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本編
第077話 魔煌石を巡る攻防(北の陣)⑤
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「幻影……と判断するのは早計でしょうね」
イフリートの後方から並ぶゼータを見たリーナは、わずかに余裕を取り戻した相手の表情からそう結論づける。
「あら、意外と冷静なのね? 普通は驚いて戦意を喪失するか、幻だとか言って虚勢を張るものなのだけれど」
並ぶ五体のマンイーター、そのうちの一体が微笑を湛えながらリーナの発言に反応を示す。
「そう? 私からすれば、5人に増えたところでやることは変わらないから別にどうでもいいのだけれど。それに、忘れたの? 貴女は所詮『喰人木』。その本質が植物である以上、イフリートとの相性は覆しようがない」
「……さぁ、それはどうかしら?」
もっともなリーナの指摘であったが、それを受けてもなおゼータの表情に変化は見られなかった。
「行きなさい」
余裕の態度を崩さない相手に、リーナは一瞬訝しむ表情を浮かべたものの、すぐに気を取り直してイフリートへ指示を飛ばす。
「ゴアアアアァァァッ!」
リーナの指示を受けたイフリートは、すぐに手近のゼータに接近し、その右手を彼女の顔に押し当てる。
灼熱の右手は瞬く間に相手の身体を炎に包み、数分と経たずに消し炭へと変えた。
――残るは四体。消し炭に変えた相手を一瞥したイフリートは、すぐにその瞳をまた別のゼータに移して
違和感に襲われる。
「なっ――!?」
その違和感は指示を出したリーナもまた抱いていた。
「「「「「ふふっ。気がついた…?」」」」」
そう。先ほどイフリートによって倒され、残るは四体になったはずのゼータであったが……
「5体に戻っている……?」
そう。このリーナの呟きが示す通り、減っているはずの相手の数が戻っていたのだ。
「あはははっ! 残念だったわね。確かに貴女のその人型の炎と私とは相性最悪の組み合わせであることは間違いない。けれど、所詮は一体。分体を作り出せる私の方が数では上よ。それに、分体とは言ってもそれは単なる傀儡ではない。それぞれが思考し、攻撃・防御・補助を担える。だから、こんなことも可能なの……よ!」
ゼータが言い終わるや否や、発言した個体とは別の二個体が太い枝をイフリートを迂回するように操作して挟み込む形でリーナへ直接攻撃を仕掛ける。
「チィッ!」
左右から襲い来る木の鞭に、リーナは舌打ちしながらステップを刻んで回避する。
「さあさあさあっ! チマチマと一体ずつ燃やす間、貴女自身は私の攻撃を耐え忍ぶことごできるかしら? 言っておくけれど、分体の生成はさほど時間はかからないわよ? それはさっきので理解してもらえたと思うけれど、ね!」
「くっ!?」
右下から切り上げるように放たれる木の鞭を、リーナは身体を捻ることで辛うじて躱す。その際、目算を誤ったのか、鞭が頬を擦り、わずかに血が滲んだ。
「あぁ……いいわぁ~、乙女の血って、どうしてこう唆られるのかしら。私の邪魔をしてくれた御礼も兼ねて、ゆっくりじっくり――嬲ってあげる」
「変態が……!」
ゾクゾクと恍惚の表情を浮かべてリーナを見ながら話すゼータに、彼女はギリッと奥歯を噛みながら短く言葉を返す。その間も次々と襲い来る鞭を「魔闘技」のスキルで向上させた身体能力で回避したり、手にする黒杖を用いながら受け流したりと奮闘するものの、攻撃に転じることは出来ず、戦いの趨勢は徐々に不利なものとなっていった。
「ほらほらほら! 先ほどまでの威勢はどうしたのかしら? 防戦一方で歯応えが無くなってきてるわよ!」
イフリートはリーナの指示通り、ゼータへ攻撃を仕掛けてはいる。だが、それを上回るスピードでゼータが分体の生成してしまうため、もはや焼け石に水の状態だ。
「君っ! ここは俺が――!」
じりじりと追い込まれていくリーナを見かねた萩が声をかけて助力を申し出る。
確かにこの状況下では動ける人員が多いことに越したことはない、ならば……とその申し出を受けるのが常識的な判断だろう。
しかしながら、黒杖を振るって襲い来る鞭を弾き返したリーナは、萩の方を一瞥することすらなく
「結構です。貴方が戦線に加わったところであの分体の生成を上回る攻撃を仕掛けられる見込みは無い。相手は5体と数そのものは少ないですが、非常に連携が取れている。攻撃の間隔がわずかでも開けば、即座に新たな分体が生成されるでしょうね」
「な、ならどうするんだ!? このままだとジリ貧だぞ!」
申し出を断られた萩は、驚きながらややキツい口調でリーナに問いただす。その言葉に、チラリとゼータの余裕そうな顔を垣間見た彼女は、
「そうですね……一体ずつ確実に燃やして潰すのが無理なら」
薙ぐように放たれた鞭を飛び退いて回避し、続く言葉を口にする。
「――全てを同時に燃やしてしまえばいい」
「……は?」
そのあまりに無茶苦茶なリーナの回答に、萩はポカンと呆けた顔を見せる。しかし、彼女は何も「破れかぶれ」でそのような答えを出したワケではない。
「――イフリート、炎型変換」
紡がれたリーナの言葉に、イフリートのその緑色の瞳がキラリと光を帯びる。
「――竜ノ型」
カツン、と黒杖を鳴らして告げられた言葉を契機に、イフリートを中心とした炎柱が噴き上がる。
やがてその噴き上がる炎が収まった時、
「ギィアアアアアアアアアァァァッッッ!」
夜空に炎の竜が姿を現し、地を揺るがす咆哮を上げた。
イフリートの後方から並ぶゼータを見たリーナは、わずかに余裕を取り戻した相手の表情からそう結論づける。
「あら、意外と冷静なのね? 普通は驚いて戦意を喪失するか、幻だとか言って虚勢を張るものなのだけれど」
並ぶ五体のマンイーター、そのうちの一体が微笑を湛えながらリーナの発言に反応を示す。
「そう? 私からすれば、5人に増えたところでやることは変わらないから別にどうでもいいのだけれど。それに、忘れたの? 貴女は所詮『喰人木』。その本質が植物である以上、イフリートとの相性は覆しようがない」
「……さぁ、それはどうかしら?」
もっともなリーナの指摘であったが、それを受けてもなおゼータの表情に変化は見られなかった。
「行きなさい」
余裕の態度を崩さない相手に、リーナは一瞬訝しむ表情を浮かべたものの、すぐに気を取り直してイフリートへ指示を飛ばす。
「ゴアアアアァァァッ!」
リーナの指示を受けたイフリートは、すぐに手近のゼータに接近し、その右手を彼女の顔に押し当てる。
灼熱の右手は瞬く間に相手の身体を炎に包み、数分と経たずに消し炭へと変えた。
――残るは四体。消し炭に変えた相手を一瞥したイフリートは、すぐにその瞳をまた別のゼータに移して
違和感に襲われる。
「なっ――!?」
その違和感は指示を出したリーナもまた抱いていた。
「「「「「ふふっ。気がついた…?」」」」」
そう。先ほどイフリートによって倒され、残るは四体になったはずのゼータであったが……
「5体に戻っている……?」
そう。このリーナの呟きが示す通り、減っているはずの相手の数が戻っていたのだ。
「あはははっ! 残念だったわね。確かに貴女のその人型の炎と私とは相性最悪の組み合わせであることは間違いない。けれど、所詮は一体。分体を作り出せる私の方が数では上よ。それに、分体とは言ってもそれは単なる傀儡ではない。それぞれが思考し、攻撃・防御・補助を担える。だから、こんなことも可能なの……よ!」
ゼータが言い終わるや否や、発言した個体とは別の二個体が太い枝をイフリートを迂回するように操作して挟み込む形でリーナへ直接攻撃を仕掛ける。
「チィッ!」
左右から襲い来る木の鞭に、リーナは舌打ちしながらステップを刻んで回避する。
「さあさあさあっ! チマチマと一体ずつ燃やす間、貴女自身は私の攻撃を耐え忍ぶことごできるかしら? 言っておくけれど、分体の生成はさほど時間はかからないわよ? それはさっきので理解してもらえたと思うけれど、ね!」
「くっ!?」
右下から切り上げるように放たれる木の鞭を、リーナは身体を捻ることで辛うじて躱す。その際、目算を誤ったのか、鞭が頬を擦り、わずかに血が滲んだ。
「あぁ……いいわぁ~、乙女の血って、どうしてこう唆られるのかしら。私の邪魔をしてくれた御礼も兼ねて、ゆっくりじっくり――嬲ってあげる」
「変態が……!」
ゾクゾクと恍惚の表情を浮かべてリーナを見ながら話すゼータに、彼女はギリッと奥歯を噛みながら短く言葉を返す。その間も次々と襲い来る鞭を「魔闘技」のスキルで向上させた身体能力で回避したり、手にする黒杖を用いながら受け流したりと奮闘するものの、攻撃に転じることは出来ず、戦いの趨勢は徐々に不利なものとなっていった。
「ほらほらほら! 先ほどまでの威勢はどうしたのかしら? 防戦一方で歯応えが無くなってきてるわよ!」
イフリートはリーナの指示通り、ゼータへ攻撃を仕掛けてはいる。だが、それを上回るスピードでゼータが分体の生成してしまうため、もはや焼け石に水の状態だ。
「君っ! ここは俺が――!」
じりじりと追い込まれていくリーナを見かねた萩が声をかけて助力を申し出る。
確かにこの状況下では動ける人員が多いことに越したことはない、ならば……とその申し出を受けるのが常識的な判断だろう。
しかしながら、黒杖を振るって襲い来る鞭を弾き返したリーナは、萩の方を一瞥することすらなく
「結構です。貴方が戦線に加わったところであの分体の生成を上回る攻撃を仕掛けられる見込みは無い。相手は5体と数そのものは少ないですが、非常に連携が取れている。攻撃の間隔がわずかでも開けば、即座に新たな分体が生成されるでしょうね」
「な、ならどうするんだ!? このままだとジリ貧だぞ!」
申し出を断られた萩は、驚きながらややキツい口調でリーナに問いただす。その言葉に、チラリとゼータの余裕そうな顔を垣間見た彼女は、
「そうですね……一体ずつ確実に燃やして潰すのが無理なら」
薙ぐように放たれた鞭を飛び退いて回避し、続く言葉を口にする。
「――全てを同時に燃やしてしまえばいい」
「……は?」
そのあまりに無茶苦茶なリーナの回答に、萩はポカンと呆けた顔を見せる。しかし、彼女は何も「破れかぶれ」でそのような答えを出したワケではない。
「――イフリート、炎型変換」
紡がれたリーナの言葉に、イフリートのその緑色の瞳がキラリと光を帯びる。
「――竜ノ型」
カツン、と黒杖を鳴らして告げられた言葉を契機に、イフリートを中心とした炎柱が噴き上がる。
やがてその噴き上がる炎が収まった時、
「ギィアアアアアアアアアァァァッッッ!」
夜空に炎の竜が姿を現し、地を揺るがす咆哮を上げた。
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