仙年恋慕

鴨セイロ

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1章

20.訓練所にて

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「雷よ! 我が意に応え敵を撃て!」

 俺の放った茨の様な稲妻が、地面を跳ねてエドに襲い掛かる。

「フッ」

 ソレを口の端で笑ったエドの拳が一瞬、茜色に光った。
 エドがその拳で稲妻を殴りつけると、バチンッと言う派手な音と光と共に稲妻は霧散した。
 おそらく、炎の精霊あたりを無詠唱召喚して拳にその力を纏わせ相殺させたのだろう。相変わらずのチート男だ。

「でもっ」

 雷の魔法を放った直後、その軌跡を追うように走りエドとの距離を詰めていた俺の打神鞭だしんべんが唸る。

「っ破!」

 稲妻を消し去った直後の、右ストレートを打ったそのガラ空きのエドのワキに俺は打神鞭を振り抜い――


「――へっ!?」


「イオりん、ワキがガラ空き」

 耳元で囁かれた。

 エドは振り抜いていたはずの右腕をそのまま返し刀の様にして、俺の打神鞭を握った手首ごと掴み上げたのだ。

「ゔっ――」

 次の瞬間、腕を掴み上げられた俺はガラ空きの腹にブローをくらって吹っ飛び、結界の壁に打ち付けられた。
 しけし、結界がスプリングのよく効いたベッドのように俺を受け止めてくれた為、結界にぶつかったダメージはほぼ無い。

 俺はそのままポーンと結界から跳ね返り、地面に落ちながら思う。

 結界に柔軟性をつけてくれた設備系の魔導士さん、本当にありがとう……

 そして俺はべしゃりと無様に地面に落ちた。

「……つーか。何だよその反射神経おかしいだろ!」

 地面に大の字で転がる俺のクレームが訓練場に空しく響く。
 王都からマーナムに帰って来て数日後、俺たちは空き時間を対人模擬戦に充てていた。


 ***


 ここはマーナムギルドが所有する訓練場で、街の中心より少し外れた、やや辺鄙な場所に位置する。

 広さはテニスコート六面分くらいだろうか、かなり広い屋根付きのドームで内部はグラウンドの様な整備された地面になっており、強力な結界で四分割にされていて、一度に四組までが魔法の修行や、模擬戦などに使用する事が出来る。
 そんな感じで、今日は俺たち以外にもう一組が、お隣の結界でドンパチと攻撃魔法の修行をしている様だった。

「はぁー、今日もエドに一発も入れられなかった」

「もぉ、そんなのは今に始まった事じゃないでしょ~」

 地面に座ったまま肩を落とす俺を、メイリンが襟首を引っ張り上げ猫掴みの要領で立たせてくれる。
 もう少し優しくして欲しいモノだが文句は言えない。
 そして、十数メートル吹っ飛んだ割にダメージがないのは、身体強化と結界の柔軟性のおかげもあるが、何よりエドが手加減をしてくれたからであろう。

「ははっ イオの戦術は分かりやす過ぎて潰し甲斐がないんだよなぁ、モンスター相手ならまぁ及第点でもいいがA級昇級試験からは対人戦もあるからな、もう少しひねった戦術を考えた方が良いぞ」

 エドは言いながら俺の傍まで歩いて来て怪我の有無を確認し、ブローが入っておそらく服の下がアザになっているだろう脇腹と、いつの間にか出来た腕の擦り傷を目ざとく見つけて回復魔法で治療する。
 擦り傷くらい自分の治癒術でも治せるのだが、いつもの事なので俺はされるがまま会話を続ける。

「そうは言っても、今のスピードと間合いで反撃できる奴なんかそう居ないからな」

 振りの大きい右ストレート打った直後なんて、隙が出来るのが普通なのだ。
 それを打たせるために魔法でフェイントを仕掛けたのに、非常識な運動神経を持つエドには歯が立たなかった。

「確かに今のは私でも反応できなかったと思うにゃ~」

「そうか? でもS級クラスならこれくらいは……」

「いや、俺にはS級とか無理だしなので!」

「わかりみ~、S級ハンターとか殆どバケモンだもんね」

 俺はエドにみなまで言わせず、加勢してくれたメイリンの弁に「うんうん」とここぞとばかりに頷く。
 一気に二対一になった劣勢のエドが、ちょっとむくれたのを見て俺の溜飲が下がる。

「兎に角だ、しばらく俺は自分のS級試験の準備に身を入れるから、イオもA級試験の準備ちゃんとしておけよ? 次の試験にはハンター年数も足りてんだから」

「う゛っ」

 そう、ハンターの等級はB級までは実績のみで上がるシステムなのだが、A級以上への昇級には実績以外に、筆記試験と、主に人が敵となる要人警護の依頼も受注できる様になるため、対人戦での実力を測る。
 対人戦はエドと言う格上が身近にいたおかげで年がら年中、今日の様に模擬戦をしてもらい多少は自信があるのだが、筆記試験はとにかく範囲が膨大でテキストを見るだけでやる気が失せるのだ。
 とは言え、頑張らないとまたテオにまだB級程度なんですか? などと言われるのは目に見えている。

「「う゛っ」っじゃない。この浮かれポンチ猫娘だって受かったんだぞ! イオだって絶対受かる!」

「にゃっは~、メイちゃんやれば出来る子なので一発合格でした~」

 熱血教師モードのエド横でニヤけながらダブルピースを決めるメイリンを、劣等感からくるいじけた気持ちで俺はちょっと睨む。

「ぐぬぅ……、獣人や古代種って身体能力以外の、頭の造りとかも人間より良いんじゃないか?」

「んー、脳の造りはそこまで大差ないが……確かに使用領域には差があるらしい。魔法制御や運動能力の俺たちと人間との差は、そこら辺からも出ているんじゃないかって言われてる。しかし逆に言えば、イオは仙人で普通の人間のレベルは多方面でとっくに超えているのだから、俺たちと脳の使用領域は大差ないと言う事になるはずだな」

 聞いていない事まで説明してくれたエドは、考えるポーズを取りながら俺を片目でチラリと見る。

「つまり、このハーフエルフのお兄さんはね、イオりんが筆記合格しなかったらそりゃただの怠慢ですよねぇって言ってるわけですよ」

 エドの話、難しくて分からなかったなぁ~。って感じで流そうと思ったのにメイリンが単純明快に意訳してくれてしまう。

「うぅ、余計な事など聞かなきゃよかった……」

「俺も頑張るからお前も頑張れよって」

 そう言ってエドは、項垂れた俺の頭をポンポンと撫でる。
 エドの方が超難関のS級の筆記試験の勉強をしなきゃならないのに、全然余裕そうなのが何か癪だ。

「取りあえずさぁ、今日のとこはお開きにして夕飯にしよ~」

 俺の前にエドと模擬戦をしたメイリンは、身体動かしたらお腹減ったにゃ~と背中を丸める。

「だな、イオは何食べたい?」

「……おにく」

「よーし! 肉だな、今日は俺の奢りだから腹一杯に食えよ!」

 試験勉強に心を痛めションボリと答えれば、苦笑したエドから嬉しい言葉が飛び出した。

「マジか!?」

 奢りの言葉に泣いたカラスがなんとやら、俺はぱっと顔を上げた。

「あぁ、今日は良い肉をたらふく食いに行くぞ!」

「にゃったー、エドっち大好きー!」

 俺は頭突きの勢いで、喜びのままエドの胸にドーンと抱きついた。

 いや~、人の金で食う肉はどんな世界だろうが、きっと不変的に美味しいモノの一つだと思うね! 俺は!

「おいごらイオりん! 何しれっと雑な私の真似しとんじゃい! エドっちも顔! だらしなくなってんぞ!」

「ダッ、ダラシナクナンカ!」

 メイリンのツッコミに棒読みで返すエドを不思議に思いつつ、その筋肉質でミシッと引き締まった腰をぎゅうぎゅう抱きしめていた手を緩めその顔を見上げれば……あれ?

「ちょっエド、顔赤いぞ! 熱でもあるんじゃーー」

 ーードッ ゴゥゥゥゥン!!

 俺がエドの額に手を伸ばそうとした瞬間、お隣の結界から派手目な轟音が響いた。

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