黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第067話 魔煌石を巡る攻防(西の陣)①

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 ――時間は少し遡り、ツグナがジェスターのゲートを通じてソアラたちを呼び寄せた頃。御水瀬神社の西にある公園のグラウンドでは、ラウンドガードの一人であるイプシロンと御水瀬家の当主たる健介に仕える御庭番の一人、夏目家の長子である夏目椿が対峙していた。

「……ふむ。これは『クジ運がいい』というヤツかな? 私の相手がこのような子どもだなんて」

 三つ編みに編んだ黒髪を左右から垂らし、丸い黒縁眼鏡を掛けたイプシロンがやや離れた場所に立つ椿を見てポツリと呟く。彼女の言う通り、正面に立つ椿はまだ小学校低学年くらいと目される少女だった。

 黒く長い髪を腰まで伸ばし、やや切れ長の瞳が特徴の椿は、思わず「どこかの事務所に所属する子役かな?」とそんな考えが過ってしまうほどの大人びた印象を抱く少女であった。

 そのため、ランドセルを背負って通学路を歩いていると、その見た目のギャップから驚かれることもしばしばだ。なお、道すがら芸能事務所にスカウトされたことも幾度となくあるが、御庭番としての務めを全うするためにそうした申し出は一切断っている。

「子ども、かぁ……確かに私はまだ子どもだけれど、見た目だけで判断するのはオススメしないよ?」

 白いレースをあしらった漆黒の襟付きジャケットに同じく裾を白いレースで飾った黒いスカート姿の椿は、イプシロンの言葉に小首を傾げながら忠告めいた言葉を返す。

「ハッ、『オススメしない』だと? そんな言葉はな――お前が言えるもんじゃないんだよ、ガキ」
 鋭い圧を放ちつつ、イプシロンは後ろの腰、その左右に吊った鞘からすらりと短剣を引き抜く。刃渡りおよそ70センチの双短剣は、彼女の相棒とも呼べる得物だ。

「へぇ、短剣使いか……それなら、ちょっとは楽しめるかな?」
「抜かせえっ!」

 クスクスと笑いながら煽る椿に、双短剣を構えたイプシロンは弾かれるように駆け出す。迎える椿は微笑んだまま袖口から黒光りするクナイを抜き、まずは挨拶代わりと告げるかのように投げた。
 流れるような所作で椿の手から投げられたクナイは、虚空に一本の直線を描くように真っ直ぐにイプシロンへと向かう。

「――シッ! もらっ――」
 放たれたクナイを右手の短剣で弾いたイプシロンは、そのまま椿に肉薄して得物を突き立てる。
 しかし、刃を突き立てられたその瞬間――椿の顔が不気味な笑みに染まる。

「ツ カ マ エ タ」

 イプシロンの目に映るその笑みに、彼女の背筋がぞわりと総毛立つ。そして次いで襲ってきたのは、椿からの攻撃でも迸る鮮血でもない。

 それは――突き立てたはずの短剣の刃が「ジュッ」とかすかな音を残して融解する・・・・光景であった。

「チイッ――!」

 反射的に腕に急制動をかけて引っ込めるものの、わずかに椿の中に左手が沈み込んでしまう。

「うっ……ぐあああっ!?」

 絞り出すように苦悶の声を上げながらも咄嗟の判断で椿から離れたイプシロンは、奥歯を噛んで痛みを捩じ伏せ、額に浮いた脂汗も拭わずチラリと被害を受けた手を見やる。すると、彼女の目に飛び込んできたのは、まるで焼け爛れたかのように皮が剥げ、肉が溶け落ち、うっすらと白い骨を隙間から覗かせる変わり果てた自分の左手であった。

(なっ!? これは一体――)

 内心戸惑うイプシロンに、椿はクスクスと笑い声を漏らす。ハッとしてそちらに顔を向けると、不気味な笑みを貼り付けたままの椿が静かに口を開いた。

「……驚いた? これが私――夏目家の『水獄すいごく』の力だよ。自らを「エサ」として敵の眼前に差し出す代わりに、襲い来る敵を自らの中に閉じ込める・・・・・狂気の術式。閉じ込められた敵は外界に出ることも許されず、ただ術者の中でぐちゃぐちゃに『溶かされる』。

 四肢の感覚が無くなり、

   五感も一つ二つと消え、

     最後に頭が溶かされる。

 そして、溶かされた相手は私の糧となって存在が消滅し、この身体が滅ぶまで囚われる……実にステキな術だと思わない?」
「んな――っ!?」
 あまりにも悍ましい術式に、イプシロンは思わず驚愕の表情を露わにするのだった。
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