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本編
第070話 魔煌石を巡る攻防(西の陣)④
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「――完全快癒」
彼女の詠唱と同時、地に倒れていた椿を温かな光が包む。その突然の出来事に「えっ!?」と思わず声が漏れたのも束の間、あれほどまでに身体を苦しめていた毒と痺れが嘘のように引いていった。
補助系統魔法・「完全快癒」。これは自身の魔法適性を極めたキリアの持つ魔法の一つである。この術式は、毒や麻痺、石化などの状態異常はもとより、「癒し」との名前の通り失った体力及び魔力すら一度でフル回復できる廃仕様の優れものだ。
一度の発動で回復(一般的に1回の発動でおよそ10の魔力を消費)およそ「50回分」に相当する魔力を消費してしまう欠点はあるものの、レベルが100を超えるまでに成長しているキリアであれば、10回連続発動してもまだ耐え得る魔力量を保有している。
なお、余談ではあるが、熟練とされる魔術師であっても、5~6回発動すれば魔力が底をついてしまうレベルであり、これだけを見ても如何に彼女が規格外であるかを端的に示しているといえよう。
「チィッ! 余計な真似を……ならばもう一度――」
状態異常から復帰し、スッと立ち上がった椿から距離を取ったイプシロンがわずかに表情を歪めながら呟く。
だが、キリアはそれを許さない。
「あらっ? それは無理だと思うわ……だって、貴女の術式――色々と隙があり過ぎるもの」
「っ――!?」
距離を取ったはずの彼女のすぐ背後から聞こえて来るキリアの声。咄嗟に怨恨縛呪を発動させようと肺に溜めた空気を吐き出そうとした――その時、
「がっ――!?」
まるで見計ったかのように、強烈な睡魔と身体を駆け巡る倦怠感がイプシロンを襲う。
「へぇ……案外しぶといわね。普通の人間なら一発でダウンしちゃうんだけど」
「ぐっ!? うぅ……お、お前――」
断続的に襲い掛かる睡魔に、思わずイプシロンの膝が地についた。
「ふむ……『睡眠』ね。う~ん……出た目としては悪くは無いけど、流石に搦め手を得意としているのか、貴女への効き目はさほど良くないみたいね。なら……もう一つ追加してみますか」
不敵に笑ったキリアが、カツンと杖の先を大地に突き立てるようにして鳴らし、そのわずかに吊り上げた口を開く。
「さて、もう一度――ギルティダイス」
言葉が虚空に放たれた瞬間、何処からともなくキリアの頭上から握り拳ほどの大きさにもなる正方形の箱が現れ、カツンと小さな音とともに地面を転がる。
そしてその箱の動きが止まった時、
「あ、ぐがっ――!?」
イプシロンの身体を電流が駆け巡る。
「これ、は……ま、さか――」
自身の身体に起きた変化に、思わず地に倒れたイプシロンが呟いた言葉を引き継いでキリアが口を開く。
「えぇ……ご想像の通り、今度は『麻痺』の状態異常を重ね掛けさせてもらったわ。どう? 図らずも先ほどとは立場が逆転してしまったようだけど……まだ続ける?」
首を傾げて訊ねるキリアに、イプシロンは痺れたままの身体で無理矢理に笑みを繕うと、辿々しい口調で言葉を発する。
「は、ははっ……そんな驕った態度ができるのも今のうちだ。こんなナリだからか、私は少しばかりこうした各種の状態異常から復帰するのが割と早いんだ。見たところ、お前の術でかけられる状態異常は一度につき一つのみ。しかも掛けられる効果はランダムとみた。なら、致命的な状態異常を引かなきゃいいだけだ。アタリを引く前にお前を仕留められればそれでいいさ」
まだ麻痺の効果が残る身体に鞭を打ちながらも、イプシロンは奥歯を噛んで耐え忍びながら立ち上がる。
「あら、睡魔に襲われながらもちゃんと分析できてるのね」
「はっ! ほざけ。じきにこの痺れも癒える。そうしたらお前の術は適度に発動を阻害すれば――」
そこまで口にしたイプシロンは、ふと対峙するキリアのスッと両端の口の端を吊り上げた笑顔を捉え、思わず口を噤んでしまう。
「でも残念ね。確かにこの術式は単一の状態異常をランダムに掛けるのだけれど……」
そこで一旦発言を切ったキリアは、顔に貼り付けた笑みを崩さず、静かに指を鳴らす。
「なっ――!?」
直後、キリアの目と同じ高さに握り拳ほどの大きさの白いダイスが現れ、等間隔に列を成して並ぶ。そのダイスの数は10,20に留まらない。
「あっ……あぁっ……」
その数、ザッと100を超えるにまで至る。
彼女の詠唱と同時、地に倒れていた椿を温かな光が包む。その突然の出来事に「えっ!?」と思わず声が漏れたのも束の間、あれほどまでに身体を苦しめていた毒と痺れが嘘のように引いていった。
補助系統魔法・「完全快癒」。これは自身の魔法適性を極めたキリアの持つ魔法の一つである。この術式は、毒や麻痺、石化などの状態異常はもとより、「癒し」との名前の通り失った体力及び魔力すら一度でフル回復できる廃仕様の優れものだ。
一度の発動で回復(一般的に1回の発動でおよそ10の魔力を消費)およそ「50回分」に相当する魔力を消費してしまう欠点はあるものの、レベルが100を超えるまでに成長しているキリアであれば、10回連続発動してもまだ耐え得る魔力量を保有している。
なお、余談ではあるが、熟練とされる魔術師であっても、5~6回発動すれば魔力が底をついてしまうレベルであり、これだけを見ても如何に彼女が規格外であるかを端的に示しているといえよう。
「チィッ! 余計な真似を……ならばもう一度――」
状態異常から復帰し、スッと立ち上がった椿から距離を取ったイプシロンがわずかに表情を歪めながら呟く。
だが、キリアはそれを許さない。
「あらっ? それは無理だと思うわ……だって、貴女の術式――色々と隙があり過ぎるもの」
「っ――!?」
距離を取ったはずの彼女のすぐ背後から聞こえて来るキリアの声。咄嗟に怨恨縛呪を発動させようと肺に溜めた空気を吐き出そうとした――その時、
「がっ――!?」
まるで見計ったかのように、強烈な睡魔と身体を駆け巡る倦怠感がイプシロンを襲う。
「へぇ……案外しぶといわね。普通の人間なら一発でダウンしちゃうんだけど」
「ぐっ!? うぅ……お、お前――」
断続的に襲い掛かる睡魔に、思わずイプシロンの膝が地についた。
「ふむ……『睡眠』ね。う~ん……出た目としては悪くは無いけど、流石に搦め手を得意としているのか、貴女への効き目はさほど良くないみたいね。なら……もう一つ追加してみますか」
不敵に笑ったキリアが、カツンと杖の先を大地に突き立てるようにして鳴らし、そのわずかに吊り上げた口を開く。
「さて、もう一度――ギルティダイス」
言葉が虚空に放たれた瞬間、何処からともなくキリアの頭上から握り拳ほどの大きさにもなる正方形の箱が現れ、カツンと小さな音とともに地面を転がる。
そしてその箱の動きが止まった時、
「あ、ぐがっ――!?」
イプシロンの身体を電流が駆け巡る。
「これ、は……ま、さか――」
自身の身体に起きた変化に、思わず地に倒れたイプシロンが呟いた言葉を引き継いでキリアが口を開く。
「えぇ……ご想像の通り、今度は『麻痺』の状態異常を重ね掛けさせてもらったわ。どう? 図らずも先ほどとは立場が逆転してしまったようだけど……まだ続ける?」
首を傾げて訊ねるキリアに、イプシロンは痺れたままの身体で無理矢理に笑みを繕うと、辿々しい口調で言葉を発する。
「は、ははっ……そんな驕った態度ができるのも今のうちだ。こんなナリだからか、私は少しばかりこうした各種の状態異常から復帰するのが割と早いんだ。見たところ、お前の術でかけられる状態異常は一度につき一つのみ。しかも掛けられる効果はランダムとみた。なら、致命的な状態異常を引かなきゃいいだけだ。アタリを引く前にお前を仕留められればそれでいいさ」
まだ麻痺の効果が残る身体に鞭を打ちながらも、イプシロンは奥歯を噛んで耐え忍びながら立ち上がる。
「あら、睡魔に襲われながらもちゃんと分析できてるのね」
「はっ! ほざけ。じきにこの痺れも癒える。そうしたらお前の術は適度に発動を阻害すれば――」
そこまで口にしたイプシロンは、ふと対峙するキリアのスッと両端の口の端を吊り上げた笑顔を捉え、思わず口を噤んでしまう。
「でも残念ね。確かにこの術式は単一の状態異常をランダムに掛けるのだけれど……」
そこで一旦発言を切ったキリアは、顔に貼り付けた笑みを崩さず、静かに指を鳴らす。
「なっ――!?」
直後、キリアの目と同じ高さに握り拳ほどの大きさの白いダイスが現れ、等間隔に列を成して並ぶ。そのダイスの数は10,20に留まらない。
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その数、ザッと100を超えるにまで至る。
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