黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第075話 魔煌石を巡る攻防(北の陣)③

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「な、何者だ!」
 場に乱入したリーナに、ゼータから誰何の声が上がるも、彼女は泰然とした態度で答える。
「うん? 何者だと言われても……貴女みたいな化け物・・・を倒す者ですよ。別に名乗るような者ではありません。だってそうでしょう? 私は貴女みたいな『魔に堕ちた』輩を狩る存在なのだから」
 瞬間、ゼータの背筋がぞわりと総毛立つ。空気がピンと張り詰め、まるで針に肌を刺されている感覚に襲われた。
「これはこれは……年端もない少女が、とんでもない殺気を放つものですね。『魔を狩る存在』と言いましたけど、貴女……人を殺したことがありますね? その殺気、そこらの同世代の女の子とは隔絶したものですよ?」
「……」
 ゼータの放った問いに、リーナは沈黙でもって答える。彼女の言うように、リーナは人殺しの経験を有している。
 それは冒険者として兄のツグナと共に戦うよりも前――教会の尖兵として適合した魔書を宿したすぐ後のことだ。
 あれはいつだったか、と思い出すのも時間がかかるほどに昔の話だ。
 初めて「魔書の力」を使って人を殺した際、湧き上がった感情は、

「……呆気ない」

 ただただその一言だった。
(その頃はひたすら「兄さんツグナをこの手で殺す」と息巻いていたんでしたっけ。我ながら無謀というか、愚かというか……)

 その後、色々あってツグナと行動を共にすることとなったリーナだったが、今では兄のそばで「妹として」振る舞えることに、素直に感謝している。
(あの時、宿した魔書に「喰われて」いたら……こうして「世界を渡る」などという貴重な経験も出来なかったでしょうね)
 ふふっ、と軽く思い出し笑いを見せたリーナは、訝しむ表情を浮かべるゼータに「失礼」と呟くと、今度はその顔を傍らで腰を地べたに下ろして見上げる萩に向ける。

「さて……貴方は今、『どうしようもなく愚かな』選択をするところだった。それを単なる『私のワガママ』で遮ってしまいました。そのことで結果的には・・・・・貴方の未来が変わってしまうでしょう。えぇ、そう。これは単に私の『気まぐれ』でしかありません。こうして介入したことで貴方の前に提示された愚かでバカげた選択肢を潰したのは、私のエゴでしかない。かといって貴方が選べる道を狭めてしまったことには砂粒程度の罪悪感しかありませんが。まぁでも今さらながらこの状況を顧みれば、幾許かの謝罪は必要なのでしょう。ならば、突然この杖で貴方をブン殴って遮ってしまったことについて『だけ』は謝罪するとしましょうか」
「えっ? あ、はぁ……」
 萩はまだ赤く腫れる頬に手を当てがいながら、ほぼ一息でマシンガンよろしく言葉を吹っ掛けて来たリーナを仰ぎ見る。
「さて、どうやらアレが(兄さんから話があった)魔物の力を取り込んだ人間、ということですね」
「ほう? 私のような存在を知っているとは……それに、この姿であっても臆することがないとは」
 現れたリーナに対し、ゼータは「意外と楽しめそうだ」と薄く笑いながら呟く。
 だが、その言葉を耳にしたリーナは、緊張よりもその眉を八の字に曲げ、口をギュッと閉じて不快感を露わにする。
「臆する? また何を的外れなことを言うのでしょうかね。どうして私が貴女のような『雑草』を前にして恐れ慄くと? その目、ちゃんと見えてますか? 視力が衰えているなら、いい回復薬ポーションありますよ? もちろんタダでくれてやるわけにはいかないですが」
 普段はやや暴走気味のアリアのストッパー役として必要以上に喋らないリーナであったが、この時は珍しく自分でも驚くほどに自然と言葉が出ていた。
(あぁ、そうか――)
 何故、と自問自答し、自分の心の奥底から湧き上がる感情に向き合った結果見えてきたモノ。
 それは――怒りだ。

 それは「かつて(一時とはいえども)道を踏み外した」私に掛けられた言葉と似ていたからだ。
 あの時は大人たちの甘い言葉に誘われ、魔書を得たリーナは、その日から妹と共にその手を血で染める日々を送ることとなった。当時はそれが正しいものと信じていた。いや、信じ込まされたと表現した方が適切だろう。
 もっとも、そうした背景があったからこそ、双子の姉妹リーナとアリアはツグナと再会を果たせたという側面も持っている。
 結果的に大人たちの口車に乗ってしまったのは自分たちの選択によるものだ。それを今さらどうこうすることはできない。
 しかし、あの時自分たちの逃げ道を巧妙に塞ぎ、物腰の低い態度と丁寧な言葉でもって自分たちを意図的に「操った」大人たちのことは、今でも思い出すたびに腹わたが煮え繰り返る思いを抱いてしまう。
 それは、丁度彼女がゼータに抱くそれと同じ思いであった。
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