68 / 129
本編
第067話 魔煌石を巡る攻防(西の陣)①
しおりを挟む
――時間は少し遡り、ツグナがジェスターの門を通じてソアラたちを呼び寄せた頃。御水瀬神社の西にある公園のグラウンドでは、ラウンドガードの一人であるイプシロンと御水瀬家の当主たる健介に仕える御庭番の一人、夏目家の長子である夏目椿が対峙していた。
「……ふむ。これは『クジ運がいい』というヤツかな? 私の相手がこのような子どもだなんて」
三つ編みに編んだ黒髪を左右から垂らし、丸い黒縁眼鏡を掛けたイプシロンがやや離れた場所に立つ椿を見てポツリと呟く。彼女の言う通り、正面に立つ椿はまだ小学校低学年くらいと目される少女だった。
黒く長い髪を腰まで伸ばし、やや切れ長の瞳が特徴の椿は、思わず「どこかの事務所に所属する子役かな?」とそんな考えが過ってしまうほどの大人びた印象を抱く少女であった。
そのため、ランドセルを背負って通学路を歩いていると、その見た目のギャップから驚かれることもしばしばだ。なお、道すがら芸能事務所にスカウトされたことも幾度となくあるが、御庭番としての務めを全うするためにそうした申し出は一切断っている。
「子ども、かぁ……確かに私はまだ子どもだけれど、見た目だけで判断するのはオススメしないよ?」
白いレースをあしらった漆黒の襟付きジャケットに同じく裾を白いレースで飾った黒いスカート姿の椿は、イプシロンの言葉に小首を傾げながら忠告めいた言葉を返す。
「ハッ、『オススメしない』だと? そんな言葉はな――お前が言えるもんじゃないんだよ、ガキ」
鋭い圧を放ちつつ、イプシロンは後ろの腰、その左右に吊った鞘からすらりと短剣を引き抜く。刃渡りおよそ70センチの双短剣は、彼女の相棒とも呼べる得物だ。
「へぇ、短剣使いか……それなら、ちょっとは楽しめるかな?」
「抜かせえっ!」
クスクスと笑いながら煽る椿に、双短剣を構えたイプシロンは弾かれるように駆け出す。迎える椿は微笑んだまま袖口から黒光りするクナイを抜き、まずは挨拶代わりと告げるかのように投げた。
流れるような所作で椿の手から投げられたクナイは、虚空に一本の直線を描くように真っ直ぐにイプシロンへと向かう。
「――シッ! もらっ――」
放たれたクナイを右手の短剣で弾いたイプシロンは、そのまま椿に肉薄して得物を突き立てる。
しかし、刃を突き立てられたその瞬間――椿の顔が不気味な笑みに染まる。
「ツ カ マ エ タ」
イプシロンの目に映るその笑みに、彼女の背筋がぞわりと総毛立つ。そして次いで襲ってきたのは、椿からの攻撃でも迸る鮮血でもない。
それは――突き立てたはずの短剣の刃が「ジュッ」とかすかな音を残して融解する光景であった。
「チイッ――!」
反射的に腕に急制動をかけて引っ込めるものの、わずかに椿の中に左手が沈み込んでしまう。
「うっ……ぐあああっ!?」
絞り出すように苦悶の声を上げながらも咄嗟の判断で椿から離れたイプシロンは、奥歯を噛んで痛みを捩じ伏せ、額に浮いた脂汗も拭わずチラリと被害を受けた手を見やる。すると、彼女の目に飛び込んできたのは、まるで焼け爛れたかのように皮が剥げ、肉が溶け落ち、うっすらと白い骨を隙間から覗かせる変わり果てた自分の左手であった。
(なっ!? これは一体――)
内心戸惑うイプシロンに、椿はクスクスと笑い声を漏らす。ハッとしてそちらに顔を向けると、不気味な笑みを貼り付けたままの椿が静かに口を開いた。
「……驚いた? これが私――夏目家の『水獄』の力だよ。自らを「エサ」として敵の眼前に差し出す代わりに、襲い来る敵を自らの中に閉じ込める狂気の術式。閉じ込められた敵は外界に出ることも許されず、ただ術者の中でぐちゃぐちゃに『溶かされる』。
四肢の感覚が無くなり、
五感も一つ二つと消え、
最後に頭が溶かされる。
そして、溶かされた相手は私の糧となって存在が消滅し、この身体が滅ぶまで囚われる……実にステキな術だと思わない?」
「んな――っ!?」
あまりにも悍ましい術式に、イプシロンは思わず驚愕の表情を露わにするのだった。
「……ふむ。これは『クジ運がいい』というヤツかな? 私の相手がこのような子どもだなんて」
三つ編みに編んだ黒髪を左右から垂らし、丸い黒縁眼鏡を掛けたイプシロンがやや離れた場所に立つ椿を見てポツリと呟く。彼女の言う通り、正面に立つ椿はまだ小学校低学年くらいと目される少女だった。
黒く長い髪を腰まで伸ばし、やや切れ長の瞳が特徴の椿は、思わず「どこかの事務所に所属する子役かな?」とそんな考えが過ってしまうほどの大人びた印象を抱く少女であった。
そのため、ランドセルを背負って通学路を歩いていると、その見た目のギャップから驚かれることもしばしばだ。なお、道すがら芸能事務所にスカウトされたことも幾度となくあるが、御庭番としての務めを全うするためにそうした申し出は一切断っている。
「子ども、かぁ……確かに私はまだ子どもだけれど、見た目だけで判断するのはオススメしないよ?」
白いレースをあしらった漆黒の襟付きジャケットに同じく裾を白いレースで飾った黒いスカート姿の椿は、イプシロンの言葉に小首を傾げながら忠告めいた言葉を返す。
「ハッ、『オススメしない』だと? そんな言葉はな――お前が言えるもんじゃないんだよ、ガキ」
鋭い圧を放ちつつ、イプシロンは後ろの腰、その左右に吊った鞘からすらりと短剣を引き抜く。刃渡りおよそ70センチの双短剣は、彼女の相棒とも呼べる得物だ。
「へぇ、短剣使いか……それなら、ちょっとは楽しめるかな?」
「抜かせえっ!」
クスクスと笑いながら煽る椿に、双短剣を構えたイプシロンは弾かれるように駆け出す。迎える椿は微笑んだまま袖口から黒光りするクナイを抜き、まずは挨拶代わりと告げるかのように投げた。
流れるような所作で椿の手から投げられたクナイは、虚空に一本の直線を描くように真っ直ぐにイプシロンへと向かう。
「――シッ! もらっ――」
放たれたクナイを右手の短剣で弾いたイプシロンは、そのまま椿に肉薄して得物を突き立てる。
しかし、刃を突き立てられたその瞬間――椿の顔が不気味な笑みに染まる。
「ツ カ マ エ タ」
イプシロンの目に映るその笑みに、彼女の背筋がぞわりと総毛立つ。そして次いで襲ってきたのは、椿からの攻撃でも迸る鮮血でもない。
それは――突き立てたはずの短剣の刃が「ジュッ」とかすかな音を残して融解する光景であった。
「チイッ――!」
反射的に腕に急制動をかけて引っ込めるものの、わずかに椿の中に左手が沈み込んでしまう。
「うっ……ぐあああっ!?」
絞り出すように苦悶の声を上げながらも咄嗟の判断で椿から離れたイプシロンは、奥歯を噛んで痛みを捩じ伏せ、額に浮いた脂汗も拭わずチラリと被害を受けた手を見やる。すると、彼女の目に飛び込んできたのは、まるで焼け爛れたかのように皮が剥げ、肉が溶け落ち、うっすらと白い骨を隙間から覗かせる変わり果てた自分の左手であった。
(なっ!? これは一体――)
内心戸惑うイプシロンに、椿はクスクスと笑い声を漏らす。ハッとしてそちらに顔を向けると、不気味な笑みを貼り付けたままの椿が静かに口を開いた。
「……驚いた? これが私――夏目家の『水獄』の力だよ。自らを「エサ」として敵の眼前に差し出す代わりに、襲い来る敵を自らの中に閉じ込める狂気の術式。閉じ込められた敵は外界に出ることも許されず、ただ術者の中でぐちゃぐちゃに『溶かされる』。
四肢の感覚が無くなり、
五感も一つ二つと消え、
最後に頭が溶かされる。
そして、溶かされた相手は私の糧となって存在が消滅し、この身体が滅ぶまで囚われる……実にステキな術だと思わない?」
「んな――っ!?」
あまりにも悍ましい術式に、イプシロンは思わず驚愕の表情を露わにするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
安全第一異世界生活
朋
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?
サクラ近衛将監
ファンタジー
会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。
睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?
そんな男の二重生活の冒険譚です。
毎週水曜日午後8時に投稿予定です。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる