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本編
第071話 魔煌石を巡る攻防(西の陣)⑤
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もし仮にこの魔法を受ける相手が度し難い程に愚かな者であれば、「100の状態異常? 種類は多そうだけど、いつかは効果が切れるよね」などと口走るかもしれない。
確かにキリアの持つ補助系統魔法「ギルティダイス」は、そのダイス一つ一つに、各種の状態異常が刻まれ、目が出るに合わせて相手に効果を及ぼす。
しかし、それはあくまでも単一の魔法として発動させた場合だ。今のように、同じ魔法を同一のタイミングで、かつ多量に発動させた場合は、当然ながら効果も異なってくる。
ギルティダイスの多重詠唱――その発動効果は、同じ「目」が出た場合は、相手に対して該当の状態異常が掛かりやすくなると同時に、その効果時間も延長される凶悪仕様と様変わりする。
そして現れたダイスを横に、キリアは相手を奈落へと突き落とす言葉を紡いだ。
「私が出せるダイスは、一度に一つだけ……とは言ってないわよね?」
笑みを湛えたまま、キリアの指が再び鳴らされる。その合図に従い、現れたダイスが地を転がった。
カツン、コロン、カラカラッ……
転がったダイスが一つまた一つと「目」を出す度、その出た目に刻まれた状態異常が押し寄せる波のようにイプシロンを襲う。
「が、ひゅっ――」
キリアと対峙する彼女は、身体に埋め込まれた魔煌石――より厳密にはその魔煌石の持ち主となっていた魔物――の力を引き出し、状態異常の付与を得意とするバンシーに覚醒した。
仮にこの覚醒の時点で各種の状態異常に対するある程度の耐性を持っていたとしよう。覚醒を果たし、耐性を獲得したイプシロンは、確かに通常の毒や麻痺といった状態異常は掛かりづらいのかもしれない。
しかしながら、いくら耐性があろうとも、その圧倒的な物量のダイスを前にしては、状態異常に対する耐性があろうが無かろうがもはや関係はない。
「あぁ、そうそう。私、こういう運任せのものって、結構いい目が出ることが多いの。だから、おそらくは相当長い時間苦しむかと思うけど……まぁ頑張ってね」
意識を失い、倒れるイプシロンに、キリアはそっと囁くように声をかけた。
――称号:「確率の申し子」。これは確率変動により発動効果が異なる術式や行動に対し、補整する力を持つ称号である。
多重詠唱・同時発動という魔法の運用技法と称号効果のコンボは、レギオン「ヴァルハラ」における彼女の『支援魔法術師』としての地位を不動のものとしている。
他方、そんなキリアの背景など知る由もないイプシロンは、ギルティダイスの多重詠唱・同時発動の効果により、あらゆる状態異常が掛けられた挙句、か細い声を響かせて沈んだ。
「ふむ……発動待機を利用した多重詠唱による同時発動は何かと応用が効きそうな感じね。ふむ……さすが私のバイブル。『たかがファンタジー』なんて笑い飛ばすことはできないわね」
複数の状態異常を一気に掛けられ、白目を剥いて痙攣するイプシロンの姿に、キリアは顎に手を当てながらここ最近の「特訓」の成果に手応えを感じていた。
彼女がこの技法に目覚めたきっかけは、たまたま入った本屋にあったライトノベルだ。何となく立ち読みでパラパラと目を通した彼女は、そこに書かれていた魔法の「運用技法」に目が釘付けとなった。
目に留まったのは、主人公が複数の魔法を同時に発動させられるよう、森の中で練習に明け暮れるシーンだった。
その練習過程に、「魔法を発動する一歩手前で待機させる」とあり、その一文にキリアは「これだ!」と確信する。
(戦闘中では毒や麻痺といった複数の状態異常を同時に仕掛けてくる敵もいる。そうした敵は自分が得意とする状態異常に対する耐性を持つ傾向が強い。そんな時、支援する対象者に一つ一つ順番に耐性付与の魔法を掛ける時間は無い。なら、並列して魔法を掛けられる運用が必要なんだけど……並列起動は相当熟練した魔術師でも難度の高い技。私にはできないと思ってたけど――)
この方法なら、とキリアは直後にシリーズのライトノベルを全巻大人買いして魔法の運用技法の向上につながるヒントを片っ端から検証し始めた。
お陰で睡眠不足の日々が続いたものの、検証と特訓の甲斐もあり、なんとか「発動待機」による多重詠唱・同時発動という驚異的な魔法の運用が形となった。
これにはリリアやシルヴィも手放しで賞賛の言葉を送っただけではなく、せっつくようにキリアに教えを乞うほどだった。
そうした経験もあってか、キリアは書店に並ぶライトノベルを敬意を込めて「バイブル」と呼んでいる。ただ、その呼び方に、ツグナは「本職の魔術師がラノベを『聖典』ってどうなんだろう……」とやや引きつった笑みを見せながら聞いていたのだが。
確かにキリアの持つ補助系統魔法「ギルティダイス」は、そのダイス一つ一つに、各種の状態異常が刻まれ、目が出るに合わせて相手に効果を及ぼす。
しかし、それはあくまでも単一の魔法として発動させた場合だ。今のように、同じ魔法を同一のタイミングで、かつ多量に発動させた場合は、当然ながら効果も異なってくる。
ギルティダイスの多重詠唱――その発動効果は、同じ「目」が出た場合は、相手に対して該当の状態異常が掛かりやすくなると同時に、その効果時間も延長される凶悪仕様と様変わりする。
そして現れたダイスを横に、キリアは相手を奈落へと突き落とす言葉を紡いだ。
「私が出せるダイスは、一度に一つだけ……とは言ってないわよね?」
笑みを湛えたまま、キリアの指が再び鳴らされる。その合図に従い、現れたダイスが地を転がった。
カツン、コロン、カラカラッ……
転がったダイスが一つまた一つと「目」を出す度、その出た目に刻まれた状態異常が押し寄せる波のようにイプシロンを襲う。
「が、ひゅっ――」
キリアと対峙する彼女は、身体に埋め込まれた魔煌石――より厳密にはその魔煌石の持ち主となっていた魔物――の力を引き出し、状態異常の付与を得意とするバンシーに覚醒した。
仮にこの覚醒の時点で各種の状態異常に対するある程度の耐性を持っていたとしよう。覚醒を果たし、耐性を獲得したイプシロンは、確かに通常の毒や麻痺といった状態異常は掛かりづらいのかもしれない。
しかしながら、いくら耐性があろうとも、その圧倒的な物量のダイスを前にしては、状態異常に対する耐性があろうが無かろうがもはや関係はない。
「あぁ、そうそう。私、こういう運任せのものって、結構いい目が出ることが多いの。だから、おそらくは相当長い時間苦しむかと思うけど……まぁ頑張ってね」
意識を失い、倒れるイプシロンに、キリアはそっと囁くように声をかけた。
――称号:「確率の申し子」。これは確率変動により発動効果が異なる術式や行動に対し、補整する力を持つ称号である。
多重詠唱・同時発動という魔法の運用技法と称号効果のコンボは、レギオン「ヴァルハラ」における彼女の『支援魔法術師』としての地位を不動のものとしている。
他方、そんなキリアの背景など知る由もないイプシロンは、ギルティダイスの多重詠唱・同時発動の効果により、あらゆる状態異常が掛けられた挙句、か細い声を響かせて沈んだ。
「ふむ……発動待機を利用した多重詠唱による同時発動は何かと応用が効きそうな感じね。ふむ……さすが私のバイブル。『たかがファンタジー』なんて笑い飛ばすことはできないわね」
複数の状態異常を一気に掛けられ、白目を剥いて痙攣するイプシロンの姿に、キリアは顎に手を当てながらここ最近の「特訓」の成果に手応えを感じていた。
彼女がこの技法に目覚めたきっかけは、たまたま入った本屋にあったライトノベルだ。何となく立ち読みでパラパラと目を通した彼女は、そこに書かれていた魔法の「運用技法」に目が釘付けとなった。
目に留まったのは、主人公が複数の魔法を同時に発動させられるよう、森の中で練習に明け暮れるシーンだった。
その練習過程に、「魔法を発動する一歩手前で待機させる」とあり、その一文にキリアは「これだ!」と確信する。
(戦闘中では毒や麻痺といった複数の状態異常を同時に仕掛けてくる敵もいる。そうした敵は自分が得意とする状態異常に対する耐性を持つ傾向が強い。そんな時、支援する対象者に一つ一つ順番に耐性付与の魔法を掛ける時間は無い。なら、並列して魔法を掛けられる運用が必要なんだけど……並列起動は相当熟練した魔術師でも難度の高い技。私にはできないと思ってたけど――)
この方法なら、とキリアは直後にシリーズのライトノベルを全巻大人買いして魔法の運用技法の向上につながるヒントを片っ端から検証し始めた。
お陰で睡眠不足の日々が続いたものの、検証と特訓の甲斐もあり、なんとか「発動待機」による多重詠唱・同時発動という驚異的な魔法の運用が形となった。
これにはリリアやシルヴィも手放しで賞賛の言葉を送っただけではなく、せっつくようにキリアに教えを乞うほどだった。
そうした経験もあってか、キリアは書店に並ぶライトノベルを敬意を込めて「バイブル」と呼んでいる。ただ、その呼び方に、ツグナは「本職の魔術師がラノベを『聖典』ってどうなんだろう……」とやや引きつった笑みを見せながら聞いていたのだが。
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