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本編
第128話 激闘の余波④
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場所は変わり、英国・ロンドン。
欧州の政治的及び経済的中心地とも呼べるその地の一画にある近代的な高層ビル。
日本とはおよそ8時間の時差がある関係で、まだ空に月が浮かぶなか、そのビル内部に設けられた一室では、一人の少女が黙したままPCの液晶モニター上に流れる映像をじっと見つめていた。
「……その他大勢が見れば『良くできたCGだ』と思われるでしょうけど、何らかの術式が介在しているのは確かなようね」
モニターを見つめていた少女は、流れていた映像をとある場面で一時停止すると、それから自分なりに分析した結果を口にする。ただ、詳細なものまでは把握できなかったからか、口惜し気に親指の爪を噛みながら空いている手でガリガリと頭を掻いた。
「この映像の場所は?」
少女はモニターから目を離さずに訊ねると、同じ室内にいた青年が「日本です」と回答する。
「極東の国にいる魔術師? それも私が見たこともない術式……」
爪を噛んでいた手を放し、「フッ、フッ、フッ……」と小さな笑い声を漏らしながらゆらりと徐に席を立つ。
(……あっ、これマズいヤツだ)
先ほど少女からの問いに答えた青年は、嫌な予感を抱きながらも少女の口から紡がれる言葉に神経を尖らせる。そんなことはお構いなし、と席を立った少女は、突如カッとその両眼を見開いて宣言する。
「――決めたっ! ここで映像を分析しててもこれ以上は埒が明かないわ。これはもう現地に乗り込むほかないわね!」
室内にこだまする少女の宣言に、聞いていた青年は天を仰ぐように顔を上に向けてその閉じた瞼にそっと手を宛がう。
――青年は知っている。目の前にいる少女はもはや何を言っても聞かないと。
ただ、と一縷の望みに縋るように彼は確認の意味も込めて訊ねる。
「本気……いや、正気ですか? 確かに映像で見た魔術は我々が扱うものとは異なる術法のようですが……既にネットを介して世界中に同様の映像や画像は拡散されています! それはつまり、『奴ら』も動き始めているものと――」
「……でしょうね」
必死で説得を試みた青年が言い終える前に、少女が顎に手をあてがいながらポツリと呟く。
「ネットを通じて拡散された以上、『奴ら』はもうすでに動き始めていると想定してこちらも動いた方がいいでしょうね」
「なら、どうして我々が動く必要が? 奴ら――異端審問官にわざわざ楯突く必要はないと思いますが?」
ため息を交えながら指摘する青年に、少女は対峙する彼の顔をビシッと指差しながら告げる。
「甘い! 甘いわクロムウェル! それこそふわっふわのイチゴのショートケーキよりも甘いわ! 魔術師であること――ただそれだけで奴らはその息の根を止めようと動く。その前に救う必要があるのよ、同志として!」
少女は目の前で説得を試みた青年――クロムウェル=セールライトに声を張り上げて反論する。
彼女の意見に対し、クロムウェルは盛大なため息を吐き出した後、わずかな間を置いて観念したように口を開いた。
「分かりました、分かりましたよ。そこまで強く仰るなら、まずは然るべき手続きを進めるようにします。潜り込むような真似をすると、却って面倒なことになりかねませんから。現地に行くのはせめて手続きが完了してからにして下さいよ……」
クロムウェルの口から発せられた言葉に、少女はニンマリと笑みを浮かべながらさらに注文をつける。
「分かったわ。ただし、最優先事項として至急手続きを終えること。奴らの邪魔が入る前に彼女たちに接触する必要があるからね」
「わ、分かりました……」
追加された注文に、クロムウェルは弱った顔を見せながら返答する。
「さぁて、これで大まかな方針は決まったわね! まずは日本に行ってあの映像にあった彼女たちの所在を突き止める。そして奴らの邪魔が入らない隙に接触して、あわよくば私たちの『仲間』に引き入れる。ふふっ……これから忙しくなるわよ! クロムウェル、魔術結社『暁鐘の鳴る丘』のメンバーたちへの通達、よろしくね!」
グッとサムズアップして嬉しそうに宣言する少女とは対照的に、クロムウェルは小さなため息を漏らしながら呟く。
「はいはい、分かりました。まったく、ウチのマスターはどうしてこう『決めたら一直線』なんですかね。しかも興味のあることは自分でやりたがるし。付き添う方としては、もう少しトップとしての自覚というものを持って欲しいのですが、ねぇアリシア様?」
クロムウェルはカリカリと頭を掻きながら、目の前で高らかに宣言した少女――魔術結社「暁鐘の鳴る丘」のマスターであるアリシア=エーデルハイトに向けてせめてものお願いを呟く。
「あら、それは無理というものよ。魔術師は基本的に自分本位で動く生き物ですから。私は特に、ね。そんなこと、幼い時からしっているでしょう?」
ようやく再び席に座ったアリシアは、ニッと微笑みながらクロムウェルに問いかけて相手が見せる反応を待つ。
「……そうでしたね。確かに貴女様は今も昔もそうした性格のお人でした。ならば私はその願いを叶えられるよう……速やかに動くとします」
そう告げてペコリと頭をさたクロムウェルは、アリシアから出された注文に応えるために足早に部屋から去っていく。
「ふふっ……楽しみね。貴女たちに会うのが……そして、私もまだ知らない新たな魔術に出会えるのが」
一人きりとなったアリシアは、モニター上で静止した動画――そこに映る四人の少女たちの姿を眺めながら、嬉しそうに呟いた。
欧州の政治的及び経済的中心地とも呼べるその地の一画にある近代的な高層ビル。
日本とはおよそ8時間の時差がある関係で、まだ空に月が浮かぶなか、そのビル内部に設けられた一室では、一人の少女が黙したままPCの液晶モニター上に流れる映像をじっと見つめていた。
「……その他大勢が見れば『良くできたCGだ』と思われるでしょうけど、何らかの術式が介在しているのは確かなようね」
モニターを見つめていた少女は、流れていた映像をとある場面で一時停止すると、それから自分なりに分析した結果を口にする。ただ、詳細なものまでは把握できなかったからか、口惜し気に親指の爪を噛みながら空いている手でガリガリと頭を掻いた。
「この映像の場所は?」
少女はモニターから目を離さずに訊ねると、同じ室内にいた青年が「日本です」と回答する。
「極東の国にいる魔術師? それも私が見たこともない術式……」
爪を噛んでいた手を放し、「フッ、フッ、フッ……」と小さな笑い声を漏らしながらゆらりと徐に席を立つ。
(……あっ、これマズいヤツだ)
先ほど少女からの問いに答えた青年は、嫌な予感を抱きながらも少女の口から紡がれる言葉に神経を尖らせる。そんなことはお構いなし、と席を立った少女は、突如カッとその両眼を見開いて宣言する。
「――決めたっ! ここで映像を分析しててもこれ以上は埒が明かないわ。これはもう現地に乗り込むほかないわね!」
室内にこだまする少女の宣言に、聞いていた青年は天を仰ぐように顔を上に向けてその閉じた瞼にそっと手を宛がう。
――青年は知っている。目の前にいる少女はもはや何を言っても聞かないと。
ただ、と一縷の望みに縋るように彼は確認の意味も込めて訊ねる。
「本気……いや、正気ですか? 確かに映像で見た魔術は我々が扱うものとは異なる術法のようですが……既にネットを介して世界中に同様の映像や画像は拡散されています! それはつまり、『奴ら』も動き始めているものと――」
「……でしょうね」
必死で説得を試みた青年が言い終える前に、少女が顎に手をあてがいながらポツリと呟く。
「ネットを通じて拡散された以上、『奴ら』はもうすでに動き始めていると想定してこちらも動いた方がいいでしょうね」
「なら、どうして我々が動く必要が? 奴ら――異端審問官にわざわざ楯突く必要はないと思いますが?」
ため息を交えながら指摘する青年に、少女は対峙する彼の顔をビシッと指差しながら告げる。
「甘い! 甘いわクロムウェル! それこそふわっふわのイチゴのショートケーキよりも甘いわ! 魔術師であること――ただそれだけで奴らはその息の根を止めようと動く。その前に救う必要があるのよ、同志として!」
少女は目の前で説得を試みた青年――クロムウェル=セールライトに声を張り上げて反論する。
彼女の意見に対し、クロムウェルは盛大なため息を吐き出した後、わずかな間を置いて観念したように口を開いた。
「分かりました、分かりましたよ。そこまで強く仰るなら、まずは然るべき手続きを進めるようにします。潜り込むような真似をすると、却って面倒なことになりかねませんから。現地に行くのはせめて手続きが完了してからにして下さいよ……」
クロムウェルの口から発せられた言葉に、少女はニンマリと笑みを浮かべながらさらに注文をつける。
「分かったわ。ただし、最優先事項として至急手続きを終えること。奴らの邪魔が入る前に彼女たちに接触する必要があるからね」
「わ、分かりました……」
追加された注文に、クロムウェルは弱った顔を見せながら返答する。
「さぁて、これで大まかな方針は決まったわね! まずは日本に行ってあの映像にあった彼女たちの所在を突き止める。そして奴らの邪魔が入らない隙に接触して、あわよくば私たちの『仲間』に引き入れる。ふふっ……これから忙しくなるわよ! クロムウェル、魔術結社『暁鐘の鳴る丘』のメンバーたちへの通達、よろしくね!」
グッとサムズアップして嬉しそうに宣言する少女とは対照的に、クロムウェルは小さなため息を漏らしながら呟く。
「はいはい、分かりました。まったく、ウチのマスターはどうしてこう『決めたら一直線』なんですかね。しかも興味のあることは自分でやりたがるし。付き添う方としては、もう少しトップとしての自覚というものを持って欲しいのですが、ねぇアリシア様?」
クロムウェルはカリカリと頭を掻きながら、目の前で高らかに宣言した少女――魔術結社「暁鐘の鳴る丘」のマスターであるアリシア=エーデルハイトに向けてせめてものお願いを呟く。
「あら、それは無理というものよ。魔術師は基本的に自分本位で動く生き物ですから。私は特に、ね。そんなこと、幼い時からしっているでしょう?」
ようやく再び席に座ったアリシアは、ニッと微笑みながらクロムウェルに問いかけて相手が見せる反応を待つ。
「……そうでしたね。確かに貴女様は今も昔もそうした性格のお人でした。ならば私はその願いを叶えられるよう……速やかに動くとします」
そう告げてペコリと頭をさたクロムウェルは、アリシアから出された注文に応えるために足早に部屋から去っていく。
「ふふっ……楽しみね。貴女たちに会うのが……そして、私もまだ知らない新たな魔術に出会えるのが」
一人きりとなったアリシアは、モニター上で静止した動画――そこに映る四人の少女たちの姿を眺めながら、嬉しそうに呟いた。
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