黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第011話 下準備は抜かりなく④

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 そして夜も更け、ソアラたちやリリアが欠伸をしながらそれぞれの部屋に向かった後、残ったディエヴスは静かになったリビングで紅茶を飲みながらまったりするツグナに話しかける。
「さて、そろそろボクもお暇しようかな。地球むこうに渡った後で困らないよう、色々とセッティングしておかないといけないこともあるし」
「あぁ、とっとと帰って準備を進めておいてくれ」
 発言者の方をチラリとも見ずに呟くツグナに、ディエヴスは「まったく……」と思いつつ言葉を返す。
「そうするよ。あぁ、そうだ。最後に言っておくことがあるんだ」
 急に思い出したかのように呟くディエヴスに、傾けていたカップをソーサーに戻したツグナは彼の方を見やり「どうしたんだよ?」と訊ねる。

「うん。こう……何て言えばいいのか分からないんだけど……とにかく、気をつけて・・・・・ね」
「……どうした? やけに曖昧な忠告だな」
 難しい顔で発したディエヴスに、ツグナは反射的に眉根を寄せて言葉を返す。

「まぁ、ね。ただ、本当にそうとしか言えないんだよ。これは神様として長い時間世界を見続けてきたボクだから言えることだと思うけど……今回のことは、単に異世界召喚のタイミングが重なったとは思えないんだよ」
「それは神様としての予感……か?」
 ツグナの指摘に、ディエヴスは苦笑しながら「あまり当たって欲しくない類の予感だけどね」と答えて言葉を続ける。

「異世界からそこに存在する人間を召喚する――これは一件『フィクションとして』ならば大いに読み応えのある物語だろうけど、その範囲で収まるなら・・・・・何の問題もない話なんだ。けれど、今の地球で起きていることは明らかに『フィクションとして』の枠からはみ出ようとしている。さっきも言ったけど、異世界召喚の術式は大規模でリスクも大きい。そして、こうした大規模で膨大な魔力が必要な儀式的要素の強い術式は、どの世界でも『秘術』として長らく隠されていたものなんだ。それが、まるでこの時を狙ったかのように、しかも複数の世界が同時多発的にその術式を行使する……ボクは、なんだかこの事象の裏には思いもよらない真実が隠れているように思えてならないんだよ」
「……だから気をつけろ、ってか?」
 ツグナの確認するような問いに、ディエヴスはただ黙って頷く。
「分かったよ。俺も何となくだが、きな臭いものを感じてはいたからな。それに……他ならぬ、神様からの有り難いご忠告だ。ここは素直に受け取っておくよ」
「ハハッ、そうしてもらえると助かるよ。それじゃ、また後日」
 ディエヴスは微笑を浮かべ、名残惜しそうに室内から去っていく。

(増える失踪者に、増える異世界召喚……そして世界を渡る魔物の存在か……厄介なことにならなきゃいいが……)
 内から湧いた不安と懸念を、ツグナはカップに残ったわずかな紅茶と共に喉の奥へと流し込む。
 ディエヴスとの話し合いにより、日本へと渡るのは準備期間も含めて二週間後となった。

 ディエヴスによる界渡り―神の手で世界を渡ることをこう表現するらしい―までの間、ツグナは折角だからと各所に挨拶がてら顔を出すことにした。
 まずはリアベルのギルドマスターであるユティス及びサブギルドマスターであるクロウスだ。彼女らに「これからしばらく不在にする」と告げ、ギルドには寄れない旨も併せて伝えたのだが……

「そう。まぁ冒険者なんてもともと自由気ままな職業だし、こっちを気にする必要はないわ。ただ――」
「た、ただ……?」
「最近、ギルドでちょっと癖のある・・・・・・・・依頼が溜まり気味なの。あぁ~、誰か片付けてくれないかしら~」
 取り繕った乙女の声音でチラチラとツグナの方を何度も見やりながら仰々しく今のギルドの惨状を話すユティスに、ツグナは「自分たちで何とかしろよ」と目で訴える。
「あぁっ! それもこれも、どこかの誰かがギルドの依頼をいつも根こそぎ掻っ攫うようにして大量の依頼をこなしてたからだわ。あぁっ……どうしましょう。市民から頼られるのはギルドとしても歓迎すべきことなのに……これでは頼ってくれた人たちを裏切ってしまうことになるわ……!」
 ユティスは、「よよよ……」と泣き崩れるような仕草を見せつつ、目でしっかりと「ここで断ったらタダじゃおかねぇぞ……」と半ば脅すような強い意志を覗かせる。
「分かった分かった、分かりましたよ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」
 結局「ドS女王」の称号を持つユティスの勢いに押され、ツグナはギルドで「塩漬け依頼」と呼ばれる長期間手付かずの依頼を消化する羽目になった。
 レギオンメンバーの手を借りながらも、数日のうちに全ての依頼を片付けたツグナの力量は、さすがSランク冒険者と呼ぶべきものだろう。

 その後、ユスティリア王国の国王であるガレイドル、メフィストバル帝国の女帝たるリシュル、王立高等学院の理事長であるセフィールといった要人たちへの挨拶に移る。
 さらに、要人たちへの挨拶を終えたツグナは、大戦時に世話になった、アルガストをはじめとする竜たちのもとにも顔を見せた。中でも「始祖竜」と呼ばれる黒き竜であるアイオゲートは、

「なぁに、竜たる我にとってはわずかな時間よ。いつでも顔を見せに来ればよい」

 と豪快に笑いながらも「餞別だ」と自ら生えたばかりの小さな鱗をツグナに渡した。
 アイオゲートの鱗は、今のツグナの相棒たる「爛顎樟刀らんがくしょうとう」にも使われており、その刀としての完成度はかつての相棒である瞬華終刀しゅんかしゅうとうをも凌ぐ。
「いつもそれを胸に入れておけ。御守り代わりと言っては何だが、我の鱗は非常に高い硬度を持つ上に、軽くて丈夫だ。お主を守ってくれる時もあるだろう」
「あぁ、ありがとう。大切にするよ」

 そうして各所に挨拶を無事に終えたツグナは、いよいよ「界渡り」当日を迎える。

「準備はいいかい?」
 東の空から昇った太陽が中天に差し掛かろうとした頃。ツグナたちのもとへとやって来たディエヴスは、いつものチャラけた調子とは異なり、やや緊張した面持ちで訊ねる。
「あぁ……始めてくれ」
 その表情に釣られるように、ツグナも緊張した態度で答える。

 答えたツグナの顔を見たディエヴスは、こくりと軽く頷き口を開く。
「なら――始めようか。ツグナ=サエキ、そして彼の者に連なる仲間たちの『界渡り』を」
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