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本編
第076話 魔煌石を巡る攻防(北の陣)④
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「世の中には『汚物は消毒』というなかなかに有名なセリフがあるようですが……」
リーナはその顔を再びゼータに向け、カツンと手にした長杖を鳴らす。
彼女の手に握られた漆黒の長杖は、世界大戦後に新調した代物だ。その銘は「黒杖・顎」。
魔力との親和性が高い「魔鋼」に、火系統魔法を得意とする古代竜――ルベライトリアの鱗を合わせた一級品だ。
この鱗を手に入れるため、リーナは単身でルベライトリアのいるヴォルカンスト山に赴き、一対一で戦い、認められた。
この場合の「認められた」とは、必ずしも相手を倒して戦闘に勝利したことを意味しない。ルベライトリアが「歯応えのある」戦いができたと判断した時、初めてその鱗が手に入る。
だが、その判断基準は酷く曖昧であるため、かの竜に認めてもらうためには相当な覚悟と忍耐が求められる。また、戦う場所もヴォルカンスト山の火口付近という過酷な環境下で相見えることになる。
ルベライトリアの課す試練は、神・オルクスとの死闘を繰り広げたツグナをもってしても「二度とやり合いたくない」と言わしめるほどの厳しさだ。
それほどまでの過酷な試練を、リーナは見事にやり遂げた。
何が彼女をそこまで駆り立てたのか。
それは――リーナ=ハイエルとして、自らの手で自分の未来を切り開くためだ。
かつて自分の生家である「ハイエル家」の滅亡の契機となった兄の存在を恨み、その果てに魔書の力を得た彼女は、その手を血で染めながらも再び憎き兄と出会った。
だが、魔書の力、その本当の意味での恐ろしさを知らなかった彼女は、その強大な力に呑み込まれかける事態に陥った。
その危機から救い出したのは、憎悪の対象であったツグナだった。その後、ツグナの半生を聞かされ、自らも彼と同じ迷宮踏破を(強制的に)経験することでそれまで抱えていた恨みは収まりを見せた。
だが、その恨みは焦げ跡のように長らく彼女の心の片隅にこびり付いていた。
リーナの心の奥底に刻まれた「怨恨」。それを少しずつ洗い落とすかのように、彼女はツグナのレギオンの一員として行動を共にするようになる。
もちろんその目的が全てではない。かつてツグナの持つ魔書が暴走した際、彼女はリリアたちと共に暴走を食い止め、そこで魔書の持つ力の恐ろしさを現実として体感するとともに、彼の持つ心の弱さを垣間見ることで真正面から「兄」として向き合えることができた。
そして、今度は「妹として」の自分から脱却し、刻まれた焦げ付きをほぼほぼ洗い落とすために、獄炎竜――ルベライトリアとの勝負に挑んだのだ。
こうしてルベライトリアとの一戦を経て戦闘面だけではなく、自身の精神面においても成長したリーナは、新たな相棒――黒杖・顎の先を地面に突いて鳴らすと、深く息を吸い込んで自らの内に宿る魔力を練る。
そして、練り上げた魔力を、その口から紡いだ詠唱を鍵として発動させる。
「――来なさい、業火の狩人」
彼女の紡いだ言葉が空へと放たれると同時、ゼータの行く手を遮るように大地から炎の柱が噴き上がる。
赤々と燃える炎の柱がその勢いを弱めていくに従い、円柱形からその形が徐々に人型へと様変わりしていく。
「これは……圧巻だね」
思わず賞賛の言葉を送ってしまったゼータであったが、そう零してしまうのも無理はないだろう。
何せ彼女の前には緑色の瞳でこちらを見つめる、威風堂々たる姿の炎の魔人が立ち塞がっているのだから。
「――行きなさい」
カツン、と杖を鳴らして告げるリーナに、顕現した人型の炎は行動でもって応える。
「ガアアアアァァァッッ!!」
「チィッ! 自律型の炎の化身ですか! 見るまでもなく相性は最悪ですねっ!」
突っ込んでくるイフリートに、ゼータは不愉快さを露わにしつつも、両手を掲げて周囲に這わせていた太い枝を絡ませる。隙間なく編み込められたその枝は、さながら巨大な盾の如く突き進むイフリートの行く手を阻む。
「――ッ! ガアアアアァァァッ!」
だが、イフリートは「全てを薙ぎ倒す」とばかりに、目の前に現れた頑強な樹木の盾へ真っ直ぐに手を伸ばす。彼の手と盾が触れた瞬間、イフリートの持つ高温の炎が盾を灰に変える。
必死に枝を再生させ、盾の修復を試みるゼータであったが、イフリートの燃焼スピードは彼女の想像以上に速く、修復が追い付かなくなっている。
「クッ……やはり相性の悪さは覆せないですか。ならっ!」
形勢が不利と判断したゼータは、盾で防ぐこのを早々に放棄し、方針を切り替える。
(盾で防げるこのわずかな時間が勝負!)
前に突き出していた右手をスッと脇にずらしたゼータは、残った左手の操作で盾の再生を担いつつ、ズラした右手でパチンと指を弾く。
「ガアアアアァァァ!」
ゼータが指を鳴らしたその数分後、とうとうイフリートの炎が盾の再生を上回り、炎の狩人が再び前進する。
しかし、盾を乗り越えた先に待っていたのは――
「「「「「さて、これならどうかな?」」」」」
全く同じ姿をしたゼータが5人、横並びでイフリートを見つめていた。
リーナはその顔を再びゼータに向け、カツンと手にした長杖を鳴らす。
彼女の手に握られた漆黒の長杖は、世界大戦後に新調した代物だ。その銘は「黒杖・顎」。
魔力との親和性が高い「魔鋼」に、火系統魔法を得意とする古代竜――ルベライトリアの鱗を合わせた一級品だ。
この鱗を手に入れるため、リーナは単身でルベライトリアのいるヴォルカンスト山に赴き、一対一で戦い、認められた。
この場合の「認められた」とは、必ずしも相手を倒して戦闘に勝利したことを意味しない。ルベライトリアが「歯応えのある」戦いができたと判断した時、初めてその鱗が手に入る。
だが、その判断基準は酷く曖昧であるため、かの竜に認めてもらうためには相当な覚悟と忍耐が求められる。また、戦う場所もヴォルカンスト山の火口付近という過酷な環境下で相見えることになる。
ルベライトリアの課す試練は、神・オルクスとの死闘を繰り広げたツグナをもってしても「二度とやり合いたくない」と言わしめるほどの厳しさだ。
それほどまでの過酷な試練を、リーナは見事にやり遂げた。
何が彼女をそこまで駆り立てたのか。
それは――リーナ=ハイエルとして、自らの手で自分の未来を切り開くためだ。
かつて自分の生家である「ハイエル家」の滅亡の契機となった兄の存在を恨み、その果てに魔書の力を得た彼女は、その手を血で染めながらも再び憎き兄と出会った。
だが、魔書の力、その本当の意味での恐ろしさを知らなかった彼女は、その強大な力に呑み込まれかける事態に陥った。
その危機から救い出したのは、憎悪の対象であったツグナだった。その後、ツグナの半生を聞かされ、自らも彼と同じ迷宮踏破を(強制的に)経験することでそれまで抱えていた恨みは収まりを見せた。
だが、その恨みは焦げ跡のように長らく彼女の心の片隅にこびり付いていた。
リーナの心の奥底に刻まれた「怨恨」。それを少しずつ洗い落とすかのように、彼女はツグナのレギオンの一員として行動を共にするようになる。
もちろんその目的が全てではない。かつてツグナの持つ魔書が暴走した際、彼女はリリアたちと共に暴走を食い止め、そこで魔書の持つ力の恐ろしさを現実として体感するとともに、彼の持つ心の弱さを垣間見ることで真正面から「兄」として向き合えることができた。
そして、今度は「妹として」の自分から脱却し、刻まれた焦げ付きをほぼほぼ洗い落とすために、獄炎竜――ルベライトリアとの勝負に挑んだのだ。
こうしてルベライトリアとの一戦を経て戦闘面だけではなく、自身の精神面においても成長したリーナは、新たな相棒――黒杖・顎の先を地面に突いて鳴らすと、深く息を吸い込んで自らの内に宿る魔力を練る。
そして、練り上げた魔力を、その口から紡いだ詠唱を鍵として発動させる。
「――来なさい、業火の狩人」
彼女の紡いだ言葉が空へと放たれると同時、ゼータの行く手を遮るように大地から炎の柱が噴き上がる。
赤々と燃える炎の柱がその勢いを弱めていくに従い、円柱形からその形が徐々に人型へと様変わりしていく。
「これは……圧巻だね」
思わず賞賛の言葉を送ってしまったゼータであったが、そう零してしまうのも無理はないだろう。
何せ彼女の前には緑色の瞳でこちらを見つめる、威風堂々たる姿の炎の魔人が立ち塞がっているのだから。
「――行きなさい」
カツン、と杖を鳴らして告げるリーナに、顕現した人型の炎は行動でもって応える。
「ガアアアアァァァッッ!!」
「チィッ! 自律型の炎の化身ですか! 見るまでもなく相性は最悪ですねっ!」
突っ込んでくるイフリートに、ゼータは不愉快さを露わにしつつも、両手を掲げて周囲に這わせていた太い枝を絡ませる。隙間なく編み込められたその枝は、さながら巨大な盾の如く突き進むイフリートの行く手を阻む。
「――ッ! ガアアアアァァァッ!」
だが、イフリートは「全てを薙ぎ倒す」とばかりに、目の前に現れた頑強な樹木の盾へ真っ直ぐに手を伸ばす。彼の手と盾が触れた瞬間、イフリートの持つ高温の炎が盾を灰に変える。
必死に枝を再生させ、盾の修復を試みるゼータであったが、イフリートの燃焼スピードは彼女の想像以上に速く、修復が追い付かなくなっている。
「クッ……やはり相性の悪さは覆せないですか。ならっ!」
形勢が不利と判断したゼータは、盾で防ぐこのを早々に放棄し、方針を切り替える。
(盾で防げるこのわずかな時間が勝負!)
前に突き出していた右手をスッと脇にずらしたゼータは、残った左手の操作で盾の再生を担いつつ、ズラした右手でパチンと指を弾く。
「ガアアアアァァァ!」
ゼータが指を鳴らしたその数分後、とうとうイフリートの炎が盾の再生を上回り、炎の狩人が再び前進する。
しかし、盾を乗り越えた先に待っていたのは――
「「「「「さて、これならどうかな?」」」」」
全く同じ姿をしたゼータが5人、横並びでイフリートを見つめていた。
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