悪魔三題

中原 匠

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世界は滅ぶのを待っている

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 前触れも無く攻め入ってきた隣国の兵が放った火は、暗い夜空を赤く染めていた。

 騒乱の中。王である父や、母や兄弟の安否も分らぬまま、末の姫は古びた高い塔の上に居た。

 以前、国を護る魔術師が棲んでいたと言われるこの塔には、消える事無く闇を照らすランタンと、壁一面の書架に並ぶ魔術書と魔道具の類が残っていた。

 奥の石畳の床に薄ぼんやりと見えるのは、円と図形と文字を組み合わせて書かれた魔法陣。
 悪魔を呼び出せると言われていた。

 何事も無かった平穏な日々。
 変り者と揶揄される末の姫は、ここに置き去られた魔術書を戯れに読んでいた。
 その時には信じていなかった『悪魔召喚』の呪文を、今は躊躇無く唱える。
 赤く、眩いばかりに魔法陣が光り始め、ひとつの形を作り出す。
 
 それは見る間に白皙の額をした青年の姿となった。

『俺を呼んだのは、アンタか?』

 形の良い唇から紡がれる声は甘く、優しい。

『用はなんだ?』

「こんな世界、滅ぼして」

『そんな事か』

 ふわりと立ち上がった悪魔の左耳の装飾が、キラキラと光りを弾き綺麗だった。

 長身でかっちりとした軍服に身を包んだその姿は、魔物というよりは騎士のようだ。

「お前は本当に悪魔なのか?」

『もちろん』

 笑みを形作る唇から、白い八重歯が覗いた。断じて牙などと言う恐ろしい物では無い。

 左袖にあるリボンを撫ぜるように右手を動かすと、その形の良い長い指には細身の剣が握られていた。

『そぉら!』

 軽く振ったようにしか見えなかった剣の軌跡に添うように塔の壁が崩れ、眼下に広がるのは燃え盛る炎。

「嗚呼…」

 夜空を焦がす勢いの炎は、この城を囲む街を焼き、野を焼き尽くし、更に隣国へと広がっていた。

『俺がやるまでも無い』

 悪魔の優しい声が聞こえる。

『この世界はいつも、滅ぶ事を望んでいるのさ』


 そう言うと、白皙の悪魔は蕩ける様な笑みを残して、姿を消したのだった。




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