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本編
第043話 魔物と少女⑤
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「ふぅ……こっちは無事に片付いたな。助かったよ、サクヅキ」
「へへっ、まぁこんなのは朝飯前さ。それより、もう一体の方はどうするんだ? 今から追いかけるか?」
ツグナの感謝の言葉に照れ臭そうに鼻を掻いたサクヅキは、すぐに神妙な面持ちに変えて問いかける。
「……いや、とりあえずはリルたちのもとに行こう。助けた子も気になるしな」
「りょーかい」
ツグナの言葉に頷いたサクヅキは、自らも剣を納めリルのもとへと向かった。
「あ、主だ……そっちは無事に終わった?」
無廟陣の結界を張り、防衛体制を築いていた比奈菊がツグナとサクヅキの姿を捉えると、首を傾げながら問いかける。傾げた際に濃紺の長い髪を金と銀の鈴が付いた髪留めが揺れ、軽やかな鈴の音がツグナの耳に届いた。
「あぁ、こっちは終わったよ。ただ、もう一体は残念ながら取り逃しちまったけどな」
「ふむ……まぁそれは仕方があるまい。こちらはこの子を守りながら戦わなければならなかったしな。ただ、我がいれば取り逃す事態にはならなかったと思うがな」
やや不機嫌な口調で突っかかりながら現れたリルに、その理由を察知したツグナがバツの悪い顔で謝りながら声をかける。
「悪かったって。あの状況だと素早く移動できるお前に付いてもらった方がよかったんだよ。頼むから機嫌直せって……今度はお前も一緒に戦ってもらうからさぁ~」
「ふむ……約束だぞ? それと、今日はあの新たな家で久しぶりに主の料理が食べたいものだな」
「あ、それは賛成ー! 俺も頼むよ~、頑張ったし、いいだろ?」
「……むぅ。それを言うなら私も。久しぶりに主の料理食べたい」
リルの言葉に乗り、サクヅキがニパッと豪快な笑みを見せながら賛成を示す。それに釣られるように、わずかに頬を膨らませた比奈菊が結界を解いてツグナに迫った。
「だぁ~もぅ、分かったよ! 後で呼んでやるから今は戻れよな」
「うむ、承知した。主よ、くれぐれも頼むぞ!」
「肉っ! 肉がいいな! ガッツリしたものを頼むぞ!」
「私は魚がいい。新鮮なものだとなおヨシ」
リル、サクヅキ、比奈菊の順にそう告げながら還っていく従者たち。その彼らを「まったく……」と少々呆れた顔で見送ったツグナは、残された千陽を抱えてその場から離脱するのだった。
◆◇◆
「回収に失敗したんだって? この前キミが施術した『実験体』君」
ツグナが千陽抱えて病院へ送り届けた頃。自室でゼクスより報告を受けたアザエルは、笑みを浮かべながら聞き返した。
「……はっ、残念ながら。捕獲にあたった部隊によりますと、今回回収できたのは、通常種のオーガのみとなりました。そもそも、今回の回収対象者は二名で、どちらも浸食率が一週間前に90%を超え、肉体の変遷が前々日に発生。変遷の結果、一体が上位個体の『ナイトオーガ』、もう一体が『オーガ』となりました」
「それで、回収に向かわせたはいいものの、できたのはオーガのみだった……と」
アザエルは頬杖をつきながら手元にある報告書に目を走らせ、ゼクスの言葉に続ける。
「申し訳ございません……」
「いや、別にゼクスが謝ることはないさ。上位個体であるナイトオーガが回収できなかったのは残念だけど、他は上手くいっているようだしね。それに、ナイトオーガは手駒にあるオーガロードよりも格下の個体だ。そんなに悲観することでもないさ」
腰を折って平謝りするゼクスに、アザエルはくすりと笑いながら答える。
「けれど……興味深いのは回収されたオーガにあったあの傷だ」
そこで初めてフッと笑みを消したアザエルは、報告書に記載された内容を基に自らの考えを述べていく。
「報告書にもあったけど、回収されたオーガが肩に負っていたあの抉られたような傷……あれは明らかに何者かとの戦闘によってできた傷だ」
「念のためお聞きいたしますが……事故、という可能性は?」
ゼクスの確認する言葉に、アザエルは報告書を机の脇に寄せ、その目を真っ直ぐ発言者の方に向けながら答える。
「それはあり得ないね。オーガ種はゴブリン種やオーク種に比べても戦闘に特化したステータス構成になる。筋力と耐久ではオーク種に、器用と敏捷はゴブリン種に少し劣るくらいで、オーガ種は基本的にバランスの取れたステータス構成なんだよ。まぁこの辺りはキミの方が詳しいだろうけどね」
「いえ、そんなことは……」
アザエルはゼクスの謙遜の言葉を耳にしながら、さらに言葉を続ける。
「それで、だ。キミは先ほど事故の可能性を指摘したけれど、いくらオーガ種が筋力と耐久でオーク種に一歩譲るとしても、彼らの持つステータスでは車に撥ねられても平然としてられるほどには頑丈なハズさ。トラックや電車に撥ねられてようやくグシャグシャになるくらいかな? なんてったって、人から恐れられる魔物なわけだしね。それに、負った傷跡を写真で見たけれど、場所がピンポイント過ぎるでしょ? 仮に事故であるなら、それこそもっと広範囲にダメージを負っていいはずだ」
「なるほど……ですから『戦闘によってできた傷』と断言できる、と。それはつまり――」
ゼクスの言葉に、アザエルは再び笑みを浮かべて答える。
「あぁ……それはつまり、僕たちの組織と敵対する何らかの勢力があるということだ。しかも、傷の具合から見てもそれなりに戦力がある勢力なんだろうね。何せナイトオーガを倒すことができるほどだから」
アザエルはそう結論付けて報告を行ったゼクスを帰した。だが、彼の唯一の誤算は、オーガに傷を負わせた者をナイトオーガを倒した者と結びつけた点だ。
その誤算によりツグナの存在が彼らに明るみになるのは避けられたこととなるのだが、それはまだ当人は知らない。
「へへっ、まぁこんなのは朝飯前さ。それより、もう一体の方はどうするんだ? 今から追いかけるか?」
ツグナの感謝の言葉に照れ臭そうに鼻を掻いたサクヅキは、すぐに神妙な面持ちに変えて問いかける。
「……いや、とりあえずはリルたちのもとに行こう。助けた子も気になるしな」
「りょーかい」
ツグナの言葉に頷いたサクヅキは、自らも剣を納めリルのもとへと向かった。
「あ、主だ……そっちは無事に終わった?」
無廟陣の結界を張り、防衛体制を築いていた比奈菊がツグナとサクヅキの姿を捉えると、首を傾げながら問いかける。傾げた際に濃紺の長い髪を金と銀の鈴が付いた髪留めが揺れ、軽やかな鈴の音がツグナの耳に届いた。
「あぁ、こっちは終わったよ。ただ、もう一体は残念ながら取り逃しちまったけどな」
「ふむ……まぁそれは仕方があるまい。こちらはこの子を守りながら戦わなければならなかったしな。ただ、我がいれば取り逃す事態にはならなかったと思うがな」
やや不機嫌な口調で突っかかりながら現れたリルに、その理由を察知したツグナがバツの悪い顔で謝りながら声をかける。
「悪かったって。あの状況だと素早く移動できるお前に付いてもらった方がよかったんだよ。頼むから機嫌直せって……今度はお前も一緒に戦ってもらうからさぁ~」
「ふむ……約束だぞ? それと、今日はあの新たな家で久しぶりに主の料理が食べたいものだな」
「あ、それは賛成ー! 俺も頼むよ~、頑張ったし、いいだろ?」
「……むぅ。それを言うなら私も。久しぶりに主の料理食べたい」
リルの言葉に乗り、サクヅキがニパッと豪快な笑みを見せながら賛成を示す。それに釣られるように、わずかに頬を膨らませた比奈菊が結界を解いてツグナに迫った。
「だぁ~もぅ、分かったよ! 後で呼んでやるから今は戻れよな」
「うむ、承知した。主よ、くれぐれも頼むぞ!」
「肉っ! 肉がいいな! ガッツリしたものを頼むぞ!」
「私は魚がいい。新鮮なものだとなおヨシ」
リル、サクヅキ、比奈菊の順にそう告げながら還っていく従者たち。その彼らを「まったく……」と少々呆れた顔で見送ったツグナは、残された千陽を抱えてその場から離脱するのだった。
◆◇◆
「回収に失敗したんだって? この前キミが施術した『実験体』君」
ツグナが千陽抱えて病院へ送り届けた頃。自室でゼクスより報告を受けたアザエルは、笑みを浮かべながら聞き返した。
「……はっ、残念ながら。捕獲にあたった部隊によりますと、今回回収できたのは、通常種のオーガのみとなりました。そもそも、今回の回収対象者は二名で、どちらも浸食率が一週間前に90%を超え、肉体の変遷が前々日に発生。変遷の結果、一体が上位個体の『ナイトオーガ』、もう一体が『オーガ』となりました」
「それで、回収に向かわせたはいいものの、できたのはオーガのみだった……と」
アザエルは頬杖をつきながら手元にある報告書に目を走らせ、ゼクスの言葉に続ける。
「申し訳ございません……」
「いや、別にゼクスが謝ることはないさ。上位個体であるナイトオーガが回収できなかったのは残念だけど、他は上手くいっているようだしね。それに、ナイトオーガは手駒にあるオーガロードよりも格下の個体だ。そんなに悲観することでもないさ」
腰を折って平謝りするゼクスに、アザエルはくすりと笑いながら答える。
「けれど……興味深いのは回収されたオーガにあったあの傷だ」
そこで初めてフッと笑みを消したアザエルは、報告書に記載された内容を基に自らの考えを述べていく。
「報告書にもあったけど、回収されたオーガが肩に負っていたあの抉られたような傷……あれは明らかに何者かとの戦闘によってできた傷だ」
「念のためお聞きいたしますが……事故、という可能性は?」
ゼクスの確認する言葉に、アザエルは報告書を机の脇に寄せ、その目を真っ直ぐ発言者の方に向けながら答える。
「それはあり得ないね。オーガ種はゴブリン種やオーク種に比べても戦闘に特化したステータス構成になる。筋力と耐久ではオーク種に、器用と敏捷はゴブリン種に少し劣るくらいで、オーガ種は基本的にバランスの取れたステータス構成なんだよ。まぁこの辺りはキミの方が詳しいだろうけどね」
「いえ、そんなことは……」
アザエルはゼクスの謙遜の言葉を耳にしながら、さらに言葉を続ける。
「それで、だ。キミは先ほど事故の可能性を指摘したけれど、いくらオーガ種が筋力と耐久でオーク種に一歩譲るとしても、彼らの持つステータスでは車に撥ねられても平然としてられるほどには頑丈なハズさ。トラックや電車に撥ねられてようやくグシャグシャになるくらいかな? なんてったって、人から恐れられる魔物なわけだしね。それに、負った傷跡を写真で見たけれど、場所がピンポイント過ぎるでしょ? 仮に事故であるなら、それこそもっと広範囲にダメージを負っていいはずだ」
「なるほど……ですから『戦闘によってできた傷』と断言できる、と。それはつまり――」
ゼクスの言葉に、アザエルは再び笑みを浮かべて答える。
「あぁ……それはつまり、僕たちの組織と敵対する何らかの勢力があるということだ。しかも、傷の具合から見てもそれなりに戦力がある勢力なんだろうね。何せナイトオーガを倒すことができるほどだから」
アザエルはそう結論付けて報告を行ったゼクスを帰した。だが、彼の唯一の誤算は、オーガに傷を負わせた者をナイトオーガを倒した者と結びつけた点だ。
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