仙年恋慕

鴨セイロ

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1章

39.ルーイとエド sideエドヴァルド

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 去りゆくイオの栗色の後ろ頭は、あっという間に人ごみに消えた。

「……そういう訳ってなんだよ」

 呆気にとられたまま突っ立っていると、何処そこに行きたいだの好き勝手に話しながらサティ―リアが俺の腕を引く。その腕を払おうとした所で、ギルドの中から見覚えのある男が出てきた。

「「あ」」

 男と目が合い、思わず出た両者の声がハモる。

「君はいつかのハーフエルフ君だよね! イオリから噂はかねがね。って、お邪魔しちゃったかな?」

 人好きのする笑顔で勢いよく話しかけてきた男は、春先の掃討作戦時にイオリにちょっかいをかけて来た犬獣人の餓狼族だ。
 餓狼族の男は、俺の腕にくっついたままのサティーリアに気が付くと器用に片眉をあげて見せた。

「ちっともお邪魔じゃない。何なら譲るぞ? 俺はエド、エドヴァルドだ」

「いや、謹んで辞退するよ。僕はルーイ、ただのルーイさ」

 簡単な自己紹介と握手をしながら、そのにこやかな顔を見れば、相変わらずまずまずの男前である。

「んもぉ! エド君、早く行こうよ!」

 俺とルーイの会話に若干ムッとしながら、それでもサティーリアは俺の腕をグイグイ引っ張り連れ出そうとする。

「いや、何度も言ったと思うけど俺はサティと付き合う気は無いし、こう言うのは二度とやめーー」

「あっ、ダニエラたちだ!」

 俺が今後の誘い全てに対しての断りを述べている途中で、ちょうど知り合いが通りかかったらしいサティ―リアは「今日は見逃してあげるけど、今度は美味しいご飯とお酒を奢ってよね」などと言い残し、仲間の女の子たちと共に街に繰り出して行った。

「うーん、綺麗な子だけど、ちょっとマイペースと言うか自己中心的と言うか、君も苦労してるみたいだね」

 サティーリアを俺の横で見送っていたルーイは、同情的な視線を寄越す。
 犬獣人は優れた嗅覚によって相手の内面をいくらか測れると言うが、この男はその中でも上位種の餓狼族であるから、サティーリアの本質の様なモノが何か見えているのかもしれない。

「ところでエド、イオリを見なかったかい? 怪我をしたと共通の友人から連絡があって、ギルドに寄ってみたんだけど診療所にはもう居なくて……入れ違っちゃったかな」

「あー、イオならさっきシリトって人間のハンターと帰ったぞ。怪我は大丈夫そうだった」

「そっか、無事ならいいんだ。教えてくれてありがとう」

 この男がギルドから出て来た時点で、されるだろうと予想していた質問に俺が答えると、ルーイはあっさりと頷き俺に礼を言い人の良さそうな笑みをこちらに向ける。
 その裏表の無さそうな顔に、俺はなるべく他意がこもらぬ様に尋ねてみた。

「……なぁ、ルーイ。イオが昇級試験受けないって話し聞いてるか?」

「へっ!? そうなのかい? この前一緒に依頼に出た時は、移動中の馬車で参考書を読んでいたけどな」

 ルーイは目を見開き分かりやすく驚く。
 どうにもこいつは、犬獣人によくいる感情が出やすいタイプのようだ。

 しかしなるほど、イオの気持ちが変わったのは本当に昨日今日と言うことか。
 となると、やはり今日の怪我で自信を無くしたのが一番の理由の様だが、モゴモゴと言いにくそうに『それだけじゃないけどさ』と言っていた事が気になる。が、結局のところイオが自分の意思で決めたことならば、俺がとやかく言う筋合いはない。

 だが、それにしたって結論を出す前に少しくらい相談してくれても良いんじゃないか? 

 俺がこっそりとため息を零していると「あっ、もしかして」と、ルーイが声をあげる。

「ん、どうした?」

 お愛想でその声に合いの手を入れると、ルーイは少し照れたように口を開いた。

「うん。この前僕さ、イオリにプロポーズしたんだけど、もしかしたらその辺が関係しているのかもって」

「へー、ルーイがイオにプロポーズねぇ。ぷろぽ……、ぷ?」

 いやいやいや、待て待て待て! こいつは今、何と言った!?

「そっかー、もし僕のプロポーズがイオリの試験の邪魔しちゃったのなら申し訳なかったな。でも、それって結構前向きに僕との事を検討して悩んでるってことかな? わー! 嬉しいなぁ!」

 俺はギギギギと首を動かし、頬を染めて浮かれる犬獣人の顔をまじまじと見つめる。

「どうしたのエド、ハンサム顔が台無しだけど大丈夫かい?」

 先程からさらりと繰り出される単語に固まる俺を、ルーイはおかしそうに笑いながら続ける。

「あっそう言えば、君がイオリの彼氏だと言うのも嘘だって聞いたよ。まったく、僕としたことがまんまと騙されたものさ、いやー嗅覚に頼りすぎるのは良くないね」

「ちょっ、ちょっと待て! なっ、なんか今、プロポーズって聞こえたけど、プップロポーズって、あのプロポーズだよな?」

 嘘の件はメイリンからイオ自身がバラしたと定期報告で聞いていたのでスルーしつつ、俺は聞き捨てならない単語を、隠し切れない動揺で噛みまくりながら確認する。

「あのプロポーズも何も、そのプロポーズで合ってると思うよ?」

 俺の動揺をよそにルーイはしれっと答える。

「おっ、お前がイオに……きゅっ、求婚したってことか?」

 その両の肩にそっと手を置き恐る恐る尋ねると、ルーイはあっけらかんと「そうだよ?」と首をかしげる。自分と同じくらいのサイズ感の男がそれをやっても全く可愛くない! が、今はそんな事どうでも良い!

「きっ聞いてない、俺は聞いてない! と言うかだな、だいたい付き合ってもないくせにイキナリそんな求婚とかっ、お前っ、ちょっと常識なく無いか? つーか、なんでイキナリそんな事になってんだよぉぉぉ!」

 俺はルーイの肩を勢いよく揺さぶりながら言い募る。

「えー、僕がイオリを大好きだから問題ないだろ? それにこれは僕とイオリの間の話で、いちいち君に報告する義務なんて僕にもイオリにも無いよね?」

「ぐぬっ」

 がくんがくん揺さぶられながらも、ニッコリと微笑み放たれる言葉。
 それはまったくもって正論で、俺に反論の余地はない。だがしかし、こいつはきっと――

「そんな苦虫噛み潰したみたいな顔されてもなぁ、確かに僕には君の気持ちがどこに向いてるかくらい、あの馬車で言葉を交わした時から嗅ぎ取っていたけど、何故か君はイオリに手を出してなかったみたいだし? 今の今までイオリに告白の一つもしなかったんだろ?」

 ほら、俺の内情など当然の如く気がついていたのだ! これだから犬獣人って奴は!

「そっそれは、イオが自分の気持ちに気づくのを待っていてだな――」

「だとしても、いや、だからこそかな。……とにかく、僕には君に気を回す義理もメリットも必要性も無いだろ? 僕もイオリもお互いフリーな訳だしね」

 俺の手から逃れ、乱れた髪を直しながら話すルーイの言葉には、一欠けらの悪意も悪気も無い。
 むしろ、お互いに相手がいないのを確認してから行動を起こしたのなら、複数恋愛が一般的な獣人としては誠実と言える。

「それにね、君はイオリの恋人でもなんでも無いのだから、僕に苦情を言うのは筋違いじゃないかな?」

「――っ」

 続けて言われたその言葉に、今度こそ俺は沈黙した。
 ルーイの言う通りだからだ。

 出会ってからイオは特定の相手を作ろうとした試しがなく、こいつはそういう奴なんだと漠然と思っていた。しかし、そんなのはイオの気持ち一つの問題で、欲しいと思えば恋人の一人や二人すぐに作れたのだ。そんな簡単な事に俺は今更ながら思い至る。

 あの時、俺を意識しているように見えたのは都合のいい勘違いだったのだろうか。
 イオは、ルーイに何と返事をするだろうか。

 もしイオがルーイのプロポーズを受けたらと、気が気でない俺の目の前で「まぁイオリってちょっと自分の魅力に気が付いてない所あるだろ。だから心配でさ、確実に勝負を決めたいなーって、少し急いちゃったのは認めるけどね」などと言いながらルーイがウィンクを飛ばす。そんな浮かれる犬獣人に対し、俺の何かがプチっと切れた。

「……ら……ろ」

「ん? 何だい聞こえなかったよ」

 無防備にキョトン顔をこちらにに向けるルーイ。
 以前イオが見惚れていたその男前なツラの付いた頭に、俺は流れる様な動作でヘッドロックを掛け――

「振られろぉぉぉ! お前なんかイオに振られてしまえぇぇぇ!」

「あはははは、エドは面白いなぁ。でも僕は元より一回や二回くらい振られる覚悟さ」

 俺にヘッドロックを掛けられたまま、ルーイは愉快だと言わんばかりに笑う。
 先ほどからのやり取りで、俺は何となくこのルーイと言う男を嫌な方に理解してしまった。

 クソッ、こいつ十中八九良い奴じゃねーか!
 絶対イオだって気づいてるよな? 俺が気持ちを伝える前にこいつに惚れたりしないよな?

 不安に駆られ、一瞬緩んだ俺の腕から逃れながらルーイは「式には呼ぶから来てくれよ」などと戯言をぬかしたため、俺は更に質の高い関節技を決めるべく腕を伸ばすが、流石に二度目は簡単に捕まらず、傾いていた太陽が完全に落ちても俺たちの不毛な諍いは続いたのであった。
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