黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第008話 下準備は抜かりなく①

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 ディエヴスからの唐突過ぎる、キャンセル不可の理不尽な依頼に、ツグナは一時間余りの説教とメシ抜きを対価に引き受けることにした。
 もとより神同士で既にツグナを送ることで合意していたことから、辞退はできないのだが、彼としては勝手に手配したディエヴスに何かしらの罰を与えなけば腹の虫が収まらなかったということもある。

「さて、それじゃあ具体的に詰めるとするか」
 再びテーブルに着席したツグナは、アイテムボックスから前に作り置きしていた焼き菓子を取り出してキリアたちに配り(ディエヴスは当然ながら配布対象外)、自らもそれを口の中に放り込む。
 ディエヴスはそれを見ながら「うぅ……料理スキル、それもレベル10越えという一流料理人シェフに匹敵する人が作ったお菓子……っ! くうぅ~、た、食べたい……」などと漏らすものの、ツグナはその言葉を華麗にスルーして話を進める。

「行き先は日本、ということでいいんだよな?」
「そうだよ。日本を中心に失踪者が増えてるようだからね。地球の神も言ってたよ。『異世界転移/転生は、フィクションの中だからこそ面白い。現実でやられたら、興醒めどころか仕事が増えるから憎悪しかない』ってね」
「……地球の神様ってオタクなのか?」
 ディエヴスの言葉に、ツグナはやや呆れた調子で感想を呟く。

「ハハッ、まぁそうかもね。さて、行き先は認識の通りで問題ないんだケド、一つだけ条件がある」
「条件……?」
 ツグナはディエヴスの言葉に、眉根を寄せ、オウム返しに訊き返す。

「うん。それは、ズバリ年齢さ。キミはもう二十そこらの歳だろ? こっちで調べた限り、異世界転移や異世界転生の対象となってる人間ってのは、圧倒的に十代――ティーンエイジャーが多いんだ。キミをそのまま向こうに送ってもいいんだけど、どうせだったら調査対象の年齢層の中に身を置いた方が何かと都合がいいかも……ってね。ちなみに、これは地球の神も承諾済みだよ」
「へぇ……つまりは若返るってことか」
 ディエヴスはツグナの返しに首を縦に振り、話を続ける。
「また、必要な環境や手続きはこっちでやっておくよ。学校にも行ってもらう。『教室での授業中に召喚された』なんてケースもあるからね」
「学校ねぇ……ついていけるか不安だけど」
 ため息を混ぜながら呟くツグナに、ディエヴスは苦笑しながら「そこらへんは頑張ってとしか言えないよ」と告げる。

「基本的にはこんな感じなんだけど、何か質問は? こっちの都合で行かせるワケだし、要望があれば聞くけど」
 ディエヴスの説明に、ツグナは「待ってました」と心の中に呟きながらわずかに口の端を持ち上げる。

「そうか。なら――俺の家族も・・・一緒に行かせてくれ」

「「「「「「「えっ?」」」」」」」

 一瞬、「何言ってんだコイツは?」と言いたげな表情で声を漏らす一同に、ツグナは不敵な笑みを浮かべながらさらに言葉を続ける。

「どうせ俺一人行ったところで手が回らないのは確実だ。なら、人手を増やして対処しようと考えるのは道理だろ? それに、みんなにも見て欲しいな、とは思ってたんだ。俺が転生する前の――日本のことをさ」
 呟きながら、ツグナはくるりとその身体をリリアとシルヴィがいる方へと向ける。わずかに気恥ずかしさを滲ませたツグナの表情に、リリアは彼の思いを察してふっと頬を緩ませた。
「まったく、お前というヤツは……」
「クスッ……ホントに。素直じゃないですねぇ」
 リリアの横に立つシルヴィもまた、同じように微笑む。彼女たちは理解していた。

 これは彼なりのプレゼントなのだと。

 ツグナはこの世界に転生した後、しばらくは過酷な生活を強いられることになった。そんな彼を偶然とは言え、拾ったのは他ならぬリリアとシルヴィだ。彼女たちがいなければ、今のツグナはいなかったかもしれないのだから。

「兄さんの生まれた世界、ですか……」
「どんなトコなのかな? ツグ兄から話だけは聞いたけど、イマイチ想像出来なかったんだよねー」
「姉さんが乗り気なら……私も吝かではないわ」
「まったまたぁ~、キリアもツグナから話を聞いた後、『行ってみたいなぁ』って言ってたくせに」
「ちょ、ソアラっ!?」
 二人に続き、話を聞いていたリーナたちからも嬉しそうな声が漏れた。

 リーナやアリア、ソアラにキリアは同じレギオン「ヴァルハラ」のメンバーとして、共に戦場を駆けた大切な仲間だ。もちろん、ツグナも彼女たちを自分が生きていた世界に招きたいという彼の個人的な感情から切り出したという側面もある。だが、それを抜きにしても、信頼する仲間がいれば、この依頼ミッションを達成できそうな気がしたからだ。

「えええぇぇぇ……キミだけならともかく、彼女たちもぉ~?」
 ツグナの言葉に、ディエヴスは明らかに「面倒だ」と言わんばかりの態度を示す。

「ほほぅ……そんな態度を見せていいのか? 元はと言えば、お前の管理ミスが原因の案件だろ、コレは? それに、さっきも言ったぞ? 『俺一人じゃ手が回らない』ってな。失踪者は異常なペースで増加してる。加えて異世界から魔物までやってくる始末だ。到底俺一人で解決できる規模の案件とは思えないがいいのか? 時間だけが過ぎて地球の神から『成果が上がってない』だの『いつ終わるんだ?』なんてネチネチ言われるのは自分だぞ?」
「うっ……そ、それは……」
 ツグナの指摘に、ディエヴスは分かりやすいほどの動揺の色に帯びた表情で不安げな声を漏らす。

「まぁ無理ってんなら仕方がない。ただ、俺一人で行ってすぐに解決できるとは思わないでくれよ? こっちだってやれることには限界があるからな」
「うぅ~っ、そ、それなら……キミの仲間や家族を連れて行くとして、早期に解決できるとでも?」
「それは無理だな」
 期待を込めて訊き返したディエヴスに、ツグナは即答する。

「やっぱり無理じゃん!」
 うああ、と頭を抱えて呻くディエヴスに、ツグナは「落ち着け」と宥める。
「確かに早期に解決は無理だ。けど、手伝ってくれる仲間がいるなら――俺一人でやるよりもずっと早く終わるだろうよ」
 ツグナはその発言に続けて「それにな」と前置きし、今度は悪戯っぽい笑顔をディエヴスに向けて呟く。

「一人で自分のメシを作るより、食べてくれる人がいた方が作りがいがあるんだよ……神様も含めてな」

 暗に「地球でも変わらずな付き合いでいてくれよ」と告げるツグナに、ディエヴスは「ヅグナ゛ぐぅ~~ん、うわぁぁ……」と堰を切ったように泣き出す。

「ったく、そんなに泣かなくてもいいだろうに……」
 カリカリと頭を掻きながら「やれやれ……」と肩をわずかに上下させるツグナに、ディエヴスは「だってだってだってさぁ……」と鼻を真っ赤にさせながら流れる涙を拭う。
(こんなんじゃあ話を進めることはできない、か……)
 ため息を吐きたい思いをシルヴィの淹れた紅茶と一緒に飲み込んだツグナは、目の前のこの小さな神様が再び落ち着きを取り戻すまで、暫しの間焼き菓子を口の中に放り込みながら待つことにした。
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