大人の女性の為の絵本『どうか、私を忘れてください。』

出されなかった手紙②

　私が中学生になったばかりの頃のことです。

母と二人で家にいる時でした。

♪ピンポーン

　「悪い、出てくれる？」
母は食器洗いの最中らしく、手を洗剤の泡のまま、私に向かって言いました。

　「は～い」
と、玄関を開けると、郵便配達のお兄さんが手に白い紙を持って、立っていました。

お兄さんは、すまなそうに、

　「どこかで剥がれちゃったのかなぁ、切手…」

見せてくれた白い封筒、右下には綺麗な薄紫色のアサガオが描かれていました。

そして、左上の切手が貼られるはずの位置には、切手が見当たりません。

　「あー、それ、すみません！」
母が奥から出て来ました。

私の代わりに白い封筒を受け取ると、
　「また貼って、投函し直します」


　お兄さんが帰ると、母はその封筒を抱きしめて、
「良かった～」
と、安堵の声をあげました。

　私は、てっきり郵便局のはからいにより、
封筒を受け取る相手に失礼にならなかった…という安堵感なのかな？…と、
ずっと思っていました。

　今になってみて、その考えは違っていたことに気付きました。