黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第024話 ゴミはゴミ箱へ、クズはくずカゴへ⑤

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(さて……借りたかった本も借りたし、そろそろ帰るとするか)
 ツグナは鞄に荷物を詰め終え、忘れ物が無いかチェックし終えると、ゆっくりと席を立った。
 この日は近くにリーナやアリア、キリアもいない。彼女たちはそれぞれ部活の見学や図書室で勉強などをしているため、珍しく一人で帰ることになったのだ。
 ツグナは図書室で宿題をやっていたのだが、丁度前々から読みたかった本が返却されていたため、宿題を切り上げ、家でゆっくりと読もうと教室に戻っていたのだ。
(う~む。一気読みもいいが、それだと明日は確実に寝不足になるかななぁ……)
 贅沢な悩みを抱えながら、上機嫌で教室を出ようと出入り口に足を向けたツグナに、肩を激しく上下させて荒い息を吐く颯太が声をかけた。

「佐伯……継那、さん、ですね……」

 名前を呼ばれたツグナは、初対面である颯太に若干訝しむ表情を見せつつも、「あぁ……そうだけど」と短く返事をする。そして返事を耳にしたその生徒は、力なくその場にへたり込んで焦燥感を露わにして呟く。

「は、早く……時間が無いんです。でないと、ソアラさん、が……」

 ぐったりとその場に倒れる颯太に、ツグナは無意識のうちに鞄を放り出し、彼の下に駆け寄る。
「――っ!? お、おい! 大丈夫か!」
 気を失い、言葉が返ってこない颯太に、ツグナは舌打ちしたい思いを呑み込み、急いで彼を抱えて保健室へと急行した。


「――っ!?」
「起きたか……」

 ハッと目が覚めた颯太は、同時に聞こえてきたツグナの声にそちらへ顔を向ける。

「……あれから、どれくらい経ちました?」
「ざっと30分ぐらいだな」
 颯太の質問に、ツグナが読んでいた本を閉じながら端的に答える。その落ち着いた様子に、颯太も抱いていた焦燥感が若干薄らぎ、「そう、ですか……」と未だ身体に残る疲労を滲ませた声音で言葉を返した。

「それで? 一体何なんだ? 俺の姿を見た途端、『時間が無い』と切羽詰まった口調で言うわ、言って満足したのかそれ以上何も告げずに気を失うわ……」
 やや呆れ口調で呟くツグナに、颯太はポリポリと頬を掻きながら「すみません……」とか細い声で謝罪する。

「まぁそれは置いておくとして、だ。マジで一体何が起きたんだ? ソアラに何かあったようだが――」
 ツグナがソアラの名前を出した途端、颯太の顔がサッと青褪めたものに変わる。
「そ、そうなんです! 実は――」
 そうして、颯太はツグナにこれまでの経緯を話し始めた。

◆◇◆

「なるほど、だから『時間がない』か……」
 ツグナが頷きながら呟いた言葉に、颯太も首を縦に振りながら返す。

「はい。ハッキリと言ってはいませんが……おそらく、九条武治はソアラさんを手に入れるつもりでしょう。もちろん、真っ当ではない手段によって、ですが」
 上半身を起こして話した颯太は、掛けられた毛布を握り締めながら呟く。
「でも、警察に駆け込むという手段もあっただろ? どうしてそれをしなかった?」
 ふと聞き返したツグナに、颯太は首を横に振りながら「確証はなかったですから」と切り返す。

「それに、九条がまとめるあの不良集団は、その摘発に警察自体が及び腰になってるのは公然の事実ですし。駆け込んだところで、なんのかんのと言い包められるのがオチなんです。なので、せめてもと手紙という形で警告だけはしたんですが……全く効果がないようなので」
「手紙……?」
 反射的に訊ねたツグナに、颯太がこくりと頷きながら答える。

「あっ、はい。これまでの経緯と九条の表情から読み取った本気度の高さから、近いうちにソアラさんの身に何かが起きるかもしれない……という趣旨の手紙です。ただ、やはり突拍子もないことですから、読んでも気に留めることはなかったですよね、ハハッ……」
 懺悔のつもりなのか、つらつらと語りながら力なく笑う颯太に、ツグナは内心「まじかあああぁぁぁ……」と盛大に後悔の言葉を吐き出した。
 同時に、脳裏に「それみたことか」と意地悪く笑う彰彦と瑞基の顔が思い浮かぶ。

 しかし、それもわずかな間だけだ。
「まぁ、手紙のことはこっちも真面目に捉えなかった俺の落ち度でもあるから気にするな。問題は、ソアラの方だ。ただ……」
「ただ?」
 眉根を寄せて呟くツグナに、颯太は首を傾げながら反射的に訊き返す。

「あぁ、いや。八津塚――颯太でいいか?」
「えぇ、問題ないです」
「颯太は知らないだろうが、ソアラはバスケットとか水泳とか……そういった純粋なスポーツよりも空手とかボクシングとか、いわゆる格闘技っぽい系統の運動に適性がある。そんな彼女が男たちに囲まれて、大人しく従うってのが想像つかないんだよ」
 難しい顔でカリカリと頭を掻きながら呟くツグナに、颯太は「そういえば……」と当時の状況を思い返しながら言葉を紡ぐ。

「確か……ソアラさんの横に、もう一人ウチの生徒がいた気がします。親し気に話していたようなので、たぶん同じクラスの子だと思いますけど」

 その言葉に、ツグナは「なるほど……」とその表情が納得したものに変化する。
(おそらく、ソアラは一緒にいた子に危害が加わらないように配慮したんだろう……でなきゃ「大人しく」ついていくなんてことは有り得ないからなぁ。絶対一人で周りの男たちを容赦なくブチのめすだろうし……)
 ツグナは颯太が聞けばドン引き間違いなしと思える感想を心の中に呟きつつ、仮にソアラが一人で同じ状況に陥ったケースを脳内にイメージする。
 ソアラは良くも悪くも「直情径行」で、自分の思いを真っ直ぐに貫く。そして、そうした彼女の性格をよく知っているツグナだからこそ、

(絶対に隙あらば暴れてやる、自分で落とし前つけさせてやる……って思ってるだろうなぁ)

 ため息交じりにそんな言葉が心中に吐露される。

「それで……一体どうしましょう?」
 だが、ツグナやソアラの背景バックグラウンドを知らない颯太は、湧き上がる焦燥を拭い切れないでいる。
「そうだな。(相手が)心配だし、俺もちょっと現場に行くとするか」
 颯太とは対照的に、間延びした態度で「ちょっとそこまで買い物に」という体で返されたツグナの言葉に、それを受けた発言主はギョッと目を剥いて訊ねる。
「ほ、本気ですか? 相手はここらでも有名な不良集団ですよ? そこのヘッドは元・世界チャンピオンとも言われてますよ!?」
 半ばヒステリック気味に放たれた言葉に、ツグナは怖気づくことなく、むしろケロリとした表情で言い放つ。

「うん? たかがルールありきの格闘技の世界でトップになったヤツなんだろ? しかも昔に。なら――”ルール無用”の”生死を賭けた”日常に長らく身を置いていた俺からすれば……特に怖いと感じる相手じゃないな」

 ポツリと呟かれたツグナの言葉に、颯太は「へっ……?」と呆けた顔をただ浮かべるほかない。

(さぁて、と。学院のヤツらから届くウザイ手紙ゴミはゴミ箱に捨てた。今度はウチの家族に手ぇ出そうとするクズ共を――まとめてくずカゴに入れるとするかね)

 颯太から事の概要を把握したツグナは、一度ぐっと背を伸ばし、首を左右に傾けながらコキコキと鳴らす。
 既に西の空に浮かんでいた夕陽は沈み、辺りは夜の闇が時を経るごとに濃くなっている時間である。

「それじゃあ俺は行くから。一応怪我とかは無いようだけど……もしまだ回復しきれてないようなら、しばらく休んでいるといい。先生には伝えてあるから」
「えっ? あ、はい……」

(な、なんだ、この人……)

 ――笑って、る?

 去り際の一瞬、ベッドにいた颯太はツグナがどこか笑っているようにも思え、彼の言葉に対して詰まらせながらも頷ことしかできなかった。
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