黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

文字の大きさ
34 / 129
本編

第033話 妄執と悪意③

しおりを挟む
 一方、ゼクスと別れたアザエルは、自室に戻ると奥に置かれた長机の上に置かれた書類に目を落としながら漆黒の皮張りの肘掛け椅子に腰を下ろす。

「……失礼ですがアザエル様、あのような者で本当によろしいのですか?」

 椅子に腰を下ろしたアザエルに、続いて部屋の中に入ってきたズィーベンが訊ねる。
「あのような者とは……九条クンのことかい?」
 問いかけられたアザエルは、あくまでも穏やかな口調で確認する。

「はい。確かに過去の経歴から見れば、戦力としては申し分の無いように思われますが……いささか自らの欲望に執着し過ぎかと思います」
「ふむ……キミらしい、実に冷静な意見だ。それで?」
 アザエルは笑みを浮かべつつ、話を促す。

「戦力として迎え入れるということは、同時に私たちの『心臓』たる実験室ラボを見せるということです。いくら戦力として加えるに相応しい力があろうとも、自身の妄執に取り憑かれていては、我々の一員となった後も合理的な判断が下せず、最悪の場合アザエル様を裏切ることになりかねません。私には、あの男にそこまでする価値が――ッ!?」

 しかしながら、彼女の言葉は、突如として訪れた息苦しさに最後まで紡がれることなく終わる。

「ねぇ……誰が余計なことまで喋っていいと命じた・・・?」
 ギリギリと目に見えない力で首が絞められ、息苦しさと霞む意識の中、ズィーベンがふと椅子に座るアザエルを見やる。すると、そこには不快感をそれと悟らせぬ・・・・笑みを貼り付けたまま、掲げた左手を握る主の姿が捉えられた。

「カハッ!? も、申し訳――」
 即座に謝罪の言葉を述べようとするズィーベンに被せるように、アザエルが呟く。

「価値があるか無いか、それは僕が決めることだ。キミの意見は思慮するに値するが、それまでだ」

「ガハッ! はぁはぁ……っはぁ、はぁ……」

 静かに紡がれた言葉とともに、アザエルが指を鳴らすと、ズィーベンの首を絞めていた力が消え去り、酸素を欲していた肺に新鮮な空気が取り込まれる。

「いやぁ~、しっかし……キミも大概だねぇ。まさか、僕に首を絞められるために、わざわざ地雷を踏み抜いたんだろ?」
「えっ!? あ、いえっ! 決してそのようなことは……っ!」
 アザエルの指摘に、ズィーベンはワタワタと慌てながら否定するものの、その仕草が却って図星であると告げてしまう。

「あははっ! まぁキミが根っからのドMなのは今に始まったことじゃないしね」
「あうあうあう……」
 大笑いしながら話すアザエルに対し、ズィーベンは耳を真っ赤に染めながら言葉を詰まらせた。

「……さて、と。そろそろイジワルするのはここぐらいにして、だ。そろそろ本題に入ろうか」
 アザエルは両肘を長机の上に乗せ、口元を手で隠すように両手を組みながら告げる。
「はい。現在、九条武治に降臨アドヴェントさせる魔物については、こちらの資料にある通りです」
 彼の言葉にスイッチが入ったかのように、ズィーベンはその表情を「仕事モード」へ切り替える。そして席に座るアザエルに歩み寄り、用意していた書類を手渡した。

 ――降臨アドヴェント。それは、人の身にアザエルたちのもつ魔物を「宿す」儀式及びその過程プロセスを指す。

 具体的には、まず対象者の身体を特殊な薬によって魔物を「受け入れる」肉体に作り変える。そして次に受け入れの体制が整ったその肉体に、直接宿す魔物の核を「埋め込む」のだ。

 ただし、この儀式には、相応のリスクも伴う。

「ふむ……『オーガロード』に『レッサードラゴン』、そして『ゴブリンジェネラル』か。まぁ無難な選択って感じだね」
 彼女から資料を受け取ったアザエルは、素早くそれに目を通して率直な印象を口にする。

「戦力として見るからには、アドヴェントさせる魔物にも、それなりの『格』が要求されます。これら三種の魔物ならば、彼の身体でも比較的リスクを抑えることができるかと」
「なるほどね。アドヴェントは失敗すると塵となって消えるしねぇ……」
 
 そう。アザエルの言葉の通り、この「降臨アドヴェント」の儀式は、失敗すると被験者の身体が塵となって消える。
 これは比喩的な意味ではなく、文字通り、被験者の身体――それを構成する組織がまるで自壊するように活動を停止し、崩れるのだ。残されるのは、塵となった被験者の成れの果てと埋め込まれた魔物の核のみとなる。
 また、辛くも失敗を回避できたとしても、その身に降ろした・・・・魔物が安定した状態で定着しないケースもあり得た。この場合、被験者は降ろした魔物にその精神を喰われてしまい、身体も降ろした魔物のそれに変質する。
 要するに、「としての」が終わることを意味するのだ。

 人智を超えた力を手にすることができるアドヴェント。しかしながら、その人の身に過ぎた力を求めた代償は、あまりにも苛烈なものであった。

「ただねぇ……」
 手にした書類をハラリと脇に滑らせたアザエルは、ため息混じりに呟く。

「それだと面白くない・・・・・

「……はっ?」
 キョトンとした顔で反射的に訊き返したズィーベンに、アザエルはニヤリと口の端を持ち上げながら続けた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...