灰汁

ヲカカ

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灰汁・1「痴」

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 結局の所、人間っていうのは脆い。隠した弱みや忘れたはずの悪しき思い出なんかに精神を削ぎ。其れこそ、一生の傷っていうのを背負っていく。
 人間という生き物は非常に脆く、儚くあるのだろう。
 これは、弱みや悪しき思い出。所謂、人間の灰汁になっている話なのかも知れない。

 少年は今猛烈な辱めを受けていた。否、問題は自分にあるのだから、受けていたというのも相手の悪意に晒されたというよりも、因果報応というのが正しいのである。
 だが、その時の少年の感情とすれば、羞恥心と怒り。そして、ほんの少しの自殺欲求だった。その感情が相手に伝わっているのかと問うのならば、羞恥心位しか伝わってないのは傍から見れば、分かることだった。
 放課後の教室、少年と少女達。
 女子生徒の机に置かれた涎の付いたリコーダーと少年を取り囲み罵声を上げる少女たち、泣く少女。
「本当に気持ち悪いわね。」
「ねえ、河野さん。泣いちゃったのよ。もう二度と河野さんに近づかないで!!」
「気色悪いこっち見ないで!!」
など様々な罵詈雑言が少年に浴びせられる。
 もう察しった人もいるかも知れないが、少年は河野さんという少女のリコーダーを舐めていた所を見られたのだ。因みにだが、この行為はもう半年も前から続いていて回数を熟すことから来る安心感、注意力の低下による発見とは流石の女の感とやらにも引っかからなかったらしい。(筆者は何度もやっていた事には気づかれていないと伝えたい)
「ご、ごめん。もうしないよ。」
少年は必死に謝る。必死さがかえって少女たちの嗜虐心や好奇心に火をつけてしまったのだ。
「あんた、今日からリコーダー舐め男ね。」
「良いね~。サキちゃん。」
「先生に言っちゃお~!!」
 しかも、道徳心の「ど」の字も知らないような小学生である。(道徳心も知らないのに、性的な思考にはしる少年はある意味大人びていたのかも知れないが)限度というものはないに等しい。少年は赤子の様に泣き出した。
 もし此処に先生が来たら女児に虐められる男児と云う構図に見えたことであろう。其れほどまでに少年は被害者のような泣き方をしていたし、少女たちは面白がっていた。
 是迄の事は小学3年の夏に起きたことである。悲劇と云うには小さすぎるが、この出来事は加害者の少年にも、被害者の少女にも影響する事件だったのだ。

 時は経ち、もう一年が経とうとした。少年がリコーダーを舐めたと云う話は瞬く間に知れ渡った。その学校で知らないものはいないと云った具合に。少年は勿論色々な奇異の目線を受け、学校中の女子生徒から俗悪であると認知された。少年は女子生徒の敵という立場に甘んずるしかなかった。
 被害者と加害者の容貌が少しばかり変化した。
 少年は自尊心を失い酷く暗く例えるなら宿無しの様に、(少年の友は皆離れていったのだから、精神的には宿無しと云うより「友無し」)これは現代で云うボッチ等とは毛色が違う。意図的に女子生徒から絡まれるからだ。云うなれば、嗜虐女児の格好の餌。先生も薄々少年や少年に対する周りの変化に気づいていたはずだが、無干渉を貫いていた。
 少女は始め男は皆、醜悪という考えになっていたが、周囲の鼓舞や女子生徒からの後押しによりこの一年で改善され、男子を一括に見ることはなくなっていた。(まあ、加害者の少年を許す気は毛頭なかったが)
 各々の変貌ぶりを感じていたのは何も学校の者だけではない。少年の母親は元来少年は活発に笑顔を見せる子と云うのが理解っていたので、笑顔の消失を奇妙に感じ取っていた。少女の母親は元来少女は性別関係なく関わる娘と云うのが理解っていたので、男子への恐怖心を感じ取っていた。
 父親は理解しようなど微塵も思っていなかったし、元々変貌ぶりに気付いていなかった。仕事が忙しく関わる機会が少ないと云う背景があるとだけは云っておこう。どのような背景にしろ、女の勘とやらは確かにこの時作動していた。
 一応保護者面談と云うもので少年の母親は、担任に「息子が馴染めるようになにかして頂けないでしょうか。」と云ったが全くといって良い程母親の意に添う様な対応はされなかった。
 結果として少年は学校で一番孤弱になった。
 因果報応という言葉通り、人にやったことは返ってくるのだ。同じ様な形としていなくても。昔、お婆さんからよく云われたのではないだろうか。「御天道様は見てるよ」とある意味核心を突いた言葉なのかも知れない。
 この出来事を通して少年の人生が左右されていくのは後日談として語ろうと思う。
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