13時から東陸堂高校メイングラウンドで選手権前の1軍、2軍の壮行試合が行われますのでそちらにおいでください。観戦は自由となっておりますので、スタンドでご観戦いただけます。」
川田はスケジュールを確認し、10日日曜は何もないのでいけると返事をした。

川田は、なにかの間違いだろうと思いながらも、あの天堂がなぁとふけっていた。
結局それは壮行試合を見終えるまで払拭できなかった。


壮行試合当日…

「改めてすげぇな…本当に高校かよ…

川田がそう思うのも無理はない、学校の敷地は東京ドーム6つ分、サッカーのグラウンドはメイングラウンドとは別に4面のグラウンドがある。
野球のグラウンドも3面、プールに体育館、各議場、どこかのオリンピック会場かと思わせるほどの敷地だ。
学生の移動は、自転車、校内循環バスでないと移動できないくらいだ…

川田は、循環バスでメイングラウンドである東陸堂サッカー場に向かった。

到着した川田はスタンドからグラウンドを見渡した。
スタンドは全校生徒2千人をはるかに超え、メインからゴール裏まで続く規模のスタンドが構えられている。
「なんてスタンドだ…」
そんな時、見知らぬ凛とした顔立ちのスーツの女が近づいてきた。
「あの、失礼ですが、川田先生でいらっしゃいますか?」
川田は面を食らった。
「誰だこの女性は…なんで俺を知ってるんだ?」
女は、「申し遅れました。先日お電話でお話しした、東陸堂高校サッカー部スカウト部長山下です。」と丁寧に名刺まで差し出された。
川田は名刺を受け取り、相変わらず驚いていたが、「なぜ私が川田だと?」ときいた。
「あぁ、失礼ながら川田先生のことを少し調べさせていただきました。
先生が高校時代、不動のサイドバックと言われ、大学、プロからも注目があった
事。
怪我により、選手生命が絶たれしまい、教師への道を進んだ事。」
川田は「ここまで知ってるとは、なんて情報網だよ…」と顔を引きつらせていたが、「そこまでご存知でしたか。お恥ずかしいお話で…」と苦笑いをしていた。
「本日は二軍のMFとしてスタメンとして天堂君には試合に出て頂きます。90分フル出場が条件です。
そのほかにも二軍には特待生として入学が決まっている選手の一部が出場いたします。
東陸堂高校のサッカー部1軍は今年の夏の選手権ベスト4と冬では全国制覇を目指していますので、今冬までの選手のスキルは夏以上です。
それを2軍と現在中学生である選手がどこまでできるか。
ある意味では特待生のセレクションも兼ねております。」
川田は、この学校が強豪となったゆえん、ここまで上り詰めた強さを感じた気がした。
並大抵の高校では、特待生といえど2軍には入れる。
しかしこの学校は2軍どころか、それ以下ある。
その篩を入学前から行い、1軍として三年間を進むもの。2軍、3軍から這い上がるもの。
自動的にやる気のないものは落とされる。
そのプレッシャーを選手は感じて三年間部活を過ごさなければならない。
そんなことを考えていると山下から驚きの一言が…
「ちなみに天堂君は2軍軍へのセレクションを通過しています。
今日は1軍昇格へのセレクションとなります。
このスタンドにはカメラが8台あり、ボールを追うカメラ、選手を捉えるカメラがあり、サッカー部スタッフもいたるところにおります。」
川田は抜かれた度肝を更に抜かれることになった。
「どこのプロクラブですか…」という言葉を飲み込みあっけにとられていた。
それに加えてこの東陸堂で天堂が2軍内定をすでにしているということだ。
一体あいつはどんなサッカーを…
「よろしければあちらに特別シートがございますので、そちらでご観戦ください。
スタンドカメラの映像も見れますので。
ご案内いたします。」
有無を言う間も無く連れていかれた。

ついた所はよくスタジアムとかにあるメインスタンドの上の放送席のような席だ。
一体どんな学校だ本当にと思いつも、「こちらでごゆっくりと、もし何かあれば近くのスタッフに」と言い残し立ち去る山下の後ろ姿を見るしかなかった。

その頃、「えぇ、はい、わかりました。」山下は、スタンド通路で電話を受け、かしこまった様子だったが、その電話を切った。

純はというと…
「あー怠い…」
気づいていたのだった。
「なんであのやろぉがここに…」
川田の存在を知っていたのだ。
ピッチに立ってスタンドをみた。
初めて立つメイングラウンドからの景色はすごかった。
これが高校サッカーで見るスタンドかと。
壮行試合とは言え、この応援団と観客だ…
8千は入ろうかと言うスタンド。
そのスタンドはメインからびっしり埋まり、両ゴール裏に空きがあるのみだった。

「おーいじゅ~ん」
純を呼ぶのは同じ特待生の涼だ。
「おーい、じゅ~ん~」
純は少し涼が苦手だった。
普段は悪いやつじゃないが、サッカーの時もどこか抜けた感じだった。
「なんだ涼」集中力を高めたい純は、出来るだけ静かに返事をした。
「あれ、みてみろよ」
涼が指差す方向を見ると…
「なっなんであいつらが…」
純が見たのは、今日は先発しないと言われていた1軍の三騎士と呼ばれる3トップのセンターFW二年生の赤石 誠一郎右の青峰 哲也、左の伊藤紫龍の三人だ。
「なんであいつらがいるんだ、今日はスタメンじゃないんじゃ…」
純が少し驚いているのをよそおに、涼は、「面白くなりそうだな」
涼はこういうのを面白く感じてしまう少し頼もしくもあり抜けているのだ。
純は、そんなのも御構い無しにイメージしていた。
いつも、試合前に純はイメージをする。相手の癖を知っていれば尚の事だ。
アップをしながらイメージをし、試合に近い感覚で体を動かす。
それを限りなく実体化できてしまうのが、純の努力の賜物だ。

試合開始15分前…

「会場の皆様、本日は東陸堂高校サッカー部壮行試合試合にお集まり頂きありがとうございます。
この後13時より、1軍と2軍の壮行試合がはじまります。
夏のインターハイベスト4、そして今冬も神奈川県大会を制し、全国高校サッカー選手権に駒を進めた、我が東陸堂高校サッカー1軍と2軍の壮行試合。
今回は、特待生として来年から我が校に入学される選手の皆様の出場もございますので、とくとお楽しみくださいませ。
ここで、両チームスターティングイレブンの発表をいたします。
まずは、1軍スターティングイレブンから。
GK 遠藤 豪2年CB二人、海道 リア2年、海道 ロア2年LSB田中 穣3年RSB中野 睦3年DMF鼓 幹太2年OMF重永 駿介3年谷川 大3年LFW 伊藤 紫龍2年RFW    青峰哲也2年CFW赤石 誠一郎2年
まさか壮行試合にフルメンバーを揃えてきました!!
全国大会ベスト8まで出さなかった布陣をこの壮行試合で揃えてくるとは意外な展開となりました。」
スタンドは盛り上がった。
普段ではまずお目にかかれないメンバーでの試合だ。
それもそのはずだ。
スタメンの半分が世代別代表としての選出をされるようなメンバーであり、サブメンバーが混じったとしても、まず強豪と言われるチームと遜色ないメンバーが揃っている。
そんなメンバーを壮行試合で見れるのだから観客、生徒は喜ぶだろ。
鳴り止まぬ歓声をよそに2軍のスタメン発表が始まる。
「さてお次は2軍スターティングイレブンの発表です。
GK 若林 健2年CB2枚 赤木 四郎3年柴田 宗一2年RSB高橋 陸3年LSB南 龍馬3年DMF佐宗 太一特待生、DMF後藤 海2年OMFセンター天堂 純 右に本田 
涼 左に田中 啓介FW木瀬 順人
以上2軍イレブンです。
特待生としての参加は、佐宗太一、本田 涼、田中 啓介、木瀬 順人、そして天堂 純の5名が特待生として本日試合に出場いたします。」

川田は特別シートでアナウンスを聞いていて呆れていた。
「なんだこの高校は…」

キックオフが迫っていた。
入場がはじまる。

「さぁそれではみなさん、壮行試合がまもなく始まります。」

「うぉぉぉー!!」
スタンドから轟く歓声が地響きを起こしていた。

「選手入場」

両チームイレブンがピッチに横並びにぬり、スタンドに挨拶した後、エンジンを組んでピッチに広がった。

「それではキックオフです。」

「ピィィ~」
長い笛がなり1軍のキックオフで試合が開始された。

こぎみよくパスが回される。
中盤からサイドへ、サイドから中央へ。
2軍は前線からプレスをかけていく。
しかしボールに触れる事すら出来ないテンポのいいパス回しで少しずつ攻め上がる1軍。
純と涼、啓介、順人は前からのプレッシャーをかけるがボールに後一歩のところでパスが回ってしまう。
「おい純、涼、2人でプレスをかけろ。」順人が指示を出しサイドへパスを誘導する。
そんな時だった…
サイドに誘導されたかのように見えたパスの次の出所は、中盤の鼓から右サイドへ縦ての鋭いスルーパスによりDFの裏へ抜けた。
誰もが追いつけない、そう思った時だった。
青峰がとてつもないスピードでボールをタッチラインギリギリで抑えた。
2軍DFは誰も追いついていなかった。
焦って戻ったが青峰に楽々とゴールに向かって切り込まれた。
ようやく追いついたDF赤木と柴田をかわし、シュートと見せかけ左サイドへパスを流した。
そこに走りこんできたのは伊藤だった。
伊藤はそのまま目の前にいる高橋の正面でパスをうけヒールでバックパスをした。
フリーで走りこんできた赤石へのパスだった。
赤石は右足でダイレクトにそのボールをシュートした。
ボールはゴール右方向へ飛んでいく。
GKの若林はこのボールに反応している。
ボールはゴール前で伸びてきていた…
若林は、「簡単に決められてたまるかよっ」シュートに反応していた若林はこのボールを間一髪はじき出した。
ゴールラインギリギリにはじき出されたボールはラインを割らない。
このボールにいち早く反応していたLSB南がサイドからパスをつないでいく。
南、佐宗、後藤、田中と運んだ。
そしてボールは純に渡る。
左サイドから展開されたボールは攻めに枚数をかけ手薄になっていた中盤の純に渡った。
この試合ものの3分で1軍にひやっとさせられた。
純はこの1軍の強さは本物だと肌で感じていた。
しかし、自分の力を試したい。小学校、中学校の頃に果たせなかった目標をこの学校で掴むと決めた純の努力を力を試してみたかった。
ボールを受けた純は颯爽と駆け上がった。

「おいおい、特待生の坊ちゃんが、俺ら相手に一人で叶うと思うのかい?」嘲笑うようにCB 海道兄弟が待ち構える。

そうCB の海道 リアとロアは 日本とブラジルのハーフだ。そして一卵性の双子だ。

「かなうかはわからないけど、試すには絶好の機会だっ」
純は強気に攻め込んだ。
「おっおいまてそれは無茶だっ」
FWの順人と涼は、純のフォローに入るために上がりながらも、純の無茶な試みを止めようとした。

「まずは一人目だっ」純は鼓とマッチアップした。
豊富な運動量と抜群の反射神経、判断能力の高さが定評の鼓相手に真っ向から勝負する純。
「おい坊やちょっとそれは舐めすぎなんじゃねぇかっ」
鼓のディフェンスは上手かった、タイミング、距離どちらも鼓の間合いだった。
普通ならここでドリブルスピードが落ちるはずだが、どこか違和感があった。
しかし鼓は、「引っかかったな小僧っ」間違いなく取れるタイミングだった。
取れなくとも相手のスピードを殺し、バランスを崩させるはずだった。だか、バランスを崩していたのは、他でもない鼓本人だった。
「なっなぜ…」
ここで鼓は違和感の正体に薄々気づいた。
それは自分が抜かれた体制があまりにも軸足に重心が乗っていたからだ。
純は鼓が倒れた方向にボールをドリブルしていた。
そして海道兄弟だった。
「見たかリア」「見たよロア、あいつあの鼓のバランス崩しやがった。」
海道兄弟も初めて見た。
鼓のボディバランスは東陸堂の不動のセンターバックである海道兄弟よりも強い。
それ故鼓の位置でボールがほとんど奪えるのが東陸堂の強さの秘訣でもあった。

サッカーでは、なるべく前線でボールを奪い、カウンターを仕掛ける方が良い。
相手に立て直す時間を与えないためだ。

純はスピードを緩めず同じ様に海道兄弟に向かっていった。
両サイドには、順人と涼のフォローがある…
チラッ…
純が右にいる涼を見た。
海道が左サイドバックの田中に指示を出す。
しかしその時だった。
ボールは純の元から右からきていた順人の所に渡っていた。
そしてディフェンスがボールにつられた一瞬の隙に涼と純、そして啓介がポジションを入れ替える。
純は遅れをとり、涼が中盤に、啓介が左サイドに流れた。
ポジションを入れ替えディフェンスをスイッチしたその時だった、遅れて流れた純に向けたスルーパスがでた。
海道兄弟と田中、中野は不意をつかれた絶妙なタイミングにディフェンスが遅れ、純にボールが渡ってしまう。
ディフェンスラインはゴールキックを蹴る、ゴールライン付近まで下がっていた。純が受けたのはペナルティアーク右だった。
「いいよ打ってきな、俺は過去四年、ゴールエリア外からの失点率は0だっ!!」
純は知っていた。失点率の低さはシュートを打たれた本数の少なさ、そして何より混戦状態のペナルティエリア内での成り行きで詰め込まれた失点しかしていないことを。

「全日本U-20代表に選出されるGKから点を簡単に奪えるとは思ってねーよっ」と言うと同時に放たれたシュートはいかにもゴールポストギリギリのブレ球が飛んで行った。
ボールに反応するもの海道の足の上を通りポストに当たろうかと言う所でGK遠藤の手が伸びてきた。
これを遠藤は片手ではじき出そうとしたその時だった…
海道がボールをカットしに行こうとした隙にフリーになった涼が詰めていた。
遠藤はそれに気づきとっさに手をグーにし、ボールを上に弾き出し、ボールはタッチラインを割った。

チッ、純は乾いた舌打ちをした。
「もぉちょ高めなら入ってたか。」

「なんて野郎だ、とっさに弾き出しやがった。」涼は気づいていた、遠藤がとっさに弾き出す方向を変えたことを。

「レベルが高すぎるぞ本当に…
まさか一人で行くのかと思ったぞ純。」
啓介が純に言ったら、
「あぁ確かにレベルが違いすぎる。ただ俺らも通用はするみたいだぜ。その証拠にみてみろ、日本を誇る1軍切手のGKさんのいきり立った顔を。」
確かに悔しそうな顔をしていた。どこか苦虫を噛んだ様な顔を…
「さぞコーナーに逃げたと思われるのが酷なんだろうな」

「くそっあんなクソガキどもに…」
「おいおい遠藤気にするな、これからだろ、まだ試合は80分もあるんだからな。」
「海道、その80分の残りでこんな無様な展開は2度とごめんだぜ」

その頃川田は、この10分の出来事に鳥肌が立っていた。
「なんて試合だ、これが高校のいや、特待生を入れた高校の壮行試合だとゆうのか…
レベルが高すぎる。
それにしても天堂のあのプレーは…」
「お気づきになられましたか川田先生」
後ろにいたのはスカウト部長の山下だった。
「あのプレーに感づくとは随分と鋭い洞察力が健在の様で。」
「いっいえそんな大層なものでは…」
「どうです、あれが本当の天堂 純です。」
「えぇ信じられません。あの足に吸い付いた様なドリブル、正確すぎるブレ球のシュート、そのこぼれに反応できるようマークが甘くなった隙をついて詰めていたあの選手。なんてハイレベルなプレーを、しかも今日集まった特待生達の連携は…」
「えぇ確かに、天堂君のあのドリブル、あの状況下で日本屈指のMFである鼓君のバランスを崩すほどの小刻みなテンポとタイミングを外すドリブルは脅威です。
それに、あの詰めていた選手のこぼれ球に対する嗅覚もです。
彼らは特待生ではありますが、中学校年代を代表する選手達です。
世代別U-15での選出で共に戦った選手ですので、プレーの感覚はお互い認識しています。」
川田はようやくもやが少し晴れた。
世代別代表…
純が世代別とはいえ日本代表であったことに驚いている。
「川田先生、この試合どおなると思いますか?」
「どうなるとは?結果ですか?」
「えぇそうです。何対何でどちらが勝つと」
「どっちが勝つか…この10分を見ればどちらも引けを取らない、でも高校サッカーはそう甘くはない。体の出来ていない中学生が高校生相手に90分戦えるとは…」
「おっしゃる通りですね、天才と呼ばれてきた中学生の日本代表。とはいえ、高校での2年、3年の時間は大きなものです。しかし、天堂君は生まれ持った天才ではありませんよ。」
「生まれ持った天才ではない…と言うと」
「彼は重度の喘息持ちでした。」
「天堂が喘息を」
「えぇ、彼は喘息を治すために母親から勧められたのがきっかけでサッカーを始めたそうです。だから人一倍努力をしなければならなかった。そして気づけばチームの中心にいた彼の努力は、次第に彼の成長となり、彼の秘めた力を確立させた。彼は無類の負けず嫌いです。」
「あの天堂が負けず嫌いですか…」
「彼が喘息を治すために始めたサッカー、努力を人一倍しなくてはいけない辛い環境の中で、人に認められ、自らの成長を感じる中で、手の届かなかった目標に、負けたことに対する悔しさを人一倍感じていた。天堂君の努力は悔しさを引き出し、成長させる力をもらたすもの。それが今の天堂君。努力の天才。」
「奴が努力の天才…」
川田は今だに混乱していた。しかし今目の前にする天堂のプレーのどこかに、天才と呼ばれる人間とは違う自信に満ち溢れたチャレンジャーの雰囲気を感じていた。

試合はコーナーキックからスタートした。
コーナーキックを蹴るのは涼だった。
右サイドからのコーナーキック。ゴールから離れていく競り合いに向かったのは啓介だ、そこに順人も向かう、海道リアが先に落下点に入っていた。
しかし、海道リアより1メートル手前に啓介がいる、そしてその啓介に向かって順人が走り込む。
「お前らそんな所にいてもボールは届かんぞ」
「それはどうかね、順人っ」
啓介が叫ぶと順人は啓介の肩に手ついて飛んだ…
「うっ嘘だろ…」
海道リアは驚いた。
試合中に馬跳びのようにして打点を挙げたのだ…
「らくしょーだぁー!!」
順人が高い打点から叩きつけるようにヘディングする。
ボールはゴール右隅へ飛んだ。
「させねぇよっ」遠藤はこれもボールへ反応していた。

しかし、そんな時だった。
遠藤の視界からボールが消えた。

ボールはネットを揺らしていた。
ピッチに立つもの、スタンドにいるもの、会場が静まり返った。
何が起こったのか…
その場にいたもので、何が起きたのかを理解したものはピッチ上では三騎士と呼ばれる3トップ、鼓、2軍特待生だけだった。
ピッチ外で理解できたものは、山下、そして川田、1軍監督である、東陸堂高校サッカー部総監督の孫 輪廻監督だけだった。

唯一ピッチ上で意気揚々とボールを持って中心に戻るのは、純だ。

そう、ゴールを決めたのは純だった。
叩きつけられたボール、のバウンドした所に走りこんでいた。
バウンドしたボールのコースを変えた。
その一瞬をとらえられたものは少ない。

だからこそ、誰も動けないのだ。

純が一人戻るのをあっけにとられている。

ようやく我に返ったものが自陣に戻っていく。

試合が再開された、電光掲示板に表記される得点者の名前、天堂 純。
試合は膠着状態だった。
1軍は特待生に点を決められた事での動揺を隠しきれなかった。
それは三騎士とて同じこと。しかし、赤石だけは違っていた…

「どうですか。天堂君点とりましたよ。」
「まさかあいつが…」
「川田先生、彼は後半も点とりますよ。
後半は1軍もサブを投入します。選手権メンバー全員を今日は使う予定ですので、3名以外は交代となります。」
「でっですが、いくらサブとは言えど東陸堂の選手は他に行けば超一流と言われる選手の集まりでは…」
「えぇ確かにおっしゃる通り。ですが、うちの系列である西陸堂に行ってもスタメンはないでしょう。西陸堂も我が東陸堂と引けを取りませんから。」
「それでは、東陸堂の1軍に対抗する力を持つ天堂、いやその他の特待生は、強豪と言われるクラスの選手相手なら訳はないと言うことですか。」
「その可能性はありますね。ただ、残る3選手が誰かによります。チームを動かす司令塔、たった一人でガラッと雰囲気を変える力、何があろうとブレることのない精神力。どれか1つを兼ね備えるプレーヤー。全てを兼ね備えるプレーヤー。誰を残すかです。」
「誰を残すか…絶対の司令塔…雰囲気を変えるプレーヤー…ブレない精神力…か…」

試合は膠着のまま40分が過ぎ、ラスト5分とアディショナルタイムのみとなった。

「なぁ純そろそろやらないか」啓介がなにやら純に聞いた。
「いやまだだ。まだ早い。追いつかれたわけでもないし、リスクが高い。それに赤石の野郎はまだ動いてこない。1点のリードはリスクが大きくあるが、手の内晒してからでは次はないからな。」
「仕方ねぇ、あのGKから点を取るのは容易じゃねえけど前半であと1点なんとか…」
「なら代表でやったあれやろぜ」順人が割って入った。
「あれってあれか?」
純が確認するように言うと啓介、順人は「あぁあの時と同じタイミングだしな」
「それならもう一個は隠しておける。もし仮に失敗しても伏線は貼れるからな」
「確かに、あれやるか」

三騎士の攻撃をしのいだ2軍は若葉のパントキックからスタートした。低い弾道のボールが後藤渡る。
後藤から佐宗に、佐宗から純に渡った。
涼はさっきの話を聞いていた、「あれ」の意味を理解している。
純がボールを持った途端、順人、啓介、涼、佐宗は一斉にサイドに上がった。
両サイドに2人ずつ開いて走り出す。純を中心とし綺麗なV字ラインが描かれている。
純はドリブルで切り込んで行った。
膠着状態のさなかも純のドリブルは1軍の中盤を砕いて行った。
鼓は三度も抜かれていた。
バランスは崩されなくなったものの、純の加速に追いつけないのだ…
そしてまた1人、2人とかわし鼓とのマッチアップ。
純は相変わらずスピードを落とさないが、テンポを変えて切れ込んでいく。
チェンジオブペース、これが純のドリブルの1つの武器だった。ドリブルのタッチ、微妙なスピード変化、状態移動から繰り出すチェンジオブペースはスピード変化だけのものとは全く違った。
「なんども抜かれてたまるかっ」
鼓が叫ぶが純はお構いない。
ゴールまで30メートルと行ったところか、鼓はバックステップを踏みながら純に抜かれまいとついて行くが、ジリジリと後ろに下がる。
そしてついにはペナルティエリアまで5メートルまで来たところで純は仕掛けた。
一瞬の加速で鼓の横につけた。
焦った鼓は純のユニフォームに手をかけた。
純はその手を払いのけた。
そしてトップスピードのドリブルをピタッと止めた。
鼓はまた派手に倒れた。
純はフリーとなったそしてサイドに開いていた4人は一気にゴールるへ向かい走りこんだ。
この時だった、ディフェンスが中央に走り込む4人を追ったその瞬間純はゴールキーパー正面にシュートを放った。
1本目に放ったものより大きくブレていた。
遠藤は一歩前に出た。
「ブレ球なんぞ俺に通用するかっなめるなこぞおぉぉぉっ」
「誰もあんたにブレ球で通用するとは思ってねぇーよめんどくせぇ」
「なんだと…」
遠藤は純のブレ球を弾くしかなかった…
弾いたボールは遠藤の正面に来るはずだった…
しかしブレ幅が大きいこのボールに対して遠藤の手の正面ではなく左にずれていた。
ボールは当然左側に流れた。
そこに遠藤が反応しキャッチしようとした時だった。
左サイドから駆け上がる啓介と順人が詰めていた。
遠藤はとっさに弾くしかなかった。
取りに行ったら詰められる。
このボールを海道や中野のいる方へパンチングした。
しかしこれは罠だった。
「順人行ったぞ」
「OK」
そお、狙いはこれだったのだ。
通称アリ地獄。
敵陣のゴール前ながらペナルティエリア内にボールが溢れるとその先には5人のプレスがかかる。
このアリ地獄を抜ける方法は3つ。
リスクを背負ってでもGKがキャッチんぐする。
2つ目はコーナーに逃げる。
しかし、プレーは切れても、アリ地獄は続く。
3つ目失点する。
タチの悪いアリ地獄だ。
抜ける糸口はキーパーが取るしかない。
ディフェンスのクリアの先にはエリア外からの援護によりすぐさまボールがゴール前に入る。
純はプレーが切れた一瞬のうちにディフェンスにセンターラインまで上がるように言っていた。
抜けられないアリ地獄。
連続されるシュート。
弾くのが精一杯の遠藤もついに反応が遅れだしていた。
その時だった。
純の前にボールがこぼれる。
純はシュートをせず、足元にボールを止めた。
遠藤や海道兄弟、中野、田中穣、鼓がゴール前を固めるが、特待生組が一歩早い展開でボールをクリアさせない。
息を切らす1軍に対して、全く息を切らさない特待生。
「こいよこぞおぉぉぉっ、お前ら調子に乗ってんじゃねぇぇぇぇぇっっっ」
遠藤が吠えた。
「あーぁ吠えたよ遠藤が。本当に一点もはいらねぇぞこれじゃ」1軍ベンチからそんな話が聞こえた。
スタンドもどよめいていた。
それもそのはずだ。
遠藤が最後に吠えたのは彼が1年生の時だ。
同じ壮行試合で2軍入りしていた。
当時1軍のエースだった榎本 傑にコテンパンに遊ばれた。
そして遠藤をかわして得点を挙げたのだ。
その後は全てペナルティエリア外からのシュートだった。
そんな時遠藤は吠えたのだ。
そしてその試合、全てのボールをキャッチしたのだ。
完全セーブだった。
その試合はその後無失点。
そして遠藤が1軍に上がるきっかけとなった試合だった。

「孫監督良いんですか、こんな壮行試合で遠藤が吠えたのにそのまま出し続けて…」
コーチの神谷達也が焦ったように言う。
「まぁいいでしょう。久々に吠えた遠藤を見るのも。あれ以来吠えなかったのが不思議なくらいだ。選手権でも遠藤が吠えたら負けることはないだろう。」
孫監督は案外あっさりしていた。
ここ2年遠藤が吠えたことはなかった。
おかげで今年の夏はベスト4
去年は夏に県大会決勝で西陸堂に破れ、選手権はベスト8におわっていた。
「ここで吠えるとはね遠藤、よほどあの特待生が気に入らなかったみたいだね、久々に君のベストプレーを見せてくれ」
孫は心の中でそう呟きながら表情はどこか楽しげだった。

純は遠藤が吠えたことの意味を知らなかった。
単純にキレたと思っていた。
他の特待生も同じだった。
しかし、その本当の意味を1軍のものがぼやくのを聞いていた。
純は、それでも理解するだけの情報には至っていない。
ゴール前でフリーでボールを持っている。
そしてまた、アリ地獄の再開をするかのごとく鋭いシュートを放った。
「吠えようが喚こうが、アリ地獄からは抜け出せねぇよっ」
キーパーの正面からやや左に放たれたシュートに対して順人と啓介が詰めていた。
ボールはキーパーの手前で鋭く落ちた。
ドライブ回転がかかった、これもまた変則シュートだ。
しかし遠藤は、「こぞおぉぉぉ、舐めてるのかぁぁぁ」
ボールが自分の手前で落ちた時だった。
吠えた遠藤はバウンドしたタイミングに合わせ、ボールをキャッチした。
「そっそんな…」
「さっきまでのはなんだったんだ…」
詰めに言っていた順人、啓介は知っていた。
キーパーとの微妙な位置に落ちるボールを正確にキャッチするのは難しく、大抵のキーパーは取りこぼす。
そのこぼれ球をつめるはずだった。
はずだったが、遠藤は取ったのだ。
今まであんなに正確にボールを蹴れる同世代の純の天才っぷりに驚いていた涼達同じ特待生が、この試合本当に危ない人間は、遠藤だと言うことを直感した。
点が取れない。
失点したら勝つことはないと言う鬼の様なプレッシャー。
どこかゴールに大きな壁が一枚…
それを壊さぬ限り点にはありつけないと言う無敵のプレッシャーを…

「こぞおぉども、次はこっちのお返ししだぁぁぁっ」
この終了ラスト3分で仕掛けた猛攻。
しかしアディショナルタイムが2分あった。
そして遠藤がボールを取った時点でアディショナルタイムに入っていた。
誰もが前半は、1-0のまま終わると思っていた。
2軍メンバーもそれは同じではなかった。
しかし、アリ地獄のために2軍メンバー全員がハイプレスをかけていたために、1軍三騎士は最前線に駆け上がった。
遠藤には、正確無比なセービングとキックがある。
遠藤はハーフラインにいる三騎士赤石へライナー性のパスを通した。
「僕らもそろそろやり返さないといけないな」
赤石の言葉に、青峰、伊藤はサイドを一直線に駆け上がる。
そして手薄な2軍のディフェンスを赤石が突破しようと仕掛けていく。
「赤木、柴田の2人が時間かけようとするが、赤石のスピードは落ちなかった。」
攻撃に参加していた人数に対して、2軍はディフェンスの4人のみだった。
1軍は三騎士のみであったが、サイドに駆け上がる青峰、伊藤は中に切れ込んだり、外に開いたり、両サイドディフェンスの高橋、南を翻弄した。
赤石は左サイドから中央に切り込んだタイミングの伊藤にスルーパスを出した。
伊藤についていた高橋は完全に振り切られていた。
ボールを受けた伊藤は、「行くぞ哲也」と青峰へのセンターリングをあげる。
しかし、ボールキーパーと青峰の間に飛んでいく。
若林はすかさずボールとの距離を詰めるが、青峰の強靭なスピードには敵わない。
青峰はシュート体制をとっていた。
ディフェンスもキーパーも間に合わない…
青峰はシュートを放った…
様に見えたボールは、ディフェンスもキーパーもいない反対サイドへ折り返された…
ディフェンスもキーパーも味方さえ…
赤石が走りこんでいた…
「いつの間に…」
「お前ら赤石の速さしらねぇわけじゃねぇだろ」
赤木と若林のやりとりもつかの間、どフリーで受けた赤石は、そのままゴールにボールを流し込むだけだった。

「ピィィー」

ついに同点にされた瞬間だった。
前半アディショナルタイム残りわずか数秒十秒間の出来事だった。

そしてここで、特待生のスタメン五人を含めた2軍のメンバーは、得点をできないと言う恐怖に駆られていた。

「ピッピッィィー」

ハーフタイム…


「じゅん… おい純、 じゅー…」
涼が呼ぶのもつかの間純は「聞こえてるよタコ」
「なら返事くらいしろよ」
「考えてんだよあの遠藤から点を取る方法を…」
「点を取るって…あの人お前のあの球を止めたんだぞ…どうやっても決めるって言うんだ…」
「なんだお前諦めてるのか?なら後半出るな」
「あぁ?ふざけてんのか、誰が諦めてなんかいるかよ…」
純はめんどくさかった。
確かに口の悪さはピカイチだ。
自信に満ち溢れている様に見えて、実はそうではない。
誤解を招きやすいだけだ。
おかげで目をつけられる、絡まれることはしょっちゅうだ。
だからだろうか、純はサッカーをしてない時以外はめんどくせぇと思っていた。
「おいやめろよ」
「馬鹿かお前ら」
順人や啓介、佐宗が止めに入る。

2軍には既に吠えた遠藤、三騎士の前半終盤でのカウンター、最後の最後に力の差を見せつけられ、どこか怯えている様な、プレッシャーに押しつぶされた様な雰囲気だった…


特別シートでは…
山下と川田が試合を眺めながら話している。
「前半終盤に同点弾。遠藤君が吠え、赤石君をはじめとする、東陸堂三騎士の完璧なカウンター。後半はメンバーが変わるとはいえ、川田先生のお考えはやはり変わりませんか?」
川田は信じられなかった。
天堂ら特待生が繰り広げた、通称、アリ地獄。
あんなハイゾーンプレスで、まともに相手にクリアをさせないで攻め続ける。
並のセンスではできない。
ボールの行く先を感知する嗅覚、次に打つコース、それに合わせて回りがそれを感知し詰める…
こんなことをラスト5分の間に超高校級の選手相手にやってのけてしまう特待生…
その中心が、天堂純。
それだけでただでさえ驚いていた。
鳥肌が立ち、どこかで血が騒ぐ様な自分もいた。
それに見事なまでに完成され、完璧なカウンター。
止められない。
俺が現役だったら止められたか…いや無理だ…
そんな葛藤が渦巻いていた。
結果が見えなかった。
山下にされている質問の答えが意図されている意味が…
なぜそこまで結果を問うのか…
「正直わかりません…申し訳ない。この目の前のピッチで繰り広げられる試合に驚きが隠せない。あの終盤の攻守の攻防は、点に結びつかなかったものの、アリ地獄は間違いなくいずれ1軍のゴールを破るかもしれない。しかし、それを繰り返す中で一回でもボールを奪われたら、あのカウンターによって逆転される。アリ地獄の布石は、サイドから一気に中央につめることによりボールをクリアしようと焦らすこと。そしてそのクリアを拾い攻め立てる。焦りとスタミナの消耗、メンタルをやられているはず。
しかし、それに伴う唯一のリスクを目の前で犯してしまったことによる1軍からの圧力。
布石を打ったはずが、己のリスクを感じさせられてしまった…
あのピッチ上での駆け引きの応酬…
2軍は天堂の司令塔によるもの…
1軍は、三騎士のセンターFW赤石誠一郎が本当の司令。
前半終盤は1軍に軍配が上がった。
後半のカギは、天堂が赤石に打たれた布石をどう逆手に取るか…
カウンターによるリスクの布石を…。」
山下は川田の分析にニコニコとしていた。
「そぉですね。ははっあはははっ」
「なんかおかしいですか。」
「いやえおかしくは。ただなぜあなたの様な方が、中学の教師なのかと…
1つだけ訂正しておきますね。赤石誠一郎、彼に頭ではかないませんよ。特に彼は、人を騙し合う、人に恐怖とプレッシャーを与えることに長けている。
同じ天才である天堂君は天才であっても、違う天才なのです。」
川田は思っていた…
なんて高校生がいるのかと…
「ところで川田先生」
「あっはい、なんでしょうか…」
「突然ですが、我が東陸堂高校で教職をされませんか。もちろんサッカー部専属コーチとしてです。」
川田はまた何を言っているんだと思っていた…
俺が、東陸堂のサッカー部専属コーチ…?

一方、控え室では、1軍は後半から三騎士とGKの遠藤以外は交代してきた。

2軍控え室では…
誰一人として打開作が見つからなかった。それどころか、アリ地獄を破られ布石を打たれたことに攻めかたがわからなかった。
純達特待生は後半から7人全員がピッチに立つ。
まだ切り札となる攻めが1つある。
できたらそれはまだ切りたくないと思っていた。
どうやって攻めるか、勝つためには…


赤石はトイレにいた。
男子トイレの個室で聴く音楽、アップテンポの激しいEDM。
普段はオーケストラを聴いてる赤石がEDMを耳にするときは本気の時だ。

「天堂 純…面白い。楽しいゲームをしようじゃないか。」
赤石は呟くとともに握っていた拳を壁に叩きつけた。
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