黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第069話 魔煌石を巡る攻防(西の陣)③

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(クソッ、油断したわ。こんな絡め手主体の戦闘スタイルだなんて……)

 こんなことなら、覚醒前にさっさと仕留めておけばよかったと後悔するものの、今となっては後の祭りだ。
「いいねぇ……その苦痛に歪む表情。思わず写真に残して額縁に入れて飾りたいくらいだよ」
「ハッ、この変態め……」
「その変態に不様な格好をさらけ出しているのは、一体どこの誰かな? 大方、この戦闘スタイルを見極めきれずに油断したんだろ?」
 イプシロンはゆっくりと倒れる椿に歩み寄りながら言葉をかける。そのものズバリな指摘に、近づく相手の顔を見上げる椿は、悔しさから唇を噛む。

「ククッ……ハハッ……アハハハハッ! いいねぇ、その口惜しさと後悔に苛まれた表情ッ! 毒と麻痺の状態異常をくらって不様に倒れるその姿ッ! はぁ~、もぅたまんないね。生まれたての仔鹿ばりにプルプル震えちゃってさ。ただ、まだメインディッシュはこれからだぜ? ククッ……知ってるかい? 刃物で皮を剥ぐ時ってのはさ、『痛み』だけじゃなくて、同時に『熱い』って感覚にも襲われるんだ。痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い……っていう感じでさ。まぁ最終的にはそんな感覚も麻痺して白目向いて出血多量で死ぬんだけどな。さぁさぁさぁ、お前は一体いつまで鳴いてくれる・・・・・・?」

 椿の持つ水獄には、「様々なものを溶かす」性質を持つが故に、「様々なものに染まり易い・・・・・」というデメリットも存在する。

 この場合の「染まる」とは、毒や麻痺といった状態異常にかかりやすいという意味を指しており、こうした相手には他の御庭番や回復・状態異常への耐性に長けた鏑木家の者と一緒に行動するケースが多い。

 そのため、バンシーの「泣き声」は椿にとって相性は最悪。覚醒前の物理攻撃主体のイプシロンならばまだ勝機はあった。
 しかし、毒と麻痺の状態異常にかかった状況ではまともに身動きすらとれず、ジワジワとダメージだけが蓄積されていく。もちろん椿とてこの状況を改善する手段がないわけではない。彼女の腰に取り付けられた小さなポーチには、各種状態異常の症状を緩和することができる薬がある。

(薬を使えば今の症状は治まるかもしれない……けれど、薬には限りがあるし、服用するだけの時間をくれる――わけないわよね。それに、重ね掛け・・・・されると今以上に厄介なものが付いてしまう恐れもある……)

 椿は毒と麻痺で意識が朦朧とするなか、ポーチに伸ばした手を止め、ただ奥歯を噛んで耐え忍ぶ。
「ふむ……まだくたばらないか。なかなかにしぶといヤツだな。まぁいい……お前のその不様な姿を、死ぬ瞬間まで見届けてやろう。どのみち私から逃れることはできないのだからな……」
 イプシロンはニイッと口の両端を吊り上げながら、自信満々に呟く。

 だが――

「あらっ? そんなことを軽々しく口走っちゃって大丈夫なのかしら。そういうのって得てして『フラグ』って言うんじゃないの? 詳しくは分からないけれど」
「っ――!? 誰だ!」
 イプシロンの耳に届く第三者の声。不意に聞こえてきたその声の主を鋭く問う彼女に、それは静かに姿を現した。

「…………」
 その姿を見た瞬間、地に伏せていた椿は物陰から姿を見せた女性に言葉を失った。

 ――綺麗……

 ふと椿の頭に浮かぶその言葉が陳腐に思えるものの、それより適切な表現が見出せない。
 闇夜に映える金色の髪に翡翠色の瞳。やや切長の目は、その相貌もあって同性であるはずの椿でさえもドキリとするほどの美しさを見せている。

 イプシロンの発した声に姿を見せた女性――キリアは、フッと笑みを浮かべて携えていた杖を振るった。
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